中国全人代常務委が医療保険・食品安全・データ権保護の法改正案を審議
中国の最高立法機関である第14期全国人民代表大会(全人代)常務委員会の第16回会議が北京で始まり、医療保険、社会救助、食品安全、民用航空、データ権保護など、国民生活と経済に直結する幅広い法案が集中的に審議されています。
幅広い分野を網羅する第16回会議
今回の全人代常務委員会では、治安管理、不正当競争、公衆衛生上の緊急事態、海事分野、民用航空などを対象とする法改正案や新法案が審議されています。あわせて、基層ガバナンス(地方レベルの統治)、社会救助、医療保障、食品安全など、暮らしに密着した分野に関する提案も議題に上っています。
国際分野では、国際調停機関の設立に関する条約である国際調停機関設立条約の批准案も審議されており、中国の国際的な紛争解決枠組みづくりへの関与のあり方にも注目が集まります。
会期は金曜日までの日程が予定されており、一連の法案の行方が焦点となっています。
医療保険法案:国民皆保険の制度を明確化
注目を集めるのが、国の基本的な医療保険制度の整備を目的とした医療保険法案です。今回が初めての審議であり、中国の普遍的な医療保障制度を法律として明文化する動きと位置づけられます。
国家医療保障局のZhang Ke局長によると、法案には医療保障制度の枠組みを定める独立した章が設けられました。この章では、都市部の従業員向け基本医療保険、都市・農村住民向け基本医療保険、出産保険について、それぞれの対象範囲、拠出の仕組み、給付内容が明確にされています。
さらに、医療保険基金の安全かつ安定的な運用を確保するため、基金収支管理に対する監督を強化する規定も盛り込まれています。
- どの保険が誰をカバーするのかを明示
- 保険料の集め方と財源構造をルール化
- 給付の範囲と水準を法律で保証
- 基金の収支監督を強化し、不正や無駄遣いを抑制
高齢化が進む中、医療保険基金の持続可能性と透明性を高めることは、社会の安定と経済運営の両面で重要なテーマとなっています。
社会救助法案:支援の「抜け漏れ」を防ぐ仕組みづくり
社会救助に関する法案も初めて全人代常務委員会に提出され、生活に困窮する人々への支援を法的に位置づける狙いがあります。
この法案は、社会救助の対象範囲を広げるとともに、最後のセーフティーネットとしての機能を強化する内容となっています。基層の当局に対しては、住民の生活状況を日常的に把握し、法に基づいてタイムリーに支援を行うよう求めています。
また、個人、法人、その他の組織が社会救助に参加しやすくするための仕組みを整備・拡充することも盛り込まれており、公的支援と民間の支えを組み合わせた多層的な支援ネットワークを構築する方向性が示されています。
食品安全法改正案:液体食品や乳児用ミルクに重点
食品安全をめぐっては、食品安全法の改正案が初めて審議されました。食品安全法は2009年に制定され、2015年に全面改正、2018年と2021年にも改正が行われており、今回も社会の変化に合わせたアップデートとなります。
改正案には、重要な液体食品のバルク輸送(大量輸送)に対する監督を強化すること、乳児用調製液体ミルクを登録管理の対象とすること、不正や違反行為に対する罰則をより厳しくすることなどが盛り込まれています。
食の安全は国内消費者だけでなく、輸出入ビジネスや国際ブランドにも直結するテーマであり、規制の明確化は企業にとっても重要なシグナルとなります。
民用航空法改正案:インフラと低空経済をテコ入れ
民用航空分野では、民用航空法の改正案が2回目の審議に入っています。中国の民用航空セクターの発展を後押しすることが目的とされ、インフラ整備から人材育成、安全基準まで幅広い内容が含まれています。
改正案では、民用航空インフラの建設を強化し、科学技術研究や教育への支援、専門人材の育成、航空の安全性とサービス水準の向上を打ち出しています。
さらに、重要分野のコア技術の研究開発を支援し、大型航空機や高性能エンジンの設計能力を高めること、科学技術イノベーションの成果を産業化し、民用航空製造業の発展を促すことも明記されています。
注目されるのが低空経済の発展を推進する規定です。低空経済とは、低高度の空域を活用した新たな産業やサービス全体を指す概念であり、ドローン物流や新たな移動サービスなど多様なビジネスの土台になると見られています。
反不正当競争法改正案:データ権とプラットフォーム規制を強化
市場秩序とデジタル経済に関わる重要な動きとして、反不正当競争法の改正案も2回目の審議に入りました。今回の改正は、データ権利の侵害や悪意ある取引行為への規制を強化することを主な目的としています。
改正案は、さまざまな形態の悪意ある取引行為を定義したうえで、全国的な公正競争審査制度の整備を打ち出しています。
特にオンラインプラットフォームに対しては、競争を歪める行為を防ぐための具体的なルールが示されています。
- 事業者に対し、コストを下回る価格での販売を強制したり、間接的に圧力をかけたりすることを禁止
- プラットフォーム運営者に対し、サービス利用規約や取引ルールの中で、公正な競争ルールを明確に示すことを義務付け
反不正当競争法は1993年に制定され、社会主義市場経済の健全な発展を図り、公正な競争を奨励・保護し、不正当な競争行為を抑制し、事業者と消費者の正当な権益を守ることを目的としてきました。今回の改正は、データとプラットフォームが経済活動の中核となる時代に合わせたアップデートといえます。
国際調停条約の批准審議:紛争解決ルールづくりへの一歩
今回の会議では、国際調停機関設立条約の批准案も審議されています。この条約は、国際的な調停機関の設立と運営の枠組みを定めるものとされ、中国が国際ビジネスや紛争解決のルール形成にどのように関与していくかを考えるうえでも注目されます。
今回の動きから読み取れる三つのポイント
今回の全人代常務委員会の議題を俯瞰すると、中国のガバナンスと経済運営の方向性がいくつか浮かび上がります。
- 医療保険や社会救助、食品安全など、社会保障と生活の安全網を法制度として一段と強化しようとしていること
- 反不正当競争法改正を通じて、データ権保護やプラットフォーム規制を明確化し、デジタル経済のルールづくりを進めようとしていること
- 民用航空法改正や低空経済の推進を通じて、航空インフラや先端製造業といった戦略分野の発展を後押ししていること
これらの法整備は、中国国内の暮らしやビジネス環境に直接影響するだけでなく、国際的な企業や投資家にとっても、今後のルール形成やリスク管理を考えるうえで重要な指標となります。会期最終日に向けた審議の進展と、最終的にどのような条文が採用されるのかが注目されます。
Reference(s):
cgtn.com








