中国でALS向け遺伝子標的薬トファーセン発売 SOD1-ALS治療に新局面
ALSという難病に対し、遺伝子を標的にした新しい治療薬が中国で登場しました。製薬大手バイオジェンのトファーセンが中国で商業的に発売され、中国のALS医療にとって大きな一歩となっています。
ALSとはどんな病気か
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、脳と脊髄にある運動ニューロンと呼ばれる神経細胞が徐々に壊れていく病気です。運動ニューロンは、脳から筋肉へ「動け」という信号を送る役割を担っています。
この細胞が障害されると、手足の力が入りにくくなる、しゃべりにくくなる、飲み込みづらくなるなどの症状が現れます。やがて全身の筋肉がやせ細り、発症から3〜5年で呼吸筋の麻痺による呼吸不全に至ることが多いとされています。
中国でトファーセンの商業提供がスタート
今回、中国で商業的な提供が始まったトファーセンは、ALSの中でも特定の遺伝子変異を持つ患者を対象とした遺伝子標的薬です。バイオジェンが開発し、最近、中国で正式に発売されました。
初回の投与は、北京大学第三医院で行われました。これは、中国で初めて、スーパーオキシドディスムターゼ1(SOD1)遺伝子の変異が原因となるALS、いわゆるSOD1-ALSを直接狙った治療薬が、臨床の現場で利用可能になったことを意味します。
SOD1-ALSと中国の患者
SOD1は、ALSの原因遺伝子として最初に同定された遺伝子です。なかでも中国では、このSOD1がALS患者のあいだで最も一般的な病因遺伝子だとされています。
SOD1-ALSは、おおむね50歳前後で発症することが多く、手足などの四肢から症状が出はじめるケースが目立ちます。上位と下位、両方の運動ニューロンが障害されるため、筋力低下や筋萎縮が同時に進行しやすいのが特徴です。
トファーセンはどう働くのか
トファーセンは、アンチセンス核酸(ASO)と呼ばれるタイプの薬です。アンチセンス核酸は、特定の遺伝子の設計図に結合し、その遺伝子から作られるタンパク質の量を減らす仕組みを持っています。
今回のトファーセンは、変異したSOD1遺伝子から作られる有害なSOD1タンパク質の合成を抑え、神経細胞へのダメージを減らすことをめざします。それによって、運動ニューロンの破壊スピードや病気の進行を遅らせる効果が期待されています。
遺伝子に基づく精密医療への一歩
トファーセンの登場は、ALSの治療が「一律の治療」から「遺伝子やタイプに応じた治療」へとシフトしつつあることを示しています。特定の遺伝子変異を持つ患者だけを対象とする薬が、実際に臨床で使われ始めたという点で、精密医療(プレシジョン・メディシン)の流れに沿った動きと言えます。
患者一人ひとりの遺伝的な背景に合わせて薬を選ぶという考え方は、がんや希少疾患の分野で先行してきました。今回の中国でのALS治療薬の商業化は、神経難病の領域でも同様のアプローチが現実になりつつあることを象徴しています。
患者と家族にもたらすものは何か
ALSは、進行性で命に関わる病気であるため、患者と家族は「少しでも進行を遅らせたい」という思いを強く抱えています。SOD1-ALSという限られた対象ではあるものの、病気のメカニズムそのものに働きかける薬が選択肢に加わったことは、大きな意味を持ちます。
一方で、誰がどのタイミングで遺伝子検査を受けるのか、どのように専門医療につなげるのかといった実務的な課題もこれから浮かび上がってきます。遺伝子に基づく治療が広がるほど、「診断」「治療」「生活支援」を一体として考える体制づくりが重要になっていきます。
国際ニュースとしての意味
今回の中国でのトファーセン発売は、ALS治療の新たな局面を示す国際ニュースとして注目されています。中国での経験やデータは、今後、アジアを含む世界のALS医療の議論にも影響を与えていく可能性があります。
遺伝子を標的とした治療薬が実際に患者のもとに届き始めた今、私たちが考えるべきなのは「新しい薬があるかどうか」だけではありません。誰がその薬にアクセスできるのか、どのような支援があれば患者と家族がより良い生活を送れるのか。そうした問いを共有しながら、ALSという難病に向き合う社会の姿も問われています。
Reference(s):
Breakthrough gene-targeted drug for ALS patients launched in China
cgtn.com







