UCLA教授が訴える楚帛書の「再会」 分断された古代文献を中国へ video poster
約2300年前の絹の文書・楚帛書(Chu Silk Manuscripts)をめぐり、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のロタール・フォン・ファルケンハウゼン教授が、分断された巻を再びそろえ、中国で一体として保存すべきだと訴えています。2025年5月には、スミソニアン協会のナショナル・ミュージアム・オブ・アジアン・アートから2巻が中国へ返還されましたが、最も完本に近い第1巻はいまだ海外にとどまったままです。
楚帛書とは何か――約2300年前の絹に記された古典
楚帛書は、長沙市の子弾庫遺跡で出土した古代中国の文書で、現存する中で最古級の「絹に書かれた古典文献」とされています。出土した資料は、およそ2300年前にさかのぼるとされ、中国考古学や古代思想の研究にとって欠かせない史料です。
今回あらためて注目を集めている理由は、その歴史的価値だけではありません。楚帛書が本来、一つのセットとして作られたにもかかわらず、現在は巻ごと・断片ごとに分かれ、異なる機関で保管されているからです。
- 出土地:長沙・子弾庫遺跡
- 材質:絹(シルク)
- 年代:約2300年前
- 特徴:現存する最古級の絹製の古典中国文献
2025年5月、2巻が中国へ返還 しかし断片のまま
2025年5月、スミソニアン協会のナショナル・ミュージアム・オブ・アジアン・アートが所蔵していた楚帛書の二つの巻を中国に返還しました。これは、文化財の返還と国際協力の観点から重要な一歩といえます。
一方で、返還された巻は現在も断片の状態にあり、全体像を一望できるかたちにはなっていません。しかも、最も完全な形で残っている第1巻は、依然として海外の機関に所蔵されているとされます。つまり、
- 2巻は中国に戻ったが、断片の状態
- 最も完本に近い第1巻は、なお海外にある
という「部分的な再会」にとどまっているのが現状です。
ファルケンハウゼン教授「全体として見て、全体として守るべき遺産」
中国考古学の第一人者の一人とされるファルケンハウゼン教授は、インタビューの中で楚帛書の意義をあらためて強調しました。教授は、楚帛書が単なる古文書ではなく、当時の世界観や知識体系を読み解くための鍵であり、「断片ごとにばらばらに保管されるべきではない」と指摘します。
教授によれば、楚帛書の価値は、
- 一つのセットとして読まれることで、初めて全体像が見えてくること
- 物理的にも一体として保存することで、文脈やレイアウトなどの情報が守られること
にあります。そのうえで教授は、今こそ第1巻を中国へ戻し、すべての巻を一つの場所で「再会」させるべきだと呼びかけています。これは、特定の機関を非難するものではなく、文化遺産をどのように守り、どこで共有していくかという、より大きな問いかけでもあります。
英語版刊行で広がる国際的な議論
こうした議論を後押ししているのが、今年正式に刊行された英語版『The Chu Silk Manuscripts from Zidanku, Changsha (Hunan Province)』です。この書籍は、Chinese University of Hong Kong Pressから出版され、ファルケンハウゼン教授と、米シカゴ大学のドナルド・ハーパー氏が共同で翻訳を担当しました。
英語版の刊行によって、これまで限られた専門家しか直接触れられなかった楚帛書の内容が、世界中の研究者や学生に開かれつつあります。古代中国の思想・歴史に関心を持つ人々にとって、原文と翻訳を照らし合わせながら読むことができる貴重な手がかりになるからです。
同時に、この英語版は、文化財返還や国際協力をめぐる議論の新たな土台にもなり得ます。なぜなら、
- 誰もが内容にアクセスできることで、「どこで保存されるのがふさわしいか」をより具体的に考えられるようになる
- 翻訳作業そのものが、国境をこえた学術協力の象徴となる
からです。2025年12月現在、楚帛書をめぐる議論は、資料そのものの解読と並行して、静かに広がりつつあるといえます。
文化財はどこにあるべきか――読者に問われる視点
楚帛書のケースは、世界各地に散らばる文化財の「帰還」をめぐる議論の一例でもあります。今回の動きは、
- 出土地の社会や人々にとっての意味
- 国際的な研究環境と保存技術
- 世界の人々が共有できる形での公開
といった要素を、どのようにバランスさせるかという問題を、あらためて私たちに突きつけています。
一つの答えは、対立ではなく協力にあります。たとえば、
- 現物は出土地の国に集中的に保存しつつ、高精細なデジタルデータや複製を世界に公開する
- 複数の機関が共同で研究プロジェクトを立ち上げ、成果を多言語で発信する
といったアプローチが考えられます。楚帛書の「再会」を呼びかける声は、単に一つの巻をどこに置くかという問題を超え、文化財をどのように共有し、未来に手渡していくのかという、より普遍的な問いへとつながっています。
SNS時代に考える、静かなニュース
スマートフォンで世界のニュースが流れ続ける今、約2300年前の絹の文書をめぐる話題は、一見すると遠い世界の出来事に思えるかもしれません。しかし、
- どこに保存され、誰がアクセスできるべきか
- 出土地の人々と世界の研究者の利益をどう両立させるか
- 文化財を通じて、過去と現在、異なる地域どうしをどう結びつけるか
という点で、私たちの日常とも無関係ではありません。SNSで記事をシェアしながら、自分ならどんな形の「再会」と保存が望ましいと考えるのか、周りの人と話してみるのも一つのきっかけになりそうです。
楚帛書第1巻が本当に「帰還」を果たすのか。そして、そのとき世界の研究者と読者は、どのようにこの古代の絹の言葉と向き合うのか。2025年の今、静かに注目が集まっています。
Reference(s):
cgtn.com








