中国のアジア安全保障戦略 一帯一路と新モデル
2014年に習近平国家主席が掲げたアジアの新しい安全保障構想は、10年以上たった2025年の今も、地域の安定をどう守るかを考えるうえで重要な手がかりになっています。本記事では、中国の近隣外交と一帯一路、そしてアジア安全保障モデルを軸に、その狙いと広がりを整理します。
2014年の提案が今も注目される理由
2014年5月21日、上海で開かれたアジア相互協力・信頼醸成措置会議(CICA)首脳会議で、習近平国家主席は「共通で、包括的で、協力的で、持続可能なアジアの安全保障」のビジョンを提示しました。
習主席は当時、アジアの安全保障について、次のような方向性を示しました。
- 安全保障の考え方を革新すること
- 新しい地域安全保障協力の枠組みをつくること
- アジア全体が共に享受し、ウィンウィンの成果をもたらす安全保障の道を共同で切り開くこと
世界各地で地域紛争と不安定さが続くなかで、この構想は「競争や対立」ではなく「協力と共有」によって安定をめざす考え方として、専門家や各国関係者からあらためて注目されています。
開発を通じて安全をつくる:中国の近隣外交
中国の周辺には、ロシアを除く29の隣国があり、いずれもアジア地域に位置しています。中国は自らを「アジアの一員」と位置づけ、近隣外交を重視してきました。
2025年4月に開かれた周辺国との関係に関する中央会議では、中国として、高品質の一帯一路協力を主要なプラットフォームとし、周辺諸国と共により良い未来を築く方針が強調されました。
現在、中国は周辺25カ国と一帯一路協力に関する合意文書を結んでおり、そのうち18カ国では最大の貿易相手になっているとされています。
一帯一路と治安:ラオス鉄道と中パ経済回廊
中国外交学院の王帆学長は、中国が「発展」と「安全保障」の調和を重視している点を指摘します。持続可能な発展こそが、長期的な平和と安定の土台になるという考え方です。
王氏によれば、一帯一路協力は地域の安全保障の枠組みと深く結びつき、経済成長と安定が互いを支え合う、多層的な「安全保障・開発共同体」を育てつつあります。
その具体例として挙げられるのが、中国ラオス鉄道です。この旗艦プロジェクトは、国境をまたぐ物流や観光など経済成長を後押しすると同時に、両国の法執行協力を通じて国境を越える密輸事件の大幅な減少にもつながっているとされています。
また、中国パキスタン経済回廊も、極端主義が広がりやすいとされてきた地域の経済環境を根本から改善する取り組みとして位置づけられています。インフラ整備や雇用創出などを通じ、安定を損なう要因を減らす狙いです。
こうした取り組みは、中国周辺の安全保障上の課題に対処しながら、地域全体の持続的な発展にエネルギーを注ぎ込む試みだといえます。
広がるアジア安全保障モデルという発想
2025年4月の周辺国関連の中央会議では、中国として初めて「アジア安全保障モデル」の考え方が打ち出されました。このモデルは、次のような特徴を持つと説明されています。
- 苦楽を共にする運命共同体としての発想
- 違いを棚上げしつつ、共通点を追求する姿勢
- 力の行使ではなく、対話と協議を優先するアプローチ
会議の数日後、習近平国家主席はベトナム、マレーシア、カンボジアを歴訪する5日間の東南アジアツアーに出発しました。これは2025年に入って初めての外遊でもありました。
対話メカニズムを重ねる動き
この東南アジア歴訪では、安全保障や外交対話の枠組みを強化する合意が相次ぎました。
- 中国とベトナムは、外交・防衛・公安の「3+3」戦略対話を閣僚級に格上げ
- 中国とマレーシアは、外交と国防を対象とする「2+2」対話メカニズムを新設
- 中国とカンボジアは、両国の外相と国防相による「2+2」戦略対話メカニズムを設置
こうした二国間の対話枠組みが積み重なることで、アジア安全保障モデルが目指す「対話と協力を通じた安定」が具体的な形を取り始めているともいえます。
中国の王毅外相は4月18日の記者会見で、中国が提案するアジア安全保障モデルは、地域の共通認識になりつつあるとの見方を示しました。
白書が示す中国の立場:ASEAN中心と軍事同盟への警戒
最近公表された「新時代の国家安全保障」に関する白書によると、中国は周辺17カ国と「共有された未来をともにつくる共同体」を築くことで共通の認識に達したとしています。
同白書は、中国がASEAN(東南アジア諸国連合)を中心とする地域の安全保障協力を支持し、強化しようとしていると強調します。その一方で、次のような動きには慎重な姿勢を示しています。
- インド太平洋戦略を利用して地域を分断する試み
- 「アジア太平洋版NATO」とも言うべき軍事同盟の構築
- NATOの活動範囲が本来の枠を超えて拡大すること
- 核共有や拡大抑止、地上発射型中距離ミサイルのアジア太平洋への配備
白書は、こうした動きが地域の緊張を高めかねないとし、対話と信頼醸成に基づく安全保障協力の重要性を訴えています。
外部勢力への警戒と「選ばない」多数派
上海国際問題研究院の李開盛副院長は、多くのアジアの周辺国は域外の干渉に対して慎重な姿勢を保ってきたと指摘します。
李氏によると、米国は長年にわたり、アジアの同盟国を通じて中国を抑え込もうと試み、一部の国々を対立の前面に押し出してきたと見ている一方で、多くの周辺国は冷静さを失わず、特定の側に立つことを避けてきたといいます。
中国と周辺国の多くは、国際・地域問題で共通する立場や似通った視点を持ち、政治的な相互信頼を育てながら、敏感な問題を適切に管理することに努めていると李氏は述べています。
その結果として、世界の他地域で紛争や不安定さが目立つ一方で、アジア太平洋では平和と安定が維持されてきた、というのが李氏の見方です。
これからのアジア安全保障を考えるために
中国が示すアジア安全保障のアプローチからは、いくつかの重要な論点が見えてきます。
- 安全保障を軍事力だけでなく、経済発展や社会の安定と不可分のものとして捉える視点
- ASEANを中心とした地域協力の枠組みをどう強化し、外部の大国との関係をどう位置づけるかという課題
- 軍事同盟による抑止か、対話・協議による信頼醸成か、という二つのアプローチのせめぎ合い
- 一帯一路などの経済回廊が、どこまで地域社会の安定と人々の暮らしにつながるのかという検証
アジアの安全保障環境は、米中関係や域内の対立構図だけでは語り尽くせません。開発と安全保障を一体で考える中国の試みをどう評価するかは、アジアの将来像を議論するうえで避けて通れないテーマになりつつあります。
押さえておきたいポイント
- 2014年に提示されたアジアの安全保障構想は、2025年の今も地域秩序を考える重要な軸になっている。
- 一帯一路などを通じて、発展と安全保障を同時に追求する「安全保障・開発共同体」づくりが進んでいる。
- アジア安全保障モデルは、対立よりも対話と協調を重視する地域コンセンサスとして広がりつつある。
アジアの安全保障のかたちをめぐる議論は続きますが、中国がどのようなビジョンと手段で安定を目指しているのかを理解することは、これからの地域秩序を考えるうえで欠かせません。
Reference(s):
cgtn.com








