楚帛書と李零教授:流転するシルク文書が映す未完の世界史 video poster
中国最古のシルク文書とされる「楚帛書」が、80年近くにわたり海外を流転した軌跡を、中国考古学者・李零(Li Ling)教授があらためて語っています。文化財返還を「未完の世界史」を読み解く窓として捉える視点は、2025年を生きる私たちに何を問いかけているのでしょうか。
楚帛書とは何か:シルクに記された中国最古のテキスト
楚帛書は、中国で発見された最古のシルク文書とされるテキストで、1942年に出土しました。その後、さまざまな経緯をたどり、およそ80年にわたって海外に散在してきたとされます。
李零教授は、北京大学の人文学部チェア・プロフェッサーであり、中国考古学と古代文字研究(古文字学)のパイオニアです。楚帛書との長年の向き合いを通じて、出土文献が中国本土だけでなく、世界全体の歴史を見直す鍵になると考えてきました。
文化財返還は「未完の世界史」を映す窓
李教授にとって、楚帛書の物語は単なる一つの文化財の行方にとどまりません。文化財の返還は、単なる国家の問題を超えた「世界の未完の歴史」への窓だと捉えています。
ある文化財がどこで見つかり、どこに渡り、どのように扱われてきたのか。その歩みをたどることは、戦争や交易、学問、個人の選択など、さまざまな歴史の層を読み解く作業でもあります。楚帛書の流転もまた、20世紀以降の世界と中国本土の関わりを映し出す一つのケースだと言えるでしょう。
第二巻・第三巻の「帰還」と、なお行方を追う第一巻
楚帛書は複数の巻に分かれて伝わってきましたが、そのうち第二巻と第三巻は、最近、米国から中国に返還されました。長く海外に散らばっていたテキストの一部が、本来の文脈に近い場所へと戻りつつあることになります。
しかし、最初の巻であり、内容が最もまとまっている第一巻は、いまもほかの巻と離れたままです。李教授は、この第一巻が、すでに返還された第二巻・第三巻とともに、長沙の地で再びそろうことを強く願っています。
同じ作品でありながら、長年にわたり別々の国や地域に保管されてきた巻を再び集めることは、テキストそのものの解読だけでなく、その文化的意味を深く理解するうえでも重要です。バラバラだった断片がそろうことで、これまで見えなかった歴史の連続性が立ち上がってくるからです。
2025年の私たちにとっての「楚帛書」
2025年のいまも、文化財の所在や返還をめぐるニュースは、世界各地で繰り返し報じられています。楚帛書をめぐる李教授の歩みは、そうしたニュースを「誰のものか」という所有の問題だけでなく、「どのように共有し、次の世代へ手渡すか」という問いとして捉え直すヒントを与えてくれます。
SNSやオンラインで国際ニュースに触れることが当たり前になった私たちにとっても、80年近く海外をさまよった一つのシルク文書の物語は、決して遠い話ではありません。どの国・どの地域に暮らしていても、文化財の行方を通じて世界の歴史のつながりを想像することができるからです。
楚帛書の第一巻が長沙に戻り、全巻がそろう日を、李零教授は今も待ち望んでいます。長年にわたる研究の歩みと、「世界の未完の歴史」を見つめ続けるまなざしは、文化財をどう守り、どのように世界と共有していくのかを考えるうえで、これからも静かな示唆を与え続けるでしょう。
Reference(s):
cgtn.com








