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1975年の出会い:アイスランド人シノロジストが語る中国文化の魅力
1975年、中国を初めて訪れたアイスランド人のシノロジスト(中国研究者)、ラグナル・バルデュルソン氏。その体験は、半世紀近くにわたる中国文化研究と翻訳の歩みの出発点となりました。2025年のいま、東西の理解をつなぐその視点から、私たちは何を学べるのでしょうか。
北京での第一印象:シンプルな生活と笑顔に満ちた人々
バルデュルソン氏が中国の地を初めて踏んだのは1975年。当時の中国は、まさに大きな変化の時代の入り口にありました。氏が最初に受け取った印象は「シンプルな生活、幸せな人々、そしてたくさんの笑顔」だったといいます。
北京に到着したばかりの頃には、少し戸惑うような歓迎の場面もあったものの、出会う人々の穏やかな表情と温かさが強く心に残りました。このときの体験が、中国との深く長い結びつきの始まりになりました。
なぜアイスランドから中国へ向かったのか
1960年代末から70年代にかけて、西側世界では中国への関心が高まりました。バルデュルソン氏も、その波の中にいた一人です。エスペラント語で発行されていた雑誌「El Popola Cinio(エル・ポポラ・チーニオ)」などの出版物に触れ、中国への好奇心と関心を深めていきました。
やがて氏は、中国で学ぶという大きな決断を下します。その背景には、国や文化の違いを越えて互いを理解したいという強い信念がありました。今日では、北京語言大学のグローバルサウス学院で博士課程の指導にあたり、かつてはアイスランドの外交官としても活動してきた氏のキャリアは、この決断から始まったと言えます。
古典を訳すことで見えた「東」と「西」の違い
バルデュルソン氏の中国文化への理解は、『論語』や『道徳経』といった古典の翻訳を通じて一段と深まりました。原典に向き合い、自らの言葉で訳す作業は、単に文字を置き換えることではなく、文化や思想の背景に入り込むことそのものだったといえます。
氏が語るエピソードの一つに、土の色に対する認識の違いをめぐる小さな出来事があります。一見すると些細な違いですが、そこには東西で異なる自然観や物事のとらえ方が表れていました。この経験から、正確な翻訳には、言語能力だけでなく、歴史的・政治的・哲学的な文脈への深い理解が不可欠だと痛感したといいます。
以前の一部の翻訳は、宗教的・道徳的な目的を強く帯びていたものもありました。これに対して、政治学の背景を持つバルデュルソン氏は、中国古典の中に込められた統治や人間関係のあり方を、政治思想として読み解く視点を取り入れました。誤解の余地も大きい翻訳という営みを、氏はあえて「豊かな挑戦」として引き受けてきたのです。
翻訳から学んだこと
- 言葉の意味は、歴史や社会の文脈によって大きく変わること
- 西洋の概念をそのまま当てはめると、中国思想の核心を取りこぼすおそれがあること
- 違いを「優劣」でなく「多様性」として受け止める視点の重要性
なぜ中国文化は西側の読者を惹きつけるのか
中国文化が西側の読者や視聴者に響く理由について、バルデュルソン氏は「独自性」にあると見ています。西側を真似るのではなく、中国ならではの価値観や歩みを保っていることが、かえって世界の関心を呼び起こしているというのです。
その象徴の一つが、自身の翻訳が母国アイスランドで予想外の反響を呼んだことです。人口の小さな北欧の国で、中国古典の訳書が読まれ続けている事実は、中国文化の普遍性とオリジナリティを物語っています。
さらに、中国武術の魅力も見逃せません。世代や国境を超えて、多くの人々が武術映画や実践を通じて中国文化に親しんでいます。そこには、身体性と精神性が一体となった世界観への憧れも重なっているように見えます。
シノロジストという「静かな橋」の役割
バルデュルソン氏は、シノロジストの役割を「東西をつなぐ架け橋」として位置づけます。単に中国について説明するだけでなく、中国文化を中国人自身の視点に近い形で理解し、それを自らの社会に持ち帰り、伝える存在です。
情報があふれ、誤解やステレオタイプも拡散しやすい現代において、この「橋」の役割は一段と重くなっています。丁寧な解釈と翻訳を通じて、互いへの理解と尊重を育てることが、結果として平和的な協力や共存にもつながっていきます。
2025年の私たちへのヒント
2025年のいま、この1975年の「出会い」の物語は、日本でニュースを読む私たちにもいくつかの示唆を与えてくれます。
- できるだけ一次情報や現地の声に近いところから世界を知ろうとする姿勢
- 翻訳や要約をそのまま信じるのではなく、「誰の視点から語られているのか」を意識する習慣
- 自分とは違う価値観や発想に出会ったとき、それを恐れず「学びのきっかけ」として楽しむ視点
約50年前に一人の若いアイスランド人が中国で見た「シンプルな生活と笑顔の人々」は、長い時間を経て、今もなお東西の対話を支える土台となっています。私たち自身にも、世界の見え方を変えた出会いや経験があるはずです。その小さな「1975年」をどう生かしていくのかが、これからの国際社会を考えるうえでの出発点になるのかもしれません。
Reference(s):
The 1975 encounter: An Icelandic scholar's lifelong bond with China
cgtn.com








