ASEAN・中国・GCCが共同声明 経済連携と中東情勢で協力強化へ
2025年5月27日、マレーシアのクアラルンプールで開かれたASEAN・中国・湾岸協力会議(GCC)サミットで、経済統合から中東情勢までを網羅した包括的な共同声明が採択されました。本記事では、そのポイントを日本語でコンパクトに整理します。
クアラルンプールで初の三者サミット共同声明
共同声明は、ASEAN(東南アジア諸国連合)、GCC(湾岸協力会議)、中国の各加盟国が参加したサミットの場で発表されました。
声明はまず、三者の間にある歴史的・文明的なつながりと、長年の経済関係をあらためて確認しました。そのうえで、次のような基本姿勢を強調しています。
- 地域主義と多国間主義の重視
- 国連憲章と国際法の原則の尊重
- 主権、領土保全、内政不干渉の尊重
- 紛争は平和的手段で解決すること
また、ASEANの「中心性」を支持しつつ、アジア太平洋と中東の広い地域で、平和と安定、繁栄をめざすとしています。GCCの役割、中国の地域・国際的な貢献についても、平和と持続可能な発展の面から高く評価しました。
中東情勢とパレスチナ問題への共同メッセージ
今回の共同声明で特に目を引くのが、中東情勢、とくにガザとパレスチナ問題についての詳しい言及です。首脳たちは、地域の緊張に深い懸念を表明し、次のような点で一致しました。
- 民間人へのあらゆる攻撃を非難し、持続的な停戦を要請
- ガザ全域で、燃料・食料・医薬品など人道支援物資と基本サービスの妨げのない提供を求める
- 電力と水の供給回復を含む、人道支援への最大限のアクセス確保を要請
- 1949年のジュネーブ条約(戦時における文民保護)を含む国際人道法を順守するよう、全ての当事者に求める
声明はさらに、2024年7月19日の国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見に言及し、国連総会と安全保障理事会に対して、占領下パレスチナ領土におけるイスラエルの違法な存在を可能な限り速やかに終わらせるための措置を検討するよう促したと紹介しました。
政治的解決に向けては、次の方針が示されています。
- 全ての人質と恣意的拘束下にある人々の解放を支持
- 1967年の境界線に基づく二国家解決を目指した平和的解決を支持
- 関連する国連安全保障理事会・総会決議、とくに2024年5月10日の総会決議(A/RES/ES-10/23)を参照
- 二国家解決の実現に向けた国際的な連携を支持し、サウジアラビア、ノルウェー、欧州連合のイニシアチブに注目
また、停戦や支援物資の搬入で仲介役を果たしてきたカタールの努力に加え、パレスチナ内部の和解を後押ししてきた中国の役割も評価しました。特に、2024年7月に北京でパレスチナ諸勢力が署名したパレスチナ和解に関する北京宣言が挙げられています。
2024年12月11日に採択された国連総会決議を歓迎し、ガザでの即時・無条件・恒久的な停戦と、パレスチナ難民を支援するUNRWAの活動を妨げないよう求めた点も明記されました。
経済統合の加速:自由貿易とサプライチェーン
声明の中心的テーマの一つが、ASEAN・中国・GCCの三者による経済統合と連携強化です。各国は、互いの経済が「多様で補完的」であり、新たな貿易・投資機会が生まれていると指摘しました。
WTO体制と自由貿易の重視
三者は、世界貿易機関(WTO)を中核とするルールに基づく多国間貿易体制の重要性を再確認しました。予見可能で透明性が高く、差別のない開かれた貿易システムが、企業と消費者、そして地域の暮らしを守る基盤だと位置づけています。
自由貿易の具体策としては、次のような点が挙げられました。
- 中国・ASEAN自由貿易圏の第3.0次アップグレード交渉の完了を歓迎し、早期署名と発効を期待
- 中国とGCCの自由貿易協定交渉の早期妥結を目指す
- グローバル・デベロップメント・イニシアチブやASEAN・GCCの枠組みを通じて、国連の持続可能な開発目標(SDGs、2030アジェンダ)の達成を後押し
サプライチェーン・金融・ビジネス連携
経済のレジリエンス(強靱性)を高めるため、産業・サプライチェーンの強化や、新産業分野での協力も打ち出されました。
- デジタル経済やグリーン経済など新産業分野での持続可能な貿易を促進
- 三者の企業が参加する「地域ビジネス協議会」の設置可能性を検討し、対話とバリューチェーン構築を支援
- 資本市場やフィンテックなどの金融協力を探り、中小企業の力を高める
- 現地通貨や国境を越えた決済での協力を模索
- 汚職防止のため、協調した包括的な対策を進める
インフラと海の安全:つながるアジアと湾岸
地域の「つながり」を強めるため、インフラと物流、海上安全保障も共同声明の重要な柱になりました。
- 一帯一路構想などを通じた高品質なインフラ協力と物流回廊・デジタルプラットフォームの整備
- 経済多角化と成長を支える持続可能なインフラ開発
- 海洋・海運の安全と保安の維持・促進の重要性を確認
海と海運を、三地域の成長と繁栄を支える鍵と位置づけ、安全な海上輸送の維持を重視しています。
エネルギー安全保障と気候変動:現実路線と転換の両立
エネルギー安全保障と気候変動対策は、アジアと湾岸の両地域にとって死活的なテーマです。共同声明は、パリ協定に沿った「持続可能で公正かつ秩序あるエネルギー転換」を共通目標として掲げました。
全てのエネルギー源を対象にした転換
声明は、特定のエネルギー源を排除するのではなく、排出管理や効率向上の技術革新を通じて、あらゆるエネルギー源をよりクリーンに使うというアプローチを取っています。
- 世界のエネルギー市場の安定を支え、価格の乱高下を抑えることを重視
- エネルギー転換に必要な鉱物資源のサプライチェーン多様化と資源効率の向上
- クリーンエネルギー関連の新たなビジネス機会の創出
再生可能エネルギーと先端技術
技術協力の範囲も広く、次のような分野が列挙されています。
- 再生可能エネルギー、クリーン・グリーンエネルギー
- 二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)
- バイオ燃料、バイオLNG
- 低炭素水素・低炭素アンモニア
- 省エネ政策や規制、技術イノベーション
- 原子力安全や核燃料サイクル管理など、民生用原子力の能力構築(IAEA基準に沿う)
- 水素・アンモニア技術、石油・LNGの供給網、メタン削減
- 再エネ電源やLNGターミナル、海底送電ケーブルなどのインフラ投資
- 直接空気回収、先進的地熱、次世代太陽光・風力といった新技術の共同研究
さらに、再生可能エネルギーへの「公正な移行」を支えるため、労働者のグリーンスキル(脱炭素関連スキル)の育成で知見を共有することも盛り込まれました。
デジタル転換・食料安全保障・人の交流
デジタル経済とイノベーション
三者は、デジタル経済を新たな成長エンジンと位置づけ、次のような協力を検討するとしました。
- デジタル経済を促進するための広域的な枠組みづくり(デジタル貿易、電子商取引、デジタル決済、フィンテック、人工知能など)
- 人工知能(AI)、ブロックチェーン、量子コンピューティング、スマートシティなど先端技術での連携
- デジタルスキルとデジタルリテラシー向上のためのプログラムを通じた包摂的な参加
食料・農業・ハラール
食料安全保障と農業分野での協力も、具体的な方向性が示されました。
- 有害な農薬の削減やデジタル技術の活用、自然に基づく解決策を通じた持続可能な農業の推進
- 各国の制度や法律を尊重しつつ、ハラール食品分野で情報・経験を共有
- 食料の生産性と持続可能性を高め、多様な食料供給源を確保
- 食料・農産物および関連技術の貿易拡大
観光・文化・教育による人と人のつながり
人の往来と相互理解を促す取り組みも、共同声明の重要な柱です。
- 文化・遺産観光、エコツーリズム、MICE(会議・展示会など)を含む高品質な観光の推進
- 観光のデジタル化や目的地マネジメントでベストプラクティスを共有
- 文明・文化間の対話と相互学習を促進し、多様性への尊重と友情を深める
- 若者や各地域の民族グループを対象に、芸術・音楽・文学プログラムを通じた交流機会を拡大
- 学生や教育関係者の交流、奨学金、共同研究といった教育協力(特に理工系分野)
既存の枠組みと今後の会議:中長期のロードマップ
共同声明は、合意事項を実行するために、すでに存在するASEAN・GCC、中国・ASEAN、中国・GCCの各種メカニズムを活用していくと明記しました。
また、今後の協力の土台として、各地域のイニシアチブや国際会議も幅広く紹介しています。
ASEAN側の主なイニシアチブ
- ASEAN 2045: Our Shared Future(2045年に向けたビジョン)
- インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)
- ASEANパワーグリッド構想
- トランスASEANガスパイプライン(TAGP)
- 持続可能な農業に関するASEAN行動計画
GCC側の主なイニシアチブと国際会議
- 2024年10月にサウジアラビア・リヤドで開催されたグローバル物流フォーラム
- 2024年11月にUAE・アブダビで開催された第1回世界食料安全保障サミット
- 2024年12月にリヤドで行われた国連砂漠化対処条約(COP16)
- 2025年1月にアブダビで行われた持続可能な開発週間
- シリア支援国際会議(2025年)
- 2025年10月27〜28日に予定されていたイエメンの食料安全保障に関する国際会議
- 2026年12月にアブダビで予定されている国連水会議
- 汚職防止に貢献した個人・団体をたたえるシェイク・タミーム・ビン・ハマド・アルサーニ腐敗防止国際賞
- リヤドに設立されたグローバル水機関
- 2025年6月にサウジアラビアとフランスが共同議長を務める予定のパレスチナ問題の平和的解決に関するハイレベル国際会議
- サウジアラビアの中東グリーン・イニシアチブ
これらの枠組みや会議が、今後のASEAN・中国・GCC三者協力の「場」として活用されていくことが想定されます。
三者連携は何を意味するのか:日本から見たポイント
今回の共同声明は、アジアと中東という二つの重要な地域が、中国を含む形で「三極連携」を強めようとする動きを示しています。日本から見ると、次のような点が注目ポイントになりそうです。
- エネルギー市場の安定やクリーンエネルギー技術協力が、日本のエネルギー安全保障や脱炭素戦略にも間接的な影響を与える可能性
- デジタル経済やサプライチェーン連携の進展が、アジア・中東を結ぶ新たな経済圏を形成し、企業のビジネスチャンスと競争環境を変えていくこと
- パレスチナ問題を含む中東和平の議論に、ASEANと中国、GCCがそろってメッセージを出したことによる外交的な重み
一方で、こうした広域連携がどこまで具体的なプロジェクトや制度に落とし込まれていくのかは、今後数年のフォローが必要です。特に、自由貿易協定の行方、エネルギー転換に関する共同事業、デジタル経済のルールづくりなどは、企業や投資家にとって重要なウォッチポイントになるでしょう。
ASEAN・中国・GCCが掲げた「包摂性・持続可能性・レジリエンス・対等なパートナーシップ」というキーワードが、どこまで現実の政策とビジネスの現場に反映されていくのか。今回の共同声明は、その試金石となる第一歩と言えそうです。
Reference(s):
cgtn.com








