中国の若者が古い技をアップデート:李子柒と無形文化遺産の新しい物語
古い職人技が、スマホの画面の中で新しい物語を紡いでいます。2024年11月11日、中国のミレニアル世代のショート動画クリエイターである李子柒(Li Ziqi)さんが、4年ぶりにインターネットへ復帰し、無形文化遺産をテーマにした動画で国内外の注目を集めました。
4年ぶりのカムバックが映した無形文化遺産の力
今回の国際ニュースの中心にあるのは、中国の無形文化遺産(Intangible Cultural Heritage、ICH)と若い世代の出会いです。李子柒さんは、復帰後の動画で成都漆器(Chengdu lacquerware)の無形文化遺産技術を使い、祖母のために洋服タンスを修復しました。
この動画は公開からわずか5時間で、中国のソーシャルメディア「ウェイボー」で1億回以上再生されました。さらに、YouTube などの国際的な動画プラットフォームでも2日間で1000万回を超える視聴が記録され、精緻な漆芸の美しさは、中国国内だけでなく海外の視聴者も魅了しました。
「おばあちゃんのタンス」をよみがえらせるという物語
李子柒さんの動画で印象的なのは、無形文化遺産の技術が、特別な儀式ではなく「祖母のタンスを直す」という日常の物語に結びついている点です。高度な漆器の技が、遠い過去の職人文化ではなく、家族の記憶を大切にする行為として描かれています。
無形文化遺産というと、しばしば「守るべき伝統」として語られがちです。しかしこの動画では、「守る」だけでなく、「いまの暮らしの中で使う」「次の世代に自然に受け渡す」といった視点が前面に出ています。視聴者は職人技の細かさだけでなく、その背景にある感情や関係性にも引き込まれていきます。
シュウ錦の百褶裙:身にまとう無形文化遺産
別の動画では、李子柒さんは鮮やかな黄色のシュウ錦(Shu brocade)の百褶裙(ひゃくひだスカート)を身に着けています。手作りのスカートの色彩と質感を通じて、中国の無形文化遺産の美しさが、彼女ならではの美意識によって世界に届けられています。
ここでも、無形文化遺産は「鑑賞するもの」ではなく「身にまとうもの」として提示されています。着る人とともにある布地は、伝統技術がいまも生きていることを静かに語ります。
SNS時代に古い技を届ける3つのポイント
短い動画でありながら、李子柒さんの作品には、無形文化遺産を世界に届けるためのヒントがいくつか見えてきます。
- 物語性を持たせること:祖母のタンスを修復するという具体的なストーリーがあることで、視聴者は技術だけでなく感情にも共感しやすくなります。
- 日常とつなぐこと:特別な祭りや式典ではなく、日々の暮らしの中で伝統技術をどう使うかを見せることで、「自分ごと」として想像しやすくなります。
- 国内外を同時に意識すること:ウェイボーでの1億回以上の再生と、YouTube での1000万回超の視聴という両方の数字は、同じコンテンツが国内と国際社会の双方に届き得ることを示しています。
中国の若者が書き換える「伝統」のイメージ
李子柒さんのような中国の若いクリエイターは、古い技をただ「再現」するのではなく、現代の感性と技術を通して語り直しています。そこでは、伝統と革新は対立するものではなく、お互いを支え合う関係として描かれます。
無形文化遺産が、教科書や博物館の中だけにあるのではなく、祖母のタンスや手作りのスカートとして画面の向こうで息づいている。この感覚こそが、多くの視聴者の心をつかんだ理由の一つだと言えるでしょう。
日本の私たちにとってのヒント
日本にも、数え切れないほどの伝統工芸や地域の技があります。李子柒さんの動画は、それらをどう次の世代につなぐか、という問いを私たちに静かに投げかけています。
・無形文化遺産を「特別なもの」として遠ざけるのではなく、日常の小さな物語と結びつけること。
・国内だけでなく、海外の視聴者にも届く言葉や表現を工夫すること。
・技そのものの希少性だけでなく、それに込められた思いや暮らし方を一緒に伝えること。
2024年11月11日の一つの動画から見えてくるのは、中国の若者たちが、古い技を新しい時代の物語の中に位置づけ直している姿です。その動きは、2025年を生きる私たちにとっても、自分たちの足元にある文化を見つめ直すきっかけになるかもしれません。
Reference(s):
How China's youth are writing a new chapter for ancient crafts
cgtn.com








