中国で進む「文化×テック」融合 深圳フォーラムが示した新時代
中国の文化とテクノロジーの融合が、遺産保護から地方の活性化、産業構造までを大きく変えつつあります。中国南部・深圳で火曜日に開かれたフォーラムのサイドイベントでは、この動きが中国の文化戦略の中核として語られました。
中国の「文化×テック」融合、何が議論されたのか
深圳で開かれた「2025 Forum on Building up China's Cultural Strength」のサイドイベントには、文化やテクノロジー分野の関係者が参加しました。出席者は、文化とテクノロジーの融合が、中国が世界的な文化大国を目指すうえで欠かせない要素だと強調しました。
議論のキーワードとなったのは「相互エンパワーメント」です。文化が技術の方向性を導き、技術が文化の表現力と伝達力を高める――その循環をどうつくるかが、フォーラム全体のテーマとなりました。
AIとVRでよみがえる文化遺産と地方の伝統
ゲストたちは、文化とテクノロジーの融合が「今、過去最高に深まっている」と指摘しました。具体的には、次のような取り組みが紹介されました。
- 古文書のデジタル復元:人工知能(AI)を使って損傷した古い文書を解析し、文字や図像を復元する試み。
- 歴史的遺産のVRツアー:仮想現実(VR)を通じて、歴史的な建造物や遺跡を没入型のデジタル体験として楽しめるサービス。
- 民俗文化のオンライン発信:農村部に伝わる民俗芸能や工芸をデジタルコンテンツ化し、オンラインで広く共有するプロジェクト。
こうした取り組みは、単に文化を「保存」するだけでなく、地方コミュニティの発信力を高め、新しい参加者やファンを国内外から呼び込むことを目指しています。
かつて「文化の砂漠」とも呼ばれた深圳は、いまやテックを軸にしたクリエイティブ産業の集積地となり、中国の文化経済に数十億元規模の価値を生み出す存在として紹介されました。
2024年に約6兆元 急拡大する文化テック産業
フォーラムでは、文化とテクノロジーが交わる産業分野が、ここ10年あまりで急速に拡大している現状も共有されました。出席者によると、バーチャル展覧会やスマート観光などを含む中国の文化テック関連産業は、2024年に約6兆元(約8,400億ドル)を生み出し、2012年と比べて規模が10倍になったとされています。
その背景として、次のような変化が挙げられました。
- ビッグデータとAIによる「個別最適」:動画配信などのプラットフォームが、利用者の視聴履歴や好みを分析し、コンテンツをパーソナライズ(個別最適化)して推薦。
- 生成AIで制作コストを圧縮:画像や映像、テキストを自動生成するAIが、クリエイターの制作時間とコストを大幅に削減し、少人数でも多様なコンテンツを出しやすくしている。
- スマート観光とバーチャル展示:リアルな観光とオンライン体験を組み合わせた「スマート観光」や、インターネット上で完結するバーチャル展覧会が、新しい消費スタイルとして広がっている。
こうした流れを支える土台として、中国では文化資産のデジタル化を進める国家戦略が打ち出されており、膨大なデジタル文化資産をどのように管理し、保護していくかが重要な課題となっています。
AIクリエイティビティとバーチャルインフルエンサー
文化とテクノロジーの融合は、創作の現場やエンターテインメントの形も変えつつあります。出席者は、AIが作家や映画制作者を支援する事例や、バーチャルインフルエンサーが娯楽の新たな主役になりつつある動きを紹介しました。
AIは、脚本づくりのアイデア出しや、ストーリー展開のシミュレーション、映像の編集といった工程を補助し、人間のクリエイターがより創造的な部分に集中できるようサポートしているとされます。一方で、CGやAIで生成されるバーチャルキャラクターがインフルエンサーとして活動し、ブランドや作品の顔になるケースも増えています。
こうした変化は、「誰が作者なのか」「創造性とは何か」といった問いを社会に投げかける一方で、文化産業の新しいビジネスモデルを生み出す可能性も秘めています。
国家的な文化データシステムと国際連携
サイドイベントでは、今後に向けた具体的な方向性として、次のような計画や提案が語られました。
- 国家レベルの文化データシステム構築:膨大な文化関連データを一元的に整理・活用する仕組みを整え、文化遺産から現代コンテンツまでを包括的に支える基盤とする構想。
- 文化テック分野のスタートアップ支援:文化とテクノロジーを組み合わせる新興企業を後押しし、イノベーションの担い手として育てていく方針。
- グローバルな協力関係の強化:技術的にも文化的にも孤立を避けるため、国際的なパートナーシップを重視し、共同プロジェクトや交流を進めていく姿勢。
出席者は、「文化が技術を導き、技術が文化を支える」という視点を共有しつつ、伝統とテックの融合が、中国の国際的な文化発信力を高めるうえで重要だと強調しました。
日本の読者が押さえておきたい3つのポイント
今回の深圳での議論から、日本を含むアジアの読者が注目しておきたい点を整理すると、次の3つにまとめられます。
- 文化遺産のデジタル化は「保存」から「活用」へ:AIやVRは、歴史や民俗文化を次世代に伝える手段であると同時に、新しい体験型コンテンツや観光の核にもなりつつあります。
- 文化テックは巨大な成長市場:2024年時点で約6兆元、2012年から10倍に拡大したという規模感は、文化とテクノロジーを組み合わせるビジネスが、もはやニッチではないことを示しています。
- 国家戦略とスタートアップの組み合わせ:国家レベルのデータ基盤づくりと、スタートアップ支援、国際連携を一体で進めるアプローチは、今後の文化政策や産業戦略を考えるうえで一つの参考モデルになりえます。
文化とテクノロジーが互いを高め合う「相互エンパワーメント」の発想は、クリエイターや企業だけでなく、消費者として文化を楽しむ私たち一人ひとりの体験も変えていく可能性があります。中国・深圳から発信されたこの議論は、デジタル時代における文化のあり方を考えるうえで、今後も注視すべき動きと言えそうです。
Reference(s):
China's culture-tech fusion signals new era of mutual empowerment
cgtn.com








