大気中から飲み水を集める新素材 世界の水不足に挑む国際ニュース
大気中の湿気から効率よく飲み水を取り出せる、超軽量のナノ素材が開発されました。世界で安全な水にアクセスできない22億人の問題に、新しい選択肢を示す国際ニュースです。この成果は、最近公表された研究で明らかになりました。
大気中の湿気をつかまえる「超軽量ナノ素材」とは
オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)などの国際研究チームは、グラフェン酸化物(グラフェンを酸化した炭素素材)にカルシウムイオンを加えたエアロゲルという超軽量のナノ材料を開発しました。エアロゲルは内部がスポンジのように多孔質になっているため、非常に軽く、大量の水分子を取り込めるのが特徴です。
研究チームによると、グラフェン酸化物にカルシウムイオンを導入すると、分子レベルで予想外の「相乗効果」が生まれました。水分子を引きつける水素結合が強まり、それぞれ単独のときよりもはるかに多くの水を吸着できる「1+1が2を超える」効果が確認されたといいます。
UNSW材料科学・工学部のRen Xiaojun(レン・シャオジュン)氏は、この「期待以上に強い水素結合」が、今回の素材が極めて高い水の吸着能力を示した理由の一つだと説明しています。
既存技術の3倍の速さで水を吸着
UNSWの発表によると、このカルシウム強化グラフェン酸化物エアロゲルは、既存技術と比べて3倍以上の速さで大気中の水蒸気を吸着し、自身の重さの3倍以上の水を保持できます。ナノレベルの細孔(ナノポア)構造が水分子の取り込みを加速し、少ないエネルギーで水を放出できる点も特徴です。
素材に吸着された水は、約50度の比較的低い温度で放出できるとされます。これは太陽熱や低温の排熱など、身近なエネルギー源を活用しやすい温度帯であり、水不足地域での利用にとって大きな利点となります。
22億人が安全な水にアクセスできない現実
研究チームは、世界では現在も約22億人が安全な飲み水にアクセスできていないと指摘しつつ、地球全体としては大気中に約1,300万ギガリットルもの膨大な水が存在していると説明しています。この「空の貯水池」を効率よく利用できれば、水不足の解決策の一つになり得ます。
UNSWのRakesh Joshi(ラケシュ・ジョシ)准教授は、「十分な湿度はあるが、清潔な飲料水へのアクセスが限られている、あるいはほとんどない地域なら、どこでもこの技術が応用できる」と話しています。砂漠の縁辺部や島しょ地域、インフラが整っていない農村部など、利用が期待される場面は多そうです。
国際チームとスーパーコンピューターが支えた研究
この研究は、オーストラリア研究評議会のカーボンサイエンス&イノベーション卓越センター(ARC COE-CSI)が主導し、シンガポール国立大学のノーベル賞受賞者、Kostya Novoselov(コスチャ・ノボセロフ)氏らが参加しました。オーストラリア、中国、日本、シンガポール、インドの研究者が連携する、国際的なプロジェクトです。
研究成果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されました。実験と理論の両面から検証を進めるため、オーストラリア・キャンベラにあるAustralian National Computational Infrastructure(国家計算基盤)のスーパーコンピューターを用いた高度なシミュレーションも行われたとされています。
産業化へのハードルとこれから
現在、産業界のパートナー企業が、このナノ素材を実用レベルまでスケールアップする取り組みを進めています。研究室レベルの試料から、実際の装置やシステムに組み込める形にするには、生産コストや耐久性、メンテナンスのしやすさなど、多くの課題があります。
それでも、軽量でエネルギー効率の高い水回収素材が実用化されれば、送水インフラが整っていない地域や、災害時の緊急用水源、小規模な分散型の給水システムなどに新しい選択肢を提供する可能性があります。
技術だけでは解けない課題、でも選択肢は増える
大気中の水を集める技術は、水不足を「一気に解決」する魔法の道具ではありません。水資源の管理や節水、汚染対策、気候変動への対応など、取り組むべき課題は多方面に広がっています。
それでも、今回のような国際協力による素材開発は、「どこから水を手に入れるのか」という発想そのものを広げてくれます。遠い未来の話ではなく、今後の数年から十数年で、私たちの日常の水の風景が静かに変わっていく可能性もあります。こうした国際ニュースを手がかりに、水と社会の関係をあらためて考えてみたいところです。
Reference(s):
cgtn.com







