パラグライダーを8,598mへ押し上げたクラウドサックとは何か video poster
今年5月、中国北西部の祁連山脈上空で、中国人パラグライダーが高度8,598メートルまで一気に吸い上げられる出来事がありました。酸素ボンベもなく、顔はむき出しのまま、体は氷の結晶に覆われながらも生還したこのフライトは、クラウドサックと呼ばれる現象の危険性を浮き彫りにしています。
祁連山脈で起きた前代未聞のフライト
報道によると、このパラグライダーは祁連山脈付近を飛行中、予想外の強い上昇気流に巻き込まれ、高度8,598メートルまで一気に上昇しました。酸素装備はなく、顔は外気にさらされ、全身には氷の結晶が付着する極限環境だったといいます。
それでもパイロットは意識を保ち、機体のコントロールを続け、最終的には無事に着地しました。ただし、本人は着陸後、酸素不足による苦しさや、長時間の寒さで手が凍えるように痛んだことを振り返っています。
クラウドサックとは何か
この異常な上昇を引き起こしたのが、クラウドサック(cloud suck)と呼ばれる現象です。中国の航空専門家であるWang Yanan氏は、中国メディアChina Media Groupの取材に対し、クラウドサックは積乱雲の近くで発生する非常に強い上昇気流にパラグライダーが引き込まれる現象だと説明しています。
積乱雲の周辺では、暖かい空気が急速に上昇し続けることがあります。この流れに乗ると、パラグライダーの高度は短時間で劇的に上がりますが、その分、制御が難しくなり、どこまで上がるのかを事前に予測することも困難になります。
雲の中で待ち受ける複数のリスク
Wang氏は、クラウドサックによる急上昇は重大な危険を伴うと警告します。いったん雲の内部に入り込むと、パイロットは次のようなリスクに直面します。
- 極端な低温と体の凍結
- 酸素不足による意識障害
- 激しい乱気流による機体の不安定化
- 雷などの気象現象に巻き込まれる危険
高度が上がれば上がるほどこれらのリスクは増大し、クラウドサックは致命的になり得るといいます。今回のケースでパイロットが意識を保ち、無事に降りてこられたことは、結果的には非常に幸運だったと言えます。
旅客機とのニアミスにつながる高さ
もう一つ見逃せないのが、航空機との衝突リスクです。Wang氏は、高度8,000メートルを超えると、多くの旅客機の巡航高度に近づくと指摘します。もしクラウドサックで吸い上げられたパラグライダーの飛行空域が民間航空路と重なれば、規制された空域に突然、小さな飛行体が現れることになります。
北京航空航天大学法学院のZhao Jingwu准教授も、ここに大きな危険があると説明しています。旅客機は高い速度で飛んでおり、パラグライダーのような小さな物体は機上レーダーでは探知が難しい場合があります。そのため、万一衝突が起きれば、結果は壊滅的になりかねません。
中国の統一された空域管理とパラグライダー規制
中国では空域が統一的に管理されており、高度や用途に応じて複数のクラスに区分されています。高度6,000メートル以上の空域はクラスAとされ、主に長距離の民間航空機が利用する、最も厳しく管理されたゾーンです。この領域を飛行する航空機は、計器飛行方式に従い、航空管制機関のサービスを受ける必要があります。
クラスBからEまでの空域もそれぞれ管理が行われており、飛行には一定の条件や許可が求められます。一方で、クラスGやWといった非管制空域では、一般の航空活動が比較的自由に行われますが、それでもパイロットは安全規則を守り、当局と調整しながら空域侵犯を避けなければなりません。
こうした背景から、中国本土でのパラグライダー飛行は厳格に規制されており、事前に航空当局の許可を得る必要があります。特にクラウドサックを利用して高度を稼ぐ飛行は、上昇高度や経路が予測しづらく、空域管理上もリスクが大きいため、スポーツとしても推奨されない手法とされています。
極限スポーツとどう向き合うか
今回の事例は、パラグライダーという身近なアウトドアスポーツが、ひとたび気象条件や空域を読み違えると、命に関わる極限状況になり得ることを改めて示しました。
高度を競うようなチャレンジングな飛行は映像映えもし、SNS上で注目を集めやすい一方で、
- 気象現象の特性をどこまで理解しているか
- 酸素や防寒など装備面をどう準備するか
- 周辺の空域管理や航空路との関係をどう確認するか
といった視点が欠けると、一瞬で取り返しのつかない事態になりかねません。
今年5月の祁連山脈での出来事は、スリリングな映像以上に、空の安全ルールと自然現象へのリスペクトをどう保つかを問いかけています。クラウドサックという言葉を知ることは、単に新しい用語を覚えることではなく、自分や周囲の人の安全を守るための第一歩と言えそうです。
Reference(s):
What is cloud suck, the phenomenon behind the paraglider incident?
cgtn.com







