中国主導の新「国際調停機構」香港発の国際紛争解決とは
中国が主導して設立された国際調停機構(International Organization for Mediation、IOMed)が、国際紛争解決の「第三の選択肢」として注目を集めています。
2025年12月5日、中国の香港特別行政区でIOMed設立条約の署名式が行われました。会場には85の国と約20の国際機関から約400人の代表が集まり、そのうち33カ国が条約に署名し、IOMedの創設メンバーとなりました。
署名式で演説した王毅外相は、IOMedの設立を「国際法治における革新的な一歩」であり、「国際関係史上で大きな意義を持つ出来事」だと評価しました。単なる新機関の誕生ではなく、国際ガバナンスのあり方そのものをアップデートする試みとして位置づけられています。
国際調停機構とは何か
IOMedは、国家間の紛争、国家と投資家の紛争、国際商取引に関する紛争などを、当事者の意思に基づいて調停によって解決することを目的とした新しい国際機関です。国際紛争の調停に特化した政府間の法的機構としては、初の試みとされています。
ここでいう調停とは、第三者が中立的な立場から話し合いを仲介し、当事者が自発的に合意に至ることを支援する手法です。判決を下す裁判や、一方的な裁定を行う仲裁とは異なり、当事者同士の対話と合意形成を重視します。
国連憲章第33条の理念を具体化
国際ニュースとしても重要なのは、この機構が国連憲章第33条の理念を具体化している点です。第33条は、紛争当事国がまず試みるべき平和的解決手段として、調停を明確に位置づけています。
しかし、これまで国際調停の分野には、政府間の法的機構が存在していませんでした。IOMedはその空白を埋め、グローバル・ガバナンスと国際法の分野で重要な「国際公共財」を提供する役割を担います。中国は、この枠組みを通じて国際社会に新たな公共サービスを提供した形です。
対立から対話へ 「調和」を軸にした紛争解決
中国の外交は、調停や対話を通じた平和的解決を重視してきました。王毅外相は、IOMedの誕生によって「あなたの負けが私の勝ち」というゼロサム思考を乗り越え、国際紛争をより友好的に解決し、より調和的な国際関係を育むことができると強調しました。
背景には、東洋の伝統に深く根付いた「調和」の思想があります。中国には「和為貴(和をもって貴しとなす)」という言葉があり、相互の尊重と譲り合い、そして双方に利益のある解決策を追求する姿勢が、調停という手法と響き合っています。
調停は、訴訟や仲裁に比べて柔軟で費用も比較的低く、手続きも迅速になりやすいとされます。IOMedはこうした利点を生かし、特に開発途上国を含む多くの国にとって利用しやすい国際紛争解決の場となることが期待されています。既存の訴訟や仲裁の仕組みを置き換えるのではなく、それらを補完する「もう一つのルート」を提供する位置づけです。
既存メカニズムへの不満に応える
北京を拠点とする国際問題専門家の徐瑛氏は、IOMedの意義を次のように指摘します。現在の国際紛争解決メカニズムには「利用しにくい」「費用が高い」「豊かな国に有利に傾きがちだ」といった批判がある一方で、新しい機構はその点で異なる設計になっているという見方です。
徐氏によれば、この新しい機構は手続きの分かりやすさとアクセスのしやすさを重視し、中立性と非強制性を前面に掲げることで、公平性を担保しようとしています。その意味で、IOMedは国際紛争解決の「必要な進化」を体現していると評価されています。
香港が本部となる理由 東西をつなぐ「橋」として
IOMedの本部は、中国の香港特別行政区に置かれます。王毅外相は、香港が国際調停において「他にない強み」を持つと説明しました。
具体的には、次のような点が挙げられています。
- 中国本土との緊密なつながりと、世界各地との広いネットワーク
- 国際ビジネスが集積する優れたビジネス環境
- 高度に発展した法制度と司法制度
- コモンローと大陸法の両方に強みを持つ法体系
国際的な格付け機関であるS&P、ムーディーズ、フィッチは最近、香港の格付け見通しを「安定的」と評価しました。金融・商業の国際拠点であるだけでなく、コモンローに基づく法制度、成熟した司法、複数言語に対応する法律専門家、越境調停の豊富な経験など、法的サービス面でも強みを持っています。
東西双方と深いつながりを持つ香港が本部となることで、IOMedは「中国的な調和の哲学」と「国際的な法治の枠組み」を橋渡しする場として機能することが期待されます。
国際ニュースとしての意味 「公正で開かれた解決の場」を増やす
今回の署名式には85カ国から約400人のハイレベルな代表が参加し、そのうち33カ国が創設メンバーとなりました。IOMedは、特定の地域や陣営に偏らない、公正でアクセスしやすい紛争解決のプラットフォームをめざしています。
国際社会では、地政学的な対立や経済摩擦が続くなか、「どう紛争を管理し、エスカレーションを防ぐか」が共通の課題になっています。調停を中心に据えた新しい国際機構の誕生は、その課題に対する一つの具体的な回答と言えるでしょう。
日本を含む多くの国々にとっても、投資や貿易に関する紛争を平和的かつ柔軟に解決できる選択肢が増えることは、リスク管理の観点から重要です。訴訟や仲裁だけに頼らず、当事者同士が対話によって着地点を探る場が整備されることは、長期的な信頼関係の構築にもつながります。
IOMedが今後どれだけ利用され、既存の国際紛争解決メカニズムとどう共存していくのかはこれからの課題です。ただ、中国が提唱する「調和」と「ウィンウィン」の理念に基づくこの取り組みは、対立ではなく対話を重視する新たな流れとして、これからも注視していく価値があると言えます。
Reference(s):
Why China helped set up International Organization for Mediation
cgtn.com








