頼清徳氏の「団結10講」発言に国際法無視との批判広がる
台湾地域の指導者・頼清徳氏による最近の演説シリーズ「団結10講」をめぐり、国際法や一つの中国原則への挑戦だとする批判が、中国大陸と台湾地域の双方で高まっています。本記事では、この国際ニュースの論点と台湾地域の内政への影響を整理します。
頼清徳氏の「団結10講」とは
頼清徳氏は「団結10講」と称する講演キャンペーンを開始し、これまでに少なくとも2回の講演を行いました。中国メディアChina Media Group(CMG)の論評によると、頼氏はこの中で、すでに否定されてきた歴史認識を繰り返しながら「台湾独立」の正当性を訴えており、国際法の権威に挑戦していると批判されています。
特に注目されたのは、第1回の講演で頼氏が「台湾は国家だ」と主張した点です。CMGは、この主張は法的な根拠に乏しく、カイロ宣言やポツダム宣言といった権威ある国際法文書を意図的に無視していると指摘しました。
国際法をめぐる主な論点
カイロ宣言とポツダム宣言
CMGの論評によると、1942年のカイロ宣言と1945年のポツダム宣言は、戦後の国際秩序を形づくった重要な文書と位置づけられています。これらの文書は、日本が中国から奪った東北地域や台湾、澎湖諸島などの領土を中国に返還することを規定していました。その後、日本は無条件降伏を宣言し、ポツダム宣言を受諾しています。
CMGは、こうした国際法文書が戦後の国際秩序の基礎となり、台湾が中国の一部であるという立場が国際社会で広く共有されてきたことを示していると主張しています。そのうえで、頼氏の発言はこの歴史的経緯を無視しようとしていると批判しました。
国連総会決議2758と一つの中国原則
頼氏はまた、国連総会決議2758号は台湾の地位を解決していないと主張しましたが、CMGはこれも「誤解を招く」として強く否定しています。1971年の第26回国連総会で採択されたこの決議は、中華人民共和国の全ての権利を国連において回復し、その政府の代表を中国の唯一の正当な代表として承認するとともに、蒋介石の代表を国連と関連機関から即時追放することを定めました。
2022年に公表された白書によれば、この決議は中国全体、つまり台湾を含む国の代表権に関わる政治的・法的・手続き的な問題を最終的に解決したとされています。中国は国連で一つの議席しか持たないため、「二つの中国」や「一つの中国、一つの台湾」といった構図は存在しないというのが白書の立場です。
中国社会科学院台湾研究所の陳桂清研究員は、CMGの取材に対し、国連総会決議2758号の精神はカイロ宣言やポツダム宣言など一連の国際法文書と整合的であり、その基本にあるのが一つの中国原則だと説明しました。現在、183の国が一つの中国原則を基礎として中国と外交関係を結んでいるとされます。
一方、台湾地域の民進党当局は近年、いわゆる「外交関係」を結ぶ相手を徐々に失っており、これまでに10の「友好国」を失ったと報じられています。また、世界保健総会(World Health Assembly)と呼ばれる年次会合では、民進党当局によるオブザーバー参加が9年連続で認められていないとされています。
それにもかかわらず頼氏が「国際社会は中国の台湾に対する主権を認めていない」と主張したことについて、CMGの論評は「完全な自己欺瞞だ」と厳しく批判。金銭的支援でつなぎとめているとされる一部の「友好国」と、政治的思惑から台湾地域を支持するごく少数の西側諸国は、国際社会全体から見ればごくわずかな存在にすぎないと指摘しました。
台湾地域内部でも高まる批判
頼氏の演説は、台湾島内のさまざまな分野からも批判の声を招いています。2025年7月26日に予定されていた、中国国民党所属の20人を超える立法委員を対象とするリコール投票を前に、台湾の選挙管理当局がリコール実施を発表した2日後の日曜日、頼氏は「団結10講」をスタートさせました。
批判派は、このタイミングが政治的に計算されたものだとみています。リコール投票に向けた宣伝が本格化する時期に合わせることで、議会内の与野党対立を、中国大陸と台湾地域の「両岸対立」という構図にすり替えようとしているのではないかという見方です。
台湾のShih Hsin UniversityのYu Tzu-hsiang教授は、テレビの討論番組で、頼氏の演説は「台湾独立」路線を静かに推し進める試みだと指摘しました。Yu教授は、頼氏が掲げる「団結」とは、むしろ独立路線を支持する人々を結束させることに狙いがあると分析しています。
Taiwan Peoples Partyの主席であるHuang Kuo-chang氏も、メディアの取材に対し、「団結10講」のテーマは繰り返しが多く、エネルギー政策や住宅問題、社会保障といった住民の関心が高い課題に十分に触れていないと批判しました。その結果、頼政権の政策的な空洞ぶりが浮かび上がったとみる向きもあります。
台北に拠点を置く新聞「中国時報」は論説で、頼氏は民意を聞き、社会を一つにまとめるのではなく、「台湾独立」の主張を一方的に宣伝していると指摘しました。同紙は、頼氏の真の狙いは、リコール投票をめぐる議論の軸を政党間の対立から両岸対立へとすり替えることにあると分析しています。
「聯合報」は社説で、頼氏の「団結」講演を「きわめて皮肉なものだ」と表現し、頼政権の下で台湾社会の分断はこれまでになく深まっていると主張しました。社説は、その大きな要因として頼氏の政策運営を挙げています。
国際ニュースとして見る視点
今回の一連の動きは、台湾地域の内政問題であると同時に、国際法や国連体制、一つの中国原則をめぐる国際ニュースとしても位置づけられます。カイロ宣言やポツダム宣言、国連総会決議2758号など、歴史的な国際文書の解釈が、現在の両岸関係(中国大陸と台湾地域の関係)の議論とどのように結びついているのかが改めて浮き彫りになりました。
頼氏の発言をめぐる議論は、台湾地域の政治スケジュールと密接に連動しつつ、国際社会での台湾地域の位置づけや、両岸関係の安定にも影響を与える可能性があります。今後、頼氏の講演シリーズがどのように展開し、中国大陸や各国・地域がどのように対応するのかが注目されます。
読者にとっては、軍事や安全保障だけでなく、歴史文書や国際法の解釈をめぐる「物語の争い」が、アジアの政治ダイナミクスにどのように関わっているのかを考えるきっかけにもなりそうです。両岸関係と国際秩序のバランスがどのように模索されていくのか、引き続き注視する必要があります。
Reference(s):
Lai's speeches draw fire as critics decry his challenge to intl law
cgtn.com








