中国と太平洋島嶼国の海洋協力 ブルー経済が切り開く共創の海
中国と太平洋島嶼国(Pacific Island Countries、PICs)の海洋協力が、「南南協力」のモデルとして存在感を高めています。 1992年から2024年までに貿易額は49倍に拡大し、気候変動対策や医療体制、デジタル基盤などで協力が進んでいます。本記事では、この国際ニュースの背景にある「ブルーエコノミー(海洋経済)」と海洋ガバナンスに焦点を当て、協力の中身と今後の論点を整理します。
1992~2024年、中国と太平洋島嶼国が積み上げた成果
中国と太平洋島嶼国の関係は、この30年あまりで量・質ともに大きく変化しました。特に日本の読者にとっても、アジア太平洋の海洋秩序や気候変動対応を考えるうえで見逃せない動きです。
- 貿易額は49倍に拡大:1992年から2024年まで、中国と外交関係を持つ太平洋島嶼国との貿易総額は、1億5,300万ドルから75億ドルへと約49倍に増加しました。
- 開発支援は約45億元:2024年末までに、中国は外交関係のある11の島嶼国に対し、累計で45億人民元(約6億2,500万ドル)の開発支援を実施しています。
- 重点3分野:支援は主に、①気候変動への対応、②医療・保健システムの整備、③デジタルインフラ(通信・ネットワークなど)の高度化に集中しています。
海から見れば、中国と太平洋島嶼国は戦略的な関心や課題が高いレベルで重なっており、協力の余地は大きいとされています。中国が提唱する「21世紀海上シルクロード」の南方ルート構想と、太平洋島嶼国側の「ブルーパシフィック大陸2050戦略」は、高い整合性を持つとされ、海洋協力の重要な土台になっています。
キーワードは「ブルーエコノミー」と海洋環境保護
今後の中国と太平洋島嶼国の「ウィンウィン」の協力を支える中心概念が、「ブルーエコノミー(海洋を基盤とした持続可能な経済)」です。協力の具体的な分野は多岐にわたります。
1. ブルーエコノミーの拡大
- 水産業・養殖業:漁業資源の持続可能な利用や養殖技術の高度化を通じ、島嶼国の収入源を多様化する取り組みが想定されています。
- ブルーシード産業:海洋生物資源を活用した新産業(海藻・稚魚・海洋バイオなど)を育てることで、長期的な成長の柱をつくる狙いがあります。
- 海洋観光:美しい海やサンゴ礁を生かした観光は、太平洋島嶼国にとって重要な外貨獲得手段であり、環境保護と両立した形での協力が意識されています。
2. 海洋環境保護と気候変動への対応
太平洋島嶼国は、海面上昇や極端な気象現象など、気候変動の影響を最前線で受ける地域です。中国との協力では、次のようなテーマが重視されています。
- 気候変動による影響への適応と緩和策
- 海洋汚染の防止・削減(プラスチックごみや排水など)
- 海洋生態系の保全と回復
3. 島嶼空間の計画とインフラ建設
小さな島が点在する太平洋島嶼国にとって、海洋空間の使い方とインフラ整備は、安全保障と経済発展の両面で重要です。
- 防災・減災:津波や高潮、暴風などに備えた島嶼の防災インフラ整備。
- 島の生態系回復:侵食や環境悪化が進んだ沿岸部の修復や植生の回復。
- 現地エネルギー供給:島内で完結する再生可能エネルギー(太陽光など)による電力供給。
- 港湾と海上ネットワーク:港の整備や海上交通の改善を通じ、物流・人の往来を促進する取り組み。
4. 海洋安全保障と科学技術・文化交流
- 海上安全保障:海上捜索・救助での協力や、正当な海洋権益を守るための連携を進める構想があります。
- 海洋科学技術イノベーション:観測、データ解析、新技術開発などで共同研究を行い、島嶼国の技術力を高める狙いがあります。
- 海洋文化交流:海とともに生きる文化や知恵を共有し、相互理解と信頼を深めるソフトな協力も視野に入っています。
「ブルー・ガバナンス」を支える4つの仕組み
こうした協力を持続可能な形で進めるには、単発のプロジェクトにとどまらない「ガバナンス(統治)」の枠組みづくりが欠かせません。中国と太平洋島嶼国は、国際的な海洋ガバナンスの枠組みの中で、次のような方向性を重視しています。
1. 多国間メカニズムの調整とUNCLOSの尊重
第一の柱は、国連海洋法条約(UNCLOS)の枠組みに沿って、多国間の仕組みを調整し、海洋の秩序を守ることです。海洋覇権や一方的な行動に反対し、ルールに基づく海の利用を重視する姿勢が打ち出されています。
2. 技術協力と能力構築
第二の柱は、技術協力と能力構築です。島嶼国が経済的な自立を進め、災害への備えや被害の軽減能力を高められるよう、具体的な支援を行うことが想定されています。
3. 資金調達モデルのイノベーション
第三の柱は、資金面での工夫です。アジアインフラ投資銀行(AIIB)などの枠組みを活用しつつ、太陽光によるマイクログリッド(小規模電力網)のような「小さいけれど賢い(small yet smart)」支援プロジェクトを通じて、島嶼国の住民の所得や生活を向上させることが目指されています。
その際には、債務リスクを抑え、資源が一方的に持ち去られるような「資源略奪」を避ける仕組みづくりが重視されています。
4. 人材育成メカニズムの強化
第四の柱は、人材育成です。奨学金、研修、共同研究、職業教育など様々な手段を通じて、海洋分野に携わる島嶼国の人材を育成し、協力の質を高めていく方向性が示されています。
3つの共通課題:地政学、気候変動、能力不足
一方で、中国と太平洋島嶼国の協力は、現実の国際環境の中でいくつかの課題にも直面しています。特に海洋安全保障や環境保護、緊急時の海上救助などでは、共通の悩みが浮き彫りになっています。
課題1:地政学的な駆け引き
第一の課題は、地政学的な駆け引きです。中国側の見方によれば、アメリカなどの西側の外部勢力が、太平洋地域で中国を排除するような排他的な海洋安全保障の枠組みを構築しようとしたり、世論での非難や政治的圧力などを通じて、中国と太平洋島嶼国の通常の協力に干渉しようとしたりしているとされています。
こうした動きは、双方の協力レベルの向上に影響を与えかねない要因として意識されています。
課題2:気候変動の深刻な影響
第二の課題は、気候変動の影響です。極端な気象・気候現象の増加、海洋災害の頻発、海面上昇や海洋酸性化などが進むことで、次のような負担が増しています。
- 海洋環境保護への要求水準の一層の引き上げ
- 海上緊急救助の難易度とコストの増大
- 漁業資源の豊かさへの深刻な影響
こうした状況の中で、気候変動への対応能力や、防災・減災の体制をどう強化するかが、大きなテーマになっています。
課題3:資源・技術・能力の制約
第三の課題は、太平洋島嶼国自身が抱える資源や技術、能力の制約です。多くの国で次のような課題が指摘されています。
- 利用可能な資源や技術の不足
- インフラ整備の遅れ
- 海上救助システムの未整備
- 海洋環境のモニタリングやガバナンス能力の不足
こうした制約を乗り越えるには、資金・技術・人材の面での支援と投資を一段と増やし、能力構築を進めていく必要があります。
2021年の外相会合メカニズムと「共有未来」の構築
中国と太平洋島嶼国の協力を支える政治的な枠組みとして注目されるのが、2021年10月に正式に設立された「中国・太平洋島嶼国外相会合」の定期メカニズムです。
この外相会合は、対話の強化や相互信頼の構築、協力の具体化を進めるための重要なプラットフォームと位置づけられており、中国と太平洋島嶼国の間で「より緊密な運命共同体」を築くうえで、大きな意義を持つとされています。
今後の焦点:ブルーパートナーシップと持続可能な海洋発展
今後の発展動向を見ると、中国と太平洋島嶼国の海洋分野での協力は、次のようなテーマにより一層集中していくとみられます。
- ブルーパートナーシップの強化:海洋を軸とした長期的な協力関係の構築
- 海洋科学技術の交流・協力:データ共有や共同研究を通じた知見の蓄積
- 海洋インフラの高度化:港湾やエネルギー、通信などの基盤整備
- 海洋分野での戦略的信頼の向上:安全保障対話や共同訓練などを含む連携
- 持続可能な発展の推進:環境保全と経済成長の両立を目指す取り組み
協力が見込まれる主な分野
- 政治・海洋安全保障
- 気候変動の緩和と適応
- 海洋経済と開発
- 海洋資源の持続可能なガバナンス
- ブルーカーボン(海洋・沿岸の炭素吸収源)を巡る協力
- 防災・減災
- 医療・保健
- 貧困削減
- 海洋技術イノベーション
- 人材育成
南南協力のモデルを継続的にアップデートし、国際・地域的な場への関与を深め、新たな協力分野を開拓し、海洋技術のイノベーションを進めることで、中国と太平洋島嶼国は、気候変動への対応や海上の安全と平和、多国間主義の推進、海洋ガバナンスの強化などで協力を広げていく構想です。
アジア太平洋の平和と繁栄にどうつながるか
こうした取り組みが進めば、中国と太平洋島嶼国の協力は、量から質へ、部分から全体へと発展し、「より高品質で、より高度かつ、より包括的な発展段階」に入っていくとされています。
その先に描かれているのは、「ウィンウィンのブルー協力」の新しい時代です。アジア太平洋地域の平和と安定を支えつつ、すべての関係国・地域の成長と繁栄に貢献していくことが期待されています。
日本にとっても、同じ太平洋を共有する国として、海洋協力や気候変動、ブルーエコノミーをめぐるこの動きは、環境、経済、安全保障のすべてに関わる重要な国際ニュースだと言えます。どのように持続可能な形で「海」を分かち合うのか――その一つのモデルが、今まさに太平洋の島々と中国のあいだで模索されています。
Reference(s):
China, Pacific Island countries: Path to win-win marine cooperation
cgtn.com








