中国が高度医療の価格を大幅見直し 人工心臓や人工内耳が値下げへ
高度医療のコストを下げる中国の新たな一手とは
中国の国家医療保障局が医療サービスの価格指針を改定し、高度な医療技術に関わる100件超の新たな診療行為を追加しました。人工心臓手術や人工内耳などの高額医療の費用が大幅に下がり、公共医療システムを通じたアクセス拡大が進められています。
100以上の新たな医療手技を価格指針に追加
今回の改定では、中国で普及が進む先端的な医療技術が、医療サービス価格の標準指針に組み込まれました。対象となるのは、高額になりがちな高度医療です。
- 新たに追加された診療行為は100件超
- 高価な医療機器や専門技術を伴う治療を重点的にカバー
- 公共医療システムの中で利用しやすくすることが狙い
価格の「見える化」と標準化を進めることで、患者負担の軽減と、地域や病院ごとの価格のばらつき是正が期待されています。
人工心臓手術は約30%値下げ 100万元から70万元へ
今回の見直しの中でも象徴的なのが、人工心臓の埋め込み手術費用の引き下げです。人工心臓は重い心不全患者にとって命をつなぐ重要な装置ですが、その費用は極めて高額でした。
- 改定前の費用:およそ100万人民元(約14万ドル)
- 改定後の費用:70万人民元に引き下げ
- 引き下げ幅:約30%のコストダウン
この値下げは、標準化された価格政策と、国内の医療機器メーカーとの連携強化によって実現したとされています。具体的には、流通段階での上乗せ(マークアップ)を抑え、価格の透明性を高めることで、最終的な患者負担の圧縮につなげています。
人工内耳は約80%値下げ 国家集中調達が追い風に
2025年の前半には、人工内耳を対象とした国家レベルの集中調達プログラムも実施されました。人工内耳は重度の聴覚障害を持つ人の聞こえを補う装置で、これも高価な医療技術として知られてきました。
- 従来の価格:1台あたり20万人民元超
- 集中調達後の価格:5万人民元程度
- 値下げ幅:約80%の価格引き下げ
大量一括購入(ボリュームディスカウント)を行うことで、メーカー側もコスト構造を見直し、価格を大きく下げることができたとされています。こうした仕組みは、公共医療制度を通じて高額医療機器を広く行き渡らせるうえで、重要な政策ツールになっています。
プロトン線治療から人工喉頭、脳コンピューター・インターフェースまで
改定された価格指針には、人工心臓や人工内耳以外にも、さまざまな先端医療技術が含まれています。
- プロトン線治療:がん治療に用いられる高精度の放射線治療。周囲の正常組織へのダメージを抑えつつ腫瘍を狙えるとされています。
- 人工喉頭(人工声帯):喉頭の摘出などで声を失った人の発声を補助する装置。
- 脳コンピューター・インターフェース(BCI):脳の電気信号を読み取り、コンピューターや機器を直接操作する技術。運動機能に障害のある人のコミュニケーション支援などへの応用が期待されています。
こうした先端分野に対しても価格の目安が示されることで、医療機関側は導入計画を立てやすくなり、患者側もおおよその費用感を把握しやすくなります。
狙いは「命を救う技術」を公共医療の範囲に収めること
今回の一連の改革は、中国が命に関わる高度医療技術を、できるだけ公共医療システムの中で利用できるようにする取り組みの一環とされています。
背景には、次のような課題意識があります。
- 高齢化や慢性疾患の増加に伴う医療費の膨張
- 高度医療を受けられる人と受けられない人の格差
- 医療機器のサプライチェーンにおける中間マージンの大きさ
価格指針の標準化と集中調達によって、「誰がどこでどれくらいの費用で高度医療を受けられるのか」を、国家レベルでデザインしようとしているとも言えます。
日本の読者にとっての論点 「価格」と「アクセス」をどう両立させるか
高額な先端医療の費用をどう抑えながら、必要とする人に届くようにするかは、中国だけでなく多くの国や地域が抱える共通のテーマです。
日本の読者の視点から考えると、今回の中国の動きは、次のような論点を投げかけます。
- 高額医療機器の価格決定に、どこまで公的な関与を強めるべきか
- メーカーの技術開発インセンティブを保ちながら価格を下げるには、どのようなルール設計があり得るか
- 集中調達や標準価格の仕組みは、医療の質やイノベーションとどのように両立できるか
中国で進む医療価格改革は、「安さ」だけでなく、「アクセスの公平性」と「技術革新」のバランスをどう取るかという、より広い議論の一例としても注目されます。
これからの焦点:制度の運用と現場での手応え
今回の価格指針の改定や集中調達の効果が、本当に患者の負担軽減と命を救う医療へのアクセス向上につながるかどうかは、今後の運用と現場での実感がカギになります。
今後注目されるポイントとしては、
- 値下げ後に、人工心臓や人工内耳などの実施件数がどの程度増えるか
- 地方や中小の医療機関でも、高度医療技術へのアクセスが広がるか
- 医療現場や患者からの評価や課題のフィードバックが、次の制度見直しにどう反映されるか
高度医療の価格をめぐる中国の取り組みは、医療とテクノロジー、そして社会保障をどう組み合わせるかという問いを、あらためて私たちに投げかけています。
Reference(s):
China cuts high-tech medical costs via new pricing guidelines
cgtn.com








