中国科学院が示したAIのモノ理解 人間に近づく大規模言語モデル
AIは本当に「理解」しているのか――。中国科学院の研究チームが2025年6月9日に発表した最新研究は、マルチモーダル大規模言語モデルが人間に近いモノの概念を自発的に形成している可能性を示し、AIの認知研究に新たな一歩を刻みました。
中国科学院が示したAIのモノ理解とは
中国科学院自動化研究所と神経科学研究所の研究チームは、科学誌Nature Machine Intelligenceにオンライン掲載された論文で、マルチモーダル大規模言語モデルが人間とよく似た「モノの概念表現」を内部に構築していることを初めて確認したと報告しました。
人間は、物体を単に形や色といった見た目だけで認識しているわけではありません。その用途、感情的なイメージ、文化的な意味合いなど、多次元的な情報が組み合わさった概念として理解しています。論文の第一著者である杜昌徳氏は、こうした多次元の概念表現こそが人間の認知の土台になっていると説明しています。
研究の中身:470万件の判断から66次元の世界へ
研究チームが挑んだのは、大規模言語モデルが言語やマルチモーダルなデータだけから、人間に似た概念構造を自力で獲得できるのかという根本的な問いでした。
そのために研究者たちは、テキストのみを扱うモデルと、テキストと画像など複数の情報を扱うマルチモーダルモデルの両方から、合計470万件の三つ組判断を収集しました。対象となったのは、日常生活で見かける1854種類の自然物体です。
これらのデータをもとに、物体同士の「どれがどれに似ているか」という関係性を、66次元の埋め込み空間としてマッピングしました。この埋め込み空間は安定しており、さまざまなタスクに対して予測能力を持つことが示されたほか、人間の心の中にある概念表現に似た意味的なクラスター構造も確認されたといいます。
人間の認知とAIの違い:見た目か意味か
興味深いのは、人間とモデルが似たような結果にたどり着きながらも、その途中のプロセスが異なっている点です。
人間は物体を判断するとき、視覚的な特徴と意味情報を組み合わせて考える傾向があります。これに対し、今回分析された大規模言語モデルは、視覚的な細部よりも、言語ラベルや抽象的な意味情報により強く依存していることが分かりました。
それでも最終的な概念空間は、人間の心的表現とよく似た構造を示しました。これは、モデルが単に表面的なパターンをまねているだけでなく、世界の対象を一定の一貫したルールで整理していることを示唆します。
「認識」から「理解」へ:研究者の見方
論文の責任著者である何恵光氏は、この成果を「機械認識から機械理解への飛躍」と位置づけています。これまで一部の専門家は、大規模言語モデルを統計的なパターンをなぞるだけの「統計的オウム」と批判してきました。
しかし今回の結果は、こうしたモデルが現実世界の概念について内部モデルを持ち、人間とは異なる計算経路をたどりながらも、人間に近い認知的な結論に到達しうることを示しています。すなわち、モデルは単なる「オウム」ではなく、限定された形ではあれ、モノの意味構造を自律的に組み立てているという見方が強まりました。
今後のAIと社会へのインパクト
この研究は、今後のAI開発にいくつかの重要な示唆を与えています。第一に、言語とマルチモーダルなデータから学習した大規模言語モデルが、人間のような概念空間を形成できるなら、より人間に近い人工的な認知システムの設計が現実味を帯びてきます。
例えば、家庭用ロボットや対話型エージェントが、物体の見た目だけでなく、その用途や文脈上の意味まで踏まえて判断できるようになれば、人とのやり取りは格段に自然になるでしょう。教育や医療など、人間の感情や文化的背景への理解が求められる領域でも、応用の可能性が広がります。
同時に、AIが人間に近い「モノの理解」を持つようになることは、その能力をどう位置づけ、どのように社会に組み込むのかという新たな問いも投げかけます。今回示されたのは、あくまで概念表現の一側面ですが、AIの内側で何が起きているのかを丁寧に解き明かしていくことが、今後ますます重要になりそうです。
世界のAI研究は、認識から理解へと一歩ずつ進んでいます。今回の中国科学院の成果は、機械が人間の認知にどこまで近づきつつあるのかを考えるうえで、見逃せない国際ニュースと言えそうです。
Reference(s):
Chinese Scientists Reveal AI’s Capacity for Human-Like Object Cognition
globaltimes.cn







