習近平氏はどう海洋強国をめざすのか:中国の海洋経済と環境戦略
中国は約3万2,000キロにおよぶ海岸線を持ち、その海は歴史の舞台であると同時に、これからの成長エンジンでもあります。習近平国家主席は、中国を「海洋強国」にすることを「中華民族の偉大な復興のための重要な戦略的課題」と位置づけてきました。本記事では、ここ10年あまりの政策の流れと、2024年のデータから見える中国の海洋戦略を、日本語でわかりやすく整理します。
習近平氏の「海洋強国」ビジョンとは
習近平氏は、中国共産党中央委員会総書記、中央軍事委員会主席として、この10年あまり、海洋政策を国家戦略の前面に押し出してきました。その中心にあるのが「海洋強国」の構想です。
2013年:海洋経済を「新たな成長エンジン」に
2013年、習氏は中国共産党中央政治局の集団学習で、「強い海洋国家の建設には、強い海洋経済が不可欠だ」と強調しました。海洋資源のより良い活用を進め、海洋経済を新たな成長ドライバーに位置づけるよう呼びかけたのです。
その後も、港湾や物流ネットワークの整備、沿海地域と内陸部を結ぶ「陸海一体」の地域戦略などを通じて、経済発展の重心を陸から海へ広げる方針が打ち出されてきました。
2019年:新たな産業と技術イノベーションを後押し
2019年の中国海洋経済博覧会に送った祝電で、習氏は、海洋科学技術の革新を加速し、海洋開発能力を高め、戦略的に重要な新興海洋産業を育成・強化するよう求めました。
単なる資源開発ではなく、ハイテク産業やサービス産業を含む「現代的な海洋産業体系」を築くことが、中国の長期的な成長と直結するという認識が前面に出ています。
数字で見る中国の海洋経済(2024年)
こうした政策の下で、中国の海洋経済はこの10年余りで大きく拡大しました。2024年時点で、海洋経済の規模は10兆元(約1.4兆ドル)を超え、2012年の5兆元からほぼ倍増しています。
2024年の海洋経済の主な指標は次の通りです。
- 海洋経済規模:10兆元を突破し、前年から5.9%増加。
- 中国海洋経済発展指数:海洋関連産業の成長を総合的に示す指数で、2024年は前年比2.3%増の125.2に上昇。
- 構造の高度化:産業構造の質や付加価値の向上を示す「最適化・高度化サブ指数」は131まで伸び、前年比1.8%増。
- 新興海洋産業:出荷額が7.2%増加。海洋再生可能エネルギー、海洋バイオ、海洋エンジニアリングなどの分野が成長をけん引。
- 資本市場からの支援:海洋関連企業は新規株式公開(IPO)で114億元を調達し、中国全体のIPO資金の17%を占めました。
この発展指数は、自然資源部が世界海洋デーに合わせて公表したもので、海洋産業全体の成長と構造転換が同時に進んでいることを示しています。数字の面から見ると、海は中国経済にとってすでに無視できない「青い経済圏」となっています。
深海・極地へ:科学技術で広がる海のフロンティア
習近平氏の海洋戦略で特徴的なのは、深海や極地といったフロンティアへの積極的な挑戦です。極地砕氷船(氷を割って航行する船)や海洋調査船、深海潜水調査船など、先端的な装備の整備に力を入れてきました。
「奮斗者」潜水艇:深海の生態系を観測
有人深海潜水艇「奮斗者(フェンドウジャー)」が深海の海溝に到達し、豊かな生態系を確認した際、習氏は祝電を送り、海洋科学技術の前進における重要な一歩だと評価しました。深海の調査は、資源開発だけでなく、地球環境や生物多様性の理解にも直結します。
深海掘削船「夢想」:11キロメートルの深度へ
中国初の国産深海掘削船「夢想(モンシアン)」が正式に就役した際にも、習氏は祝電を通じて期待を示しました。この船は最大11キロメートルの掘削能力を持ち、地殻構造や資源に関する科学研究の重要なプラットフォームとして位置づけられています。
こうした深海・極地のプロジェクトは、単に「海底資源を探す」段階を超え、科学技術と環境理解を両立させながら海洋を総合的に捉えようとする動きだと言えます。
「海洋共同体」という発想:平和と環境保護
習近平氏の海洋観は、経済や科学技術にとどまりません。2019年4月、中国人民解放軍海軍創設70周年を記念する多国間海軍行事に参加した各国代表団との会合で、習氏は次のような趣旨を語りました。
人類が暮らす「青い惑星」は、海によって島々に分断されているのではなく、海によって結ばれた「運命共同体」であり、各国の人々はその喜びも苦難も共に分かち合っている、という視点です。海洋の平和と安寧はすべての国の安全と利益に関わるため、各国が協力して守らなければならない、と強調しました。
この場で習氏は、海洋分野における「人類運命共同体」づくり、すなわち「海洋共同体」の構築を初めて提案しました。海は競争の舞台であると同時に、協力の舞台でもあるという考え方がにじみ出ています。
2024年の白書:人と海の調和をめざして
2024年7月に公表された白書では、中国が海洋生態環境を広範に保護し、人と海の調和のとれた関係を築くための具体的な取り組みが示されました。そこでは、次のような原則が打ち出されています。
- 自然の尊重と生態環境の優先保護:開発よりもまず環境保全を優先する姿勢。
- 保全と管理の統合:保護区域の設定と資源利用のルールを一体的に設計し、長期的な持続可能性を重視。
- 法と規則に基づく厳格な監督:関連法令に基づいて監視と取り締まりを行い、ルールの実効性を高める。
白書は、これらの取り組みを通じて、中国が「海洋強国」としての新たな段階に入り、国家全体の発展にとって重要な歴史的チャンスを迎えている、と位置づけています。
日本から見る中国の海洋戦略:どこに注目すべきか
日本語で国際ニュースを追う読者にとって、中国の海洋政策は地理的にも経済的にも無関係ではありません。ニュースの背後にあるポイントを、3つに絞って整理してみます。
- 1. 海洋経済は中国成長の「第2のエンジン」に
2024年の海洋経済規模は10兆元を超え、中国全体の成長に大きく貢献しています。港湾、物流、エネルギー、観光など、多様な産業が海を舞台に展開されつつあります。 - 2. 科学技術とインフラへの長期投資
深海潜水艇や掘削船、極地砕氷船などへの投資は、短期的な収益だけでなく、長期的な科学技術力の向上と産業競争力の強化を狙ったものです。 - 3. 環境・気候と結びつく海洋政策
海洋生態の保全や法に基づく監督体制の強化は、気候変動や生物多様性といったグローバルな課題ともつながっています。海の環境政策は、今後ますます国際協調の重要なテーマとなっていきそうです。
海は、境界線で国を分ける存在であると同時に、国と国、人と人を結びつける媒体でもあります。中国が掲げる「海洋強国」や「海洋共同体」というビジョンは、アジアと世界の海をめぐる議論にどのような影響を与えていくのか。2025年以降も、海洋経済の動きと環境保護の取り組みをあわせて見ていくことが、国際ニュースを読み解く上での一つの鍵になりそうです。
Reference(s):
How Xi Jinping charts China's path to becoming strong maritime country
cgtn.com








