中国・貴州に長征デジタル博物館 没入型で体感する歴史と記憶
中国・貴州省で、長征をテーマにした没入型デジタルアートミュージアムが公開されています。地上の赤いリボンというコンセプトで、約1万2500キロに及ぶ長征の道のりを最新の映像と音響で体感できる施設です。
中国の現代史の中でも象徴的な長征を、デジタル技術でどのように見せているのか。この新しい取り組みは、歴史の伝え方や記憶の残し方を考えるうえでも注目されています。
地上の赤いリボンを歩くような演出
このミュージアムは、地上の赤いリボンというイメージに着想を得て設計されています。広大な大地を縦断した長征のルートを一本の赤い帯に見立て、来館者はその上を歩くようにして展示を進んでいきます。
館内では、壁一面の映像、足元のプロジェクション、立体音響などの最新の視聴覚技術が駆使されています。行軍の隊列が進む地面の揺れや、風や雨の音、山岳地帯の静けさなどが重なり、訪れる人は当時の空気感の一端を五感で感じ取れるようになっています。
長征を主題にしたデジタルアートミュージアムとしては、中国で初めての試みとされ、歴史展示とアート表現、テクノロジーを組み合わせた新しいタイプの施設となっています。感情に訴えかける没入型の演出によって、多くの人にとって長征がより身近な物語として立ち上がってきます。
長征とは何か 中国史に刻まれた12,500キロ
長征は、1934年から1936年にかけて行われた、中国工農紅軍(のちの中国人民解放軍の前身)による約1万2500キロの遠征です。中国現代史のなかでも特に重要な出来事の一つとされ、現在も大きな象徴的意味を持っています。
険しい山岳地帯や河川、厳しい自然環境の中を進み続けた長征は、世代を超えて語り継がれる物語となりました。多くの人にとって長征は、困難の中でも前に進み続ける精神を表す象徴的な出来事となっています。
今回のミュージアムは、この長征の歴史的背景や道のりだけでなく、当時の兵士たちの心情や、後世に残された精神的な遺産に光を当てる場として構想されています。展示空間全体が一つのストーリーとなり、来館者はその物語の中を歩きながら理解を深めていきます。
デジタル世代に届く歴史の語り方
スマートフォンや動画で情報を得ることが当たり前になった世代にとって、歴史を体験として学べる場の役割は大きくなっています。長征デジタルミュージアムは、そうしたデジタルネイティブ世代にも届く形で、過去の出来事を伝えようとしています。
来館者は、単に年表や資料を読むのではなく、行軍のルートを追体験しながら、重要な場面ごとに映像や音声、ナレーションによるストーリーに触れます。これにより、数字や地名だけではイメージしにくい長征のスケール感や時間の長さを、身体感覚として理解しやすくなります。
また、感情に訴えかける演出を通じて、見知らぬ時代や場所で生きた人々の選択や葛藤に思いを巡らせるきっかけにもなります。これは、中国国内だけでなく、国外の人々が長征という歴史を理解するうえでも有効なアプローチといえるでしょう。
世界的に広がる記憶のデジタル化という潮流
国際ニュースの視点から見ると、歴史や記憶をデジタル技術で可視化し、没入型の展示で伝えようとする動きは、中国に限らず世界各地で広がっています。戦争や災害の記憶、街や地域の成り立ちを、映像や音響、インタラクティブな演出で共有するミュージアムが増えています。
今回の長征デジタルミュージアムも、その流れのなかで位置づけることができます。長大な移動の記録を、一つの空間のなかで疑似体験できるよう再構成する試みは、デジタルならではの表現です。
日本を含む他の国や地域にとっても、歴史をどのように伝え、次の世代にどのような形で受け渡すのかを考えるヒントになるかもしれません。物理的な資料や記念碑に加えて、デジタル技術を活用した新しい記憶の器をどう設計するのかが問われています。
私たちは歴史をどう体験したいのか
長征を題材にした今回のデジタルミュージアムは、歴史を学ぶこととテクノロジーをどう組み合わせるかという問いを投げかけています。
- 教科書や年表だけでは伝わりにくいスケールや感情を、どこまでデジタルで補えるのか
- 臨場感のある体験と、冷静な振り返りや批判的思考のバランスをどう取るのか
- 自国だけでなく他国の歴史を、どのような形で知り、共有していくのか
中国・貴州の長征デジタルミュージアムは、こうした問いについて考えるための一つのケーススタディといえます。スマートフォンの画面越しではなく、全身で歴史に向き合う空間が、これからどのように増えていくのか。今後の動きにも注目していきたいところです。
Reference(s):
Immersive digital museum hails renowned expedition of Chinese soldiers
cgtn.com








