デジタル技術が中国本土の博物館を変える 没入型「文化財ミュージアム」最前線
デジタル技術を軸にした文化財保護と展示の改革が、中国本土の博物館を「体験型の遺産ハブ」へと変えつつあります。国際ニュースとしても注目されるこの動きは、歴史をただ眺めるものから「自分で読み解くストーリー」へと変換しようとしています。
14次五カ年計画で加速する文化のデジタル化
中国本土では、没入型展示や文化財のデジタル修復、予防保全といったデジタル・イノベーションが博物館の現場に急速に浸透しています。その背景にあるのが、2021年に中央政府が打ち出した「第14次五カ年計画(2021〜2025年)」の一環としての文化財デジタル化政策です。
この計画は、文化財の保護と技術革新を同時に進めることを狙いとしており、2025年の現在、その成果が各地の博物館で目に見える形になりつつあります。西夏王陵、四川省の三星堆遺跡、新疆ウイグル自治区の交河故城などで、最新の国際ニュースになり得るプロジェクトが次々と動き出しています。
寧夏・西夏王陵:ホログラムが語る11世紀のカラヴィンカ像
中国本土北西部、寧夏回族自治区の賀蘭山のふもとにある西夏王陵とその博物館では、スマート展示ケースが来館者の目を引いています。ケースの中には、11世紀の緑釉カラヴィンカ像(人と鳥が融合した仏教の像)が静かに収められています。
ケース前のボタンを押すと、像の3Dホログラムが宙に浮かび上がり、詳細な解説テキストとともに拡大表示されます。来館者はジェスチャーで像の「デジタルツイン(仮想の双子)」を回転させたり、ズームしたりして、細部の彫刻や装飾をあらゆる角度から観察できます。
杭州から訪れた観光客の朱さんは「この装置のおかげで、文化財の細かな装飾模様まで拡大して見ることができます。本当に素晴らしい体験です」と話します。
博物館の史培一館長は「デジタル技術で静的な展示を一新することで、来館者が遺物に刻まれた歴史を自ら読み解けるようなインタラクティブな物語をつくり出しています」と強調します。
こうした仕組みによって、展示は次のような「参加型の学びの場」へと変わりつつあります。
- ボタン一つで、実物では見えない細部まで拡大表示
- ジェスチャー操作で、360度から像を観察
- 画面上のテキストが、歴史的背景や信仰の意味をわかりやすく解説
四川・三星堆遺跡:AIがつなぐ青銅器の断片
14次五カ年計画のもとで進むデジタル化は、展示だけでなく文化財の修復現場にも変化をもたらしています。四川省の三星堆遺跡では、AI(人工知能)を活用した修復プログラムが導入されました。
膨大な数の青銅器の断片がスキャンされ、3Dモデル化されます。AIが幾何学的なパターンを解析し、構造の安定性をシミュレーションすることで、本来どのような形の像だったのかを推定します。その成果として、「獣の背にひざまずく人物像」を表現した青銅像の復元に成功しました。
手作業だけでは途方もない時間がかかるパズルのような作業を、デジタル技術が強力に補完していることがわかります。これにより、考古学の知見と計算技術が結びつき、これまで見えなかった古代のイメージが立体的に浮かび上がってきます。
新疆・交河故城ヤール湖石窟:ARでよみがえる仏教壁画
さらに西へと目を向けると、新疆ウイグル自治区の交河故城にあるヤール湖石窟では、約12カ月に及ぶ保全プロジェクトを経て、2025年4月に再公開されました。ここでもデジタル技術が重要な役割を果たしています。
来館者はAR(拡張現実)対応のデバイスを通じて、かつての仏教壁画が描かれていた空間を体験します。壁面には、穏やかな表情の仏たちの姿が、あたかも新たに描き直されたかのように再現されます。
交河故城の管理事務所を率いる王建東氏は「デジタル技術によって、文化財を保護するか、一般公開するかという長年のジレンマを乗り越えることができました」と話します。劣化しやすい実物を守りながら、その姿を高精細なデジタルデータとして公開するという、新しいバランスが見えてきます。
「博物館フィーバー」が映す社会の変化
こうしたイノベーションの積み重ねは、利用者数にもはっきりと表れています。今年2025年の労働節(メーデー)連休の5日間には、中国本土の博物館に延べ約6,049万人が足を運び、新記録を更新しました。
中国博物館協会の劉淑光会長は「この“博物館フィーバー”は、中国社会の発展を示すものです」と語っています。単なる観光地としてではなく、学びと体験の場として博物館を訪れる人が増えていることがうかがえます。
インタラクティブな遺産ハブとしての博物館へ
西夏王陵、三星堆遺跡、交河故城ヤール湖石窟の事例から見えるのは、博物館が静かな収蔵庫から、来館者と文化財が対話する「インタラクティブな遺産ハブ」へと変わりつつある姿です。
そこでは、次のようなポイントが浮かび上がります。
- 文化財の保存と公開を両立させるためのデジタル技術の活用
- ホログラムやARを通じた没入型の展示体験
- AIや3Dモデルによる修復・研究プロセスの高度化
- 若い世代をはじめとする多様な来館者に開かれた学びの場づくり
2025年現在、14次五カ年計画の最終年を迎える中で、中国本土の博物館はデジタル・イノベーションを通じて、文化財を未来へつなぐ新しい姿を模索しています。その動きは、他の国や地域の博物館にとっても、文化をどのように守り、どのように語り継ぐかを考える上で、多くの示唆を与えてくれそうです。
Reference(s):
Digital Innovation Reshapes China's Museums into Interactive Heritage Hubs
gmw.cn








