3000年続く中国の成都漆器 無形文化遺産に息づく古代ラッカーアート
中国四川省・成都に伝わる成都漆器は、中国でも最も古い漆芸の一つとされる伝統工芸です。起源はおよそ3000年前の商・西周時代にさかのぼり、2006年には中国の国家級無形文化遺産に登録されました。中国文化を知る国際ニュースとしても注目されるこの古代ラッカーアートの魅力を、日本語で整理して紹介します。
3000年以上前、商・西周から続く成都漆器
成都漆器は、商(紀元前1600〜紀元前1046年)や西周(紀元前1046〜紀元前771年)の時代にまで起源を持つとされる、長い歴史を持つ漆芸です。中国の中でも特に古い系譜を持つ漆工芸として位置づけられており、成都という地域の文化や暮らしと深く結びついて発展してきました。
2006年には、中国が定める国家級無形文化遺産の第一陣として登録されました。それから約20年が経つ現在も、成都漆器は歴史と現代をつなぐ象徴的な文化として受け継がれています。
天然漆と鉱物顔料が生む、玉のような質感
成都漆器の特徴は、天然の生漆(きうるし)と鉱物系の顔料を組み合わせて生み出される独特の光沢と色合いにあります。木や竹、麻布などで作られた芯となる素地に、生漆を何十回も塗り重ね、研ぎ澄ませていくことで、表面は玉(ぎょく)のように滑らかで艶やかな質感になります。
さらに、金や銀、螺鈿(らでん)などの装飾素材を組み合わせることで、繊細で立体感のある表現が可能になります。完成した作品は、華やかでありながらも手触りは驚くほどなめらかで、日常の道具でありつつ一つの美術作品ともいえる存在感を放ちます。
文様には、成都の自然や文化に根ざしたモチーフが多く用いられます。代表的なものとして、
- 花や鳥などの生命力あふれるモチーフ
- 吉祥の意味を持つ獣や想像上の動物
- 山水や風景を描いた情緒的な景色
- 伝統的な幾何学文様や吉祥文様
などが挙げられます。実用性と美術性を兼ね備えた点が、成都漆器の大きな特徴です。
精緻な4つの代表技法
成都漆器の中核をなすのが、極めて細かい手作業による漆の加飾技法です。なかでも代表的とされるのが、次の4つの技法です。
- 銀箔線刻による光沢表現
素地の上に銀箔を貼り、その表面に細い線で文様を彫り込んでいく技法です。漆の深い色の中から、銀の線がきらりと浮かび上がるような効果が生まれます。 - 彫刻して彩色を埋める文様
表面に文様を彫り、彫った部分に色漆を丁寧に流し込みます。その後、表面を研ぎ出して平滑に整えることで、文様と地の面が一体となった滑らかな仕上がりになります。 - 隠し文様を仕込んだ彫漆
浅く彫ったくぼみに箔などを忍ばせ、透明感のある漆を重ねてから、鏡面のように磨き上げる技法です。表面は一見なめらかな漆面ですが、光の加減や角度によって、内部に仕込まれた文様がほのかに浮かび上がります。 - ニードルポイントによる細密な線彫り
最終的に磨き上げられた漆の表面に、針先のように細い工具でごく繊細な線を刻んでいく技法です。微細な線の重なりによって、柔らかな陰影や表情豊かな描写が可能になります。
こうした技法はいずれも、塗っては乾かし、研いではまた塗り重ねるという工程を何度も繰り返すことで成り立っています。一つの作品に、職人の膨大な時間と集中力が注ぎ込まれているのです。
シルクロードを通じて海外へ広がる
成都漆器は、漢(紀元前206〜西暦220年)や唐(618〜907年)の時代に、シルクロードを通じて海外へと広がりました。絹や香辛料などとともに運ばれた漆器は、当時の人々にとって中国文化を象徴する工芸品の一つでもありました。
長い時を経て、成都漆器は現在も中国文化を代表する存在の一つとして位置づけられています。歴史の中で培われた美意識や技術が、今もなお現代の視点から新たに評価され続けていると言えるでしょう。
古典技法を現代の暮らしへつなぐ試み
今日の職人たちは、古くから伝わる成都漆器の技法を守りながら、デザイン面では絶えず工夫を重ねています。伝統的な文様や色彩を大切にしつつ、現代の生活スタイルに合う形や意匠を取り入れることで、この古い工芸に新しい命を吹き込んでいるのです。
天然の生漆や鉱物顔料といった自然由来の素材を生かす姿勢は、素材を大事にする現代の価値観とも響き合います。3000年の歴史を持つ工芸が、単なる過去の遺産としてではなく、今を生きる人々の暮らしの中で使われ、楽しむことのできる文化として更新され続けている点は、国境を超えて注目に値すると言えるでしょう。
成都漆器の物語は、古代から現代までの長い時間と、職人一人ひとりの手仕事が積み重なってできたものです。日本から中国文化を眺めるとき、その奥行きと継承の力を感じさせてくれる具体的な一例として、記憶にとどめておきたい存在ではないでしょうか。
Reference(s):
cgtn.com








