国際ニュース:新疆イーニンのアコーディオン博物館 ロシア系職人アレクサンドルの40年 video poster
中国・新疆ウイグル自治区の街イーニンに、世界各地のアコーディオンが静かに並ぶ博物館があります。そこをつくったのは、三世代目のロシア人として同地に生まれ育ったアレクサンドル・ザズーリン(Alexander Zazulin)さん。約40年にわたって集めた楽器とともに生きてきた一人の職人の歩みは、国際ニュースのなかでも「文化をどう受け継ぐか」を考えさせてくれます。
新疆で育ったロシア系三世とアコーディオンの出会い
ザズーリンさんは、新疆で生まれ育ったロシア系三世の人です。幼いころからアコーディオンの音色に心を奪われ、演奏するだけでなく、仕組みを理解し、修理し、手入れし、長く残していくことに強い関心を抱くようになりました。
年月を重ねるなかで、彼は演奏家であり、修理職人であり、コレクターであり、そして保存・継承に取り組む担い手でもある、いわば「アコーディオンのすべてを知る人」へと成長していきます。
1991年に開いた修理店、地域と世界に知られる存在に
1991年、ザズーリンさんはイーニンにアコーディオンの修理店を開きました。小さな工房から始まった店は、その技術と丁寧な仕事ぶりが評価され、地元で知られる存在になっていきます。
壊れたアコーディオンを一台ずつ直し、また新しい持ち主へと橋渡ししていくうちに、その評判は地域をこえて広がりました。やがて修理店は、地元だけでなく海外からも知られる工房として、国境をこえる音楽ファンや演奏家を引き寄せる場所になっていきます。
ザズーリンさんの歩み(タイムライン)
- 子どものころからアコーディオンに魅了され、独学で演奏と構造を学ぶ
- 1991年:イーニンでアコーディオン修理店を開業
- 約40年をかけて、20を超える国から800台以上のアコーディオンを収集
- 修理・収集の経験をもとに、地元政府の支援を受け博物館を設立
- 2013年:新疆のロシア民族に伝わるバヤン・アコーディオン文化の無形文化遺産伝承者として顕彰される
800台超のコレクション アコーディオンが語る「物語」
ザズーリンさんは、過去40年あまりの時間をかけて、20を超える国から800台以上のアコーディオンを集めてきました。ひとくちにアコーディオンといっても、その形や音色、装飾、つくられた時代や国はさまざまです。
集まった楽器は、単なる「古い楽器」ではありません。一台ごとに、かつての持ち主の人生や、その土地の音楽文化、時代背景といった物語が刻まれています。ザズーリンさんは、それらを丁寧に手入れしながら、「音の記憶」として次の世代へつなごうとしています。
地元政府の支援で生まれた「アレクサンドル・アコーディオン博物館」
こうした長年の収集と修理の経験をもとに、ザズーリンさんは、地元政府の支援を受けて「アレクサンドル・アコーディオン博物館」を開設しました。場所はイーニンの流星街(Liuxing Street)で、面積は約1200平方メートルにおよびます。
館内には、世界各地から集まったアコーディオンがずらりと並びます。訪れた人は、見た目の違いだけでなく、楽器の背後にある国や地域の歴史、演奏スタイルの多様さにも触れることができます。ザズーリンさんにとって、この博物館は、自身の人生の集大成であると同時に、音楽を通じた交流の場でもあります。
一台一台のアコーディオンには、製作された国や年代、どのような人が弾いてきたのかといった物語があります。ザズーリンさんは、それぞれの楽器がもつ背景を来館者に伝えながら、「楽器そのものが小さな語り手」であるかのように展示を工夫しているとされています。
バヤン・アコーディオンの文化を受け継ぐ無形文化遺産伝承者
2013年、ザズーリンさんは、新疆に暮らすロシア民族のバヤン・アコーディオン文化を守り伝える存在として、無形文化遺産の伝承者に顕彰されました。バヤン・アコーディオンは、ロシアなどで広く演奏される鍵盤楽器で、豊かな音量と表現力が特徴です。
無形文化遺産の伝承者に選ばれるということは、単に技術が優れているというだけでなく、その文化を次の世代へ伝え、広く知ってもらう役割を担うことを意味します。ザズーリンさんは、演奏や修理、博物館での展示を通じて、バヤン・アコーディオンの魅力やロシア民族の音楽文化を伝え続けています。
アコーディオンは「生涯の相棒」 時をこえる音のささやき
ザズーリンさんにとって、アコーディオンは単なる楽器ではなく、「生涯のソウルメイト(心の友)」のような存在です。人生のさまざまな場面で、喜びや悲しみ、出会いと別れのそばには、いつもアコーディオンの音色があったのかもしれません。
博物館に並ぶ数百台の楽器たちは、静かに置かれているだけでなく、それぞれが時をこえてささやきかけてくるようでもあります。かつて誰かが奏でたメロディーや、遠い国の風景、そこで暮らしていた人びとの記憶が、音のない展示室の空気のなかに、ふと立ち上がってくるかのようです。
ニュースの向こう側にある「文化を受け継ぐ力」
ザズーリンさんの物語は、国境や民族をこえた文化交流の一つのかたちとして読むことができます。新疆で育ったロシア系三世が、世界20を超える国からアコーディオンを集め、自ら修理し、博物館として公開しているという事実は、個人の情熱が社会全体の文化資産へと変わっていく過程を示しています。
2025年のいま、国際ニュースには政治や経済の大きな動きが並びますが、その足もとでは、ザズーリンさんのように、目の前の文化を丁寧に守り、次の世代へ手渡そうとする人たちが世界各地にいます。日々のニュースを追う私たちにとっても、「自分が大切にしてきたものを、どう次につなぐのか」という問いは、決して他人事ではありません。
イーニンの一角にあるアコーディオン博物館で、一台一台の楽器が静かに語りかける物語は、そんな問いをそっと投げかけているように見えます。
Reference(s):
cgtn.com








