香港パレスミュージアムで響く清朝の儀礼音楽 玉の磬と鐘の物語 video poster
清朝の儀礼音楽に使われた二つの楽器が、2025年のいま、香港パレスミュージアムで静かに存在感を放しています。18世紀の宮廷で鳴り響いていたその音色は、現代の香港でどのように受け止められているのでしょうか。
香港パレスミュージアムで出会う音の遺産
香港パレスミュージアムの展示の中でも、ひときわ目を引くのが二つの儀礼用楽器です。一つはネフライト(軟玉)に金の装飾が施された磬「teqing」、もう一つは金メッキされた銅合金で鋳造された鐘「bozhong」。いずれも清朝の1761年に制作された作品で、訪れる人の視線を集めています。
二つの楽器はいずれも宮廷の儀礼で用いられたとされ、それぞれ十二個一組のセットの一つでした。セットの一つひとつが旧暦の十二カ月に対応し、さらに伝統的な十二音体系に基づいて、異なる音高に調律されていました。つまり、これらは時間と音楽を結びつける暦のような役割を持っていた楽器でもあります。
清朝宮廷が求めた調和のデザイン
素材の選び方から装飾のディテールまで、この二つの楽器には清朝宮廷が重んじた調和へのこだわりがにじみ出ています。硬質で透き通るような玉と、輝く金属。それぞれの質感が、儀礼の場に視覚的な荘厳さと音の豊かさをもたらしていました。
玉に刻まれた静かな響き・磬 teqing
磬「teqing」は、ネフライトと呼ばれる滑らかな玉で作られています。表面には金の装飾が施され、光の角度によって柔らかい光沢を放ちます。細心の注意を払って成形された玉は、打ち鳴らされることで澄んだ音を響かせるとされ、静寂の中に一点の音を置くような存在だったと想像できます。
空間を満たす重厚な音・鐘 bozhong
鐘「bozhong」は、金メッキされた銅合金を鋳造して作られています。丸みを帯びたフォルムと光沢のある表面は、視覚的にも強い存在感があります。繊細な磬とは対照的に、鐘は空間全体を包み込むような重厚な音を響かせ、儀礼の場にリズムと区切りを与える役割を担っていたと考えられます。
十二の月と十二の音が交差する世界
この磬と鐘が属していた十二個一組の楽器セットは、旧暦の十二カ月それぞれに対応していました。月ごとに違う音の高さが割り当てられ、伝統的な十二音体系に沿って構成されていたとされています。
一年を十二の時間の単位に区切り、同時に音楽も十二の音で組み立てるという発想は、時間・宇宙・人間の秩序を音で表現しようとする試みとも読めます。季節が移ろうように、音もまた変化していく。その流れを、宮廷の人々は儀礼音楽を通じて体感していたのかもしれません。
現代の香港でよみがえる儀礼音楽の記憶
2025年の香港で、私たちはもはや清朝の宮廷儀礼を直接体験することはできません。それでも、香港パレスミュージアムに展示されたこれらの楽器を前にすると、当時の空気の一端に触れたような感覚を覚えます。
ガラスケース越しに眺める玉と金属の質感、十二という数字が示す時間のリズム。写真や映像では伝わりにくいスケール感や存在感は、現物の前でこそ実感できるものです。香港という国際都市の中で、静かに置かれた十八世紀の楽器は、過去と現在をつなぐ媒介として機能しています。
デジタル世代への問いかけ
オンラインで音楽を聴き、アルゴリズムがおすすめするプレイリストに囲まれて暮らす私たちにとって、十二カ月と十二の音を一対一で結びつけるという発想は、むしろ新鮮に感じられます。
この二つの楽器は、音をどう体系化するか、時間をどのように感じ取るかという問いを、300年近くの時を超えて私たちに投げかけています。展示を前に、そうした視点で自分の日常のリズムや、時間との付き合い方を振り返ってみるのも一つの楽しみ方と言えるでしょう。
まとめ 音で読み解く清朝と香港のいま
1761年に清朝で制作された磬と鐘が、2025年の香港で展示されているという事実は、時間と空間を大きくまたぐ物語そのものです。儀礼音楽のために作られた十二の音と十二の月の体系は、現代の私たちにとっても、世界をどう秩序立てて理解するかという普遍的なテーマを静かに語りかけています。
忙しい日常の合間に、こうした展示に足を止めてみることは、情報があふれる時代において、自分の感覚を少し立ち止まらせる小さなきっかけになるかもしれません。香港パレスミュージアムの一角で鳴り続ける清朝のハーモニーに、耳を澄ませてみたくなります。
Reference(s):
Echoes of Qing Dynasty ritual harmony at Hong Kong Palace Museum
cgtn.com








