英国とEUが新通商協定 ブレグジットから9年、関係再構築はどこまで進む? video poster
ブレグジットの是非を問う国民投票から9年。2025年12月の今週、英国のキア・スターマー首相とEU欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長が、新たな通商協定で握手しました。漁業権から空港の自動出入国ゲート(eゲート)までをカバーするこの合意は、英国とEU、そして世界の貿易にとってどんな意味を持つのでしょうか。
本記事では、日本語で国際ニュースを追う読者向けに、この新協定のポイントと、その背景にある英国・EU・世界貿易のいまをコンパクトに整理します。
英国とEU、9年ぶりの「本格握手」
今回の動きを象徴する言葉として使われているのが、Brexitと息を吐く(exhale)をかけ合わせた造語「Brexhale」です。激しい政治対立を経た英国とEUが、ようやく肩の力を少し抜き、現実的な協力関係を模索し始めた──そんな空気感を示しています。
スターマー首相とフォン・デア・ライエン欧州委員長が今週合意した新通商協定は、次のような幅広いテーマを対象にしています。
- 漁業権の取り扱い
- 欧州の空港で英国市民が利用する自動出入国ゲート(eゲート)の運用
- それに伴う人の往来や貿易手続きの円滑化
スターマー首相は、この合意が最近まとまった米国やインドとの通商協定に続くものであり、英国を「世界の通商地図」に再びしっかりと位置づける一歩だと強調しています。
なぜ今、この通商協定が重要なのか
世界の貿易環境は、ここ数年「不確実性」がキーワードになっています。為替やエネルギー価格の変動、紛争や規制の変化など、企業が中長期の計画を立てにくい要因が重なっているからです。
そうした中で、英国とEUという大きな経済圏同士が、実務的なルールをあらためて整え直すことには、次のような意味があります。
- 政治的な対立よりも、安定したルール作りを優先する姿勢を示した
- 企業や旅行者が直面してきた具体的な不便(手続きや待ち時間など)を和らげようとしている
- 英国がEU以外に、米国やインドとの協定も組み合わせながら、通商ネットワークを再構築している
つまり今回の合意は、「完全な決別」か「完全な一体化」かという二者択一ではなく、その中間で現実的な着地点を探る動きの一つだと見ることができます。
英国・EU・世界貿易へのインパクト
英国にとっての意味
英国にとって、新通商協定は次のような狙いを持つと考えられます。
- EUとの関係を安定させ、企業にとって予測しやすい環境を整える
- 米国・インドとの協定と組み合わせ、複数の主要パートナーとのバランスを取る
- 「孤立」ではなく「柔軟な連携」をアピールすることで、投資先としての魅力を保つ
EUにとっての意味
EU側にとっても、英国との協定を現実的に積み上げていくことは、次のような利点があります。
- 地理的にも経済的にも近い英国との摩擦を減らし、域内のサプライチェーンを安定させる
- 対立ではなく協調を重視する姿勢を、世界に向けて示すことができる
- 他のパートナーとの交渉でも、「柔軟な合意のモデル」として活用できる可能性がある
世界貿易へのシグナル
ブレグジットは、しばしば「グローバル化への反発」の象徴として語られてきました。そのブレグジットから9年を経て、英国とEUが実務的な協力の枠組みを再構築しつつあることは、世界貿易に次のようなメッセージを送っています。
- 政治的な決別があっても、経済面では再接近が起こりうる
- 完全なブロック化ではなく、重なり合う複数の通商ネットワークを持つ方向性が強まっている
- 「不確実性の時代」だからこそ、ルールに基づく安定した枠組みが重視される
専門家たちが注目する論点
今回の新通商協定については、国際通商の専門家の間でもさまざまな視点から議論が交わされています。英国の通商政策を研究するDavid Henig氏、ブリュッセルを拠点とするBrusselsReport.EUの編集長Pieter Cleppe氏、国際商業会議所英国支部(ICC UK)の事務総長Chris Southworth氏らも、英国とEU、そして世界貿易のいまの姿をめぐって意見を交わしました。
そうした議論で焦点になっているのは、おおまかに言えば次のようなポイントです。
- 新通商協定は、ブレグジット後に残った不透明さをどこまで解消できるのか
- 英国はEUとの距離を取りつつも、どこまで協力を深めることができるのか
- 今回の合意が、企業や市民の日常にどれくらい具体的な変化をもたらすのか
合意の文言だけでは見えない「実務への落とし込み」が、今後どの程度進むかが注目されています。
日本とアジアの読者への示唆
日本やアジアの国や地域にとっても、英国とEUの関係がどのように再構築されるかは無関係ではありません。欧州を経由するサプライチェーンや、ロンドンや欧州の金融市場を通じた資金調達などに影響しうるからです。
今回のニュースから、私たちが考えてみたい問いを三つ挙げてみます。
- 政治的な離脱の後でも、経済的な協力はどこまで回復しうるのか。
- 「通商地図に戻る」とは、自国の産業や企業にとって具体的に何を意味するのか。
- 自国優先と国際協調のバランスを、どのように取るべきなのか。
ブレグジットから9年を経て結ばれた今回の新通商協定は、英国とEUだけでなく、世界が「分断」と「協力」のあいだでどのような落としどころを探ろうとしているのかを考えるきっかけにもなります。今後も、英国とEUの交渉の進み方や企業の動きを追いながら、その変化を丁寧に見ていく必要がありそうです。
Reference(s):
cgtn.com








