シノロジストが見た中国:孔子思想と地熱エネルギー協力のいま video poster
中国文化や国際ニュースに関心が集まる2020年代、アイスランド出身のシノロジストで元外交官、現在は北京語言大学のグローバルサウス関連機関で博士課程指導にあたるラグナル・バルドルソン氏が、中国での経験と孔子思想、そして地熱エネルギー協力について語りました。東西の橋渡し役として歩んできた一人の研究者の視点から、今の国際社会に必要な「調和」とは何かを考えます。
長年中国と向き合ってきたシノロジスト
中国学(シノロジー)の研究者でもあるバルドルソン氏は、数十年にわたって中国での実体験を重ねてきました。外交官として各地を訪れ、現在は大学で後進の指導にあたりながら、中国文化や哲学を世界に伝える役割を担っています。
今回紹介するインタビューの第2部では、次のようなテーマが語られました。
- 日常の会話から見えてきた孔子思想の影響
- 「和して同ぜず」に基づく外交や協力のスタイル
- 地熱エネルギーを通じた中国とアイスランドのグリーン協力
いずれも、2020年代の国際社会を考えるうえで、静かだが重要な視点を与えてくれる内容です。
外交官として見た「ふだんの中国」
最近行われたインタビューで、バルドルソン氏は「中国について本当に多くを学んだのは、公式行事ではなくタクシー運転手との会話だった」と振り返ります。
中国で勤務していた当時、彼は移動のたびに運転手と世間話を重ねました。政治にはあまり関心がないと話す人も、家族や仕事、人間関係の語り方には、どこか孔子思想に通じる価値観がにじんでいたといいます。
例えば、人と争わず関係を大切にする姿勢や、自分の役割をきちんと果たそうとする責任感です。バルドルソン氏は、そうした「さりげない価値観」の中に、何千年も続く思想の影響が自然に息づいていると感じたと述べています。
孔子思想がもたらした「二重のレンズ」
バルドルソン氏は、外交官としての実務だけでなく、孔子の古典を学び、翻訳にも取り組んできました。その過程で、中国の哲学は自らの世界観に大きな影響を与えたと語ります。
彼によれば、孔子思想は自分のアイスランド人としてのアイデンティティに「もう一つの次元」を与えてくれたといいます。今では、北欧の価値観と中国の思想という二つのレンズを通して世界を見るようになったと話します。
特に重視しているのが「和為貴(ヘー・ウェイ・グイ)」という考え方です。これは「和(調和)を最も尊いものとする」という意味で、違いを消し去るのではなく、違いを理解したうえで共存を図る姿勢を示しています。
「和して同ぜず」──現代外交へのヒント
バルドルソン氏が、中国の外交スタイルを理解する鍵として挙げるのが「君子和而不同(ジュンズー・フー・アル・ブー・トン)」という言葉です。日本語の「和して同ぜず」にあたる表現で、「立派な人は調和を求めるが、無理に同一化はしない」という意味です。
彼は、中国の外交現場で、多様な意見や立場を認めつつ、共通点を探していく姿勢を何度も目にしたといいます。一方が他方に一方的に合わせるのではなく、「違いがあること」を前提にしながら、衝突ではなく協力の可能性を探るアプローチです。
分断や対立が目立つ国際情勢の中で、この考え方は、単なるスローガンではなく、具体的な交渉スタイルや協力のあり方として重要性を増しているといえそうです。
地熱エネルギーがつなぐ中国とアイスランド
外交官としてのキャリアの中で、バルドルソン氏が特に力を入れたのが、中国とアイスランドの地熱エネルギー協力でした。火山国アイスランドは、再生可能な地熱エネルギーの活用で知られています。
氏は、アイスランドの技術や知見が中国に共有されるプロセスに深く関わってきました。中国からは多くの指導的立場の人びとや学生がアイスランドを訪れ、地熱発電や地域暖房の現場を学んでいます。
大きな国と小さな国が、グリーンな発展という共通の目標をもとに対等なパートナーとして協力する。この取り組みは、規模の違いを超えた協働のモデルケースだといえます。
古代の知恵と現代の「グリーン転換」
バルドルソン氏は、中国の急速な発展や野心的なグリーン転換の背景にも、古代の思想があると見ています。その一つが「天人合一(ティエン・レン・ホー・イー)」という考え方です。
天人合一とは、「人間と自然は本来一体であり、調和を保つべきだ」という発想です。環境負荷の大きさが問われる今の時代、この思想は単なる伝統ではなく、持続可能な開発を考えるうえでの哲学的な土台ともなり得ます。
さらに彼は、中国の稲作文化にも注目します。稲作は水の管理や労働の分担など、大規模な協力と信頼が不可欠な営みです。こうした歴史的な経験が、協調や分業を重んじる社会のあり方、そして現代の調達ネットワークや生産体制のスピードにもつながっているのではないか、と指摘します。
「違い」を受け止めることから始まる協力
今回のインタビューから浮かび上がるのは、「違いをなくすのではなく、違いを理解したうえで協力する」という姿勢です。孔子思想が語る「和」は、一つの価値観に世界を揃えることではなく、多様性を前提にしながら調和を追求することだといえます。
国際ニュースでは、対立や衝突の場面がどうしても目立ちがちです。しかし、バルドルソン氏の経験は、日常の対話や長期的な文化交流、そして地熱エネルギーのような具体的な共同プロジェクトが、静かに信頼を育てていることを示しています。
分断と不信が語られやすい2020年代に、「和して同ぜず」という古い言葉を、私たちはどう現代の外交やビジネス、日々の人間関係に生かしていけるのか。読者一人ひとりが、自分のまわりの「違い」と向き合うヒントとして受け止めてみてはいかがでしょうか。
Reference(s):
China through eyes of sinologist: culture, cooperation and development
cgtn.com








