中国パラグライダーが標高8,598メートルで生還 雲に吸い上げられた男の証言 video poster
今年5月、中国北西部の祁連山脈上空で、55歳の中国人パラグライダーが強烈な上昇気流にのみ込まれ、酸素ボンベなしのまま標高8,598メートルまで達しました。極限状態からの生還談は、高高度パラグライダーのリスクと、自然の力への向き合い方をあらためて問いかけています。
穏やかなテスト飛行が一転、雲の中の「迷子」に
出来事が起きたのは、2025年5月24日。場所は中国北西部・甘粛省にある祁連山脈近くの標高約3,000メートルの訓練サイトでした。55歳のパラグライダー愛好家・彭(Peng)さんは、B級ライセンス保持者として、いつも通りの装備テストを行っていました。
当初は穏やかなコンディションでしたが、状況は突然変わります。急速に発達した積乱雲(入道雲)とともに風が強まり、想定外の上昇気流が発生。降下しようと操作しても機体は高度を上げ続け、気づけば雲の内部にとらえられていました。
彭さんは、中国メディアグループ(China Media Group/CMG)のインタビューで「とにかく早く降りたかったのですが、どうしても降りられず、どんどん上に吸い上げられ、気づいたら雲の中にいました」と振り返っています。
専門家が説明する「クラウドサック」という現象
専門家によると、彭さんが遭遇したのは「クラウドサック」と呼ばれる、まれで危険度の高い気象現象です。これは、強い対流によって生じた上昇気流が、パラグライダーのような軽い滑空機を雲の内部へ一気に吸い上げてしまうものです。
Nanjing University of Information Science and Technology(南京の大学)のZhi Xiefei教授は、こうした雲の内部では気温がマイナス40度まで低下し、酸素濃度も著しく低くなると説明しています。つまり、短時間で凍傷や低体温症、意識障害に陥ってもおかしくない環境です。
酸素なし、マイナス40度の世界で
彭さんは酸素マスクを装着しておらず、顔もむき出しの状態でした。極寒の雲の内部で、顔や体、そして装備にまで氷の結晶が付着していったといいます。
さらに、手袋のジッパーが完全には閉まっていなかったため、手はしびれてほとんど感覚がないほどに冷え切りました。それでも彭さんは、コンパスとチームとの無線連絡を頼りに、必死にパラグライダーのコントロールを続けました。
「本当に恐ろしい体験でした。周りはすべて真っ白で、どちらの方向へ向かっているのか全く分かりませんでした。コンパスがなければ、自分がどこへ向かっているのか知ることはできなかったと思います。まっすぐ飛んでいるつもりでしたが、実際には旋回していたのだと後で分かりました」と彭さんは話しています。
高度8,598メートルまで到達、そして生還
やがて彭さんは雲の外へと抜け出し、無線で仲間に「ようやく出られた」と知らせた後、無事に着地しました。
その後、飛行データを確認して驚きます。最大到達高度は8,598メートル。自分が空中で感じていたよりもはるかに高い高度だったのです。彭さんは、降下中のどこかのタイミングで、一時的に意識を失っていた可能性もあると考えています。
4年半の経験を持つ中級者でも直面した「制御不能」
彭さんはパラグライダー歴4年半で、中国の5段階制のうち2番目にあたるB級ライセンスの保持者です。この資格を取得するには、少なくとも20日間の飛行経験と、40回以上の個別フライトが必要とされています。
それでも、今回のような極端な気象条件を前にすると、経験と技量だけでは避けきれない局面があることが浮き彫りになりました。現在は容体も安定し回復過程にありますが、彭さんは、最も恐ろしかったのは「高度そのものではなく、雲の中で視界を失い、何度も機体の制御を取り戻せなくなりそうになったこと」だと振り返っています。
パラグライダー愛好家への教訓
この出来事は、高高度パラグライダーや山岳地帯でのフライトが、どれほど気象条件に左右されるスポーツなのかをあらためて示しました。専門家は、パラグライダー愛好家に対して次のような点を重視するよう呼びかけています。
- 積乱雲や雷雲など、急速に発達する雲の近くには近づかないこと
- 山岳地帯では、天候が急変することを前提にフライト計画と装備を整えること
- コンパスや無線機などの基本装備を欠かさず、可能な限りチームで飛行すること
アウトドアや極限スポーツの人気が高まるなか、「どこまでが楽しみで、どこからが命を脅かす危険なのか」を見極めることは、多くの人に共通する課題です。祁連山脈上空での彭さんの体験は、自然の力を過小評価しないことの重要性を、強く物語っています。
Reference(s):
cgtn.com







