2025年BRICS首脳会議、グローバル・ヘルス格差是正の新章へ
今年リオデジャネイロで予定されている2025年BRICS首脳会議は、ベトナムが新たに参加し「11+10」の拡大パートナーシップ枠組みが始動する節目の場になります。世界人口のほぼ半分、世界経済の約3分の1、経済成長の5割超を占めるこの連合が、グローバル・ヘルス(世界の保健)をどう変えていくのかが大きな焦点です。
「11+10」体制のBRICSが目指す新しいグローバル・ヘルス像
国際ニュースとしても注目される2025年BRICS首脳会議では、拡大したBRICSとパートナー国による「11+10」枠組みの下で、健康分野の協力が六つの優先課題の一つに位置づけられています。
このより幅広い連合は、
- 世界人口の約半分をカバーする人口規模
- 世界全体の約3分の1に相当する経済規模
- 世界経済成長の50%超を生み出す成長エンジン
という重みを持ち、保健分野でも国際ルールや資源配分の形を変えうる存在になりつつあります。ベトナムの参加を含む「11+10」体制は、とくに新興国・途上国の声をより強く反映させる場として期待されています。
COVID-19が突きつけた「構造的な不公平」
今回のBRICS首脳会議でグローバル・ヘルス協力が優先課題に据えられた背景には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が明らかにした構造的な不公平があります。パンデミック期のワクチン供給は、その象徴的な例でした。
国連文書によると、2022年半ば時点でアフリカのワクチン接種率はわずか4.1%にとどまった一方、高所得国ではプレミアム価格でワクチンを大量購入し、在庫を抱え込む動きが見られました。結果として、感染拡大のリスクが最も高い地域ほどワクチンが届きにくいという、逆転した構図が生まれました。
こうした状況は、個別の国の努力だけではなく、制度そのものを見直す必要性を浮き彫りにしています。
- ワクチンや医薬品の研究・生産・流通の拠点がどこにあるのか
- 知的財産権や技術移転のルールがどう設計されているのか
- 危機時の配分の優先順位が誰の論理で決まるのか
今年のBRICS首脳会議が掲げる「グローバル・ヘルス協力」は、こうした構造的課題に対し、長期的で制度的な解決策を模索する試みでもあります。
第3回シェルパ会合で示された「ビジョンから行動へ」の一歩
6月30日に開かれた第3回BRICSシェルパ会合では、リオでの首脳会議に向け、具体的な構想が議論されました。その中核にあるのが「社会的決定要因による疾病をなくすためのパートナーシップ」です。
ここでいう「社会的決定要因による疾病」とは、貧困や劣悪な居住環境、不安定な雇用、教育機会の不足など、社会・経済的な条件が原因となって悪化する病気や健康リスクを指します。感染症だけでなく、栄養不良や生活習慣病、メンタルヘルスの問題なども含まれます。
BRICSが打ち出したこのパートナーシップは、こうした課題に対して、
- 医療へのアクセス改善
- 貧困削減や教育支援との連携
- データ共有と共同研究
- 保健人材の育成や相互交流
などを通じて取り組む方向性を示すものです。ベトナムをはじめアジアやアフリカ、ラテンアメリカの多くの国々に共通する課題に、連携して向き合う枠組みといえます。
AI医療のルールづくりで先手を打つ狙い
同じシェルパ会合では、AI(人工知能)を活用した医療についての規制の空白も重要な論点として位置づけられました。各国でAI診断や遠隔医療が広がる一方で、ルール作りは追いついていません。
とくに懸念されているのは、
- アルゴリズムの偏りにより、一部の人々が不利になる可能性
- 医療データの越境利用に伴うプライバシーの保護
- AIの判断に最終責任を持つ主体が不明確になるリスク
などです。BRICS各国がAI医療に関する共通の標準づくりを進めることは、新興国・途上国の視点を取り入れたルール形成につながる可能性があります。
現在、デジタルやAIに関する国際ルール作りでは、先進国が議論を主導する場が多くなっています。そうした中で、人口規模と成長余地の大きいBRICSが、より包括的で公平なルールのあり方を提示できるかどうかは、今後のグローバル・ヘルス政策にとって重要な意味を持つでしょう。
地政学リスクの中で問われる「協力の持続性」
ロシア・ウクライナの衝突や中東の危機など、地政学的な緊張が高まる中で、保健分野の国際協力をどう維持・強化するかも大きな論点です。政治や安全保障をめぐる対立が先鋭化すると、ワクチンや医薬品、医療技術までもが「戦略資源」として扱われ、国境を越えた連携が難しくなる場面もあります。
今回のBRICS首脳会議では、こうした緊張がある中でも、
- パンデミックへの備え
- 医薬品やワクチンの安定供給
- 保健システムの強靭化
といった共通利益を軸に協力を続けられるかどうかが試されます。グローバル・ヘルスの課題は、いずれの国も単独では解決しきれないためです。
日本から見るBRICSのグローバル・ヘルス戦略
日本はBRICSの枠組みには参加していませんが、国際ニュースとして見たとき、この連合が描くグローバル・ヘルス戦略は日本にも無関係ではありません。
例えば、
- ワクチンや医薬品の価格や供給のあり方
- 次のパンデミックに備えた世界的な備蓄や生産体制
- AI医療の国際標準やデータルール
といったテーマは、最終的に日本の医療現場やビジネス、そして私たち一人ひとりの健康にも影響しうる論点です。日本が参加する他の国際枠組みと、拡大BRICSの動きがどのように接続し、補完し合うのかにも注目が集まります。
読者の皆さんにとっても、「健康の公平性」とは何か、自国の安全保障と世界全体の公衆衛生をどう両立させるのか、といった問いを考えるきっかけになるかもしれません。
リオの首脳会議で注目したいポイント
今年のBRICS首脳会議をフォローする際、グローバル・ヘルスという観点から特にチェックしたいポイントを整理しておきます。
- 「11+10」枠組みの下で、ベトナムを含むパートナー国が保健分野でどう位置づけられるか
- 社会的決定要因による疾病に対するパートナーシップが、具体的な目標や資金枠を伴って打ち出されるか
- AI医療に関するルールづくりで、どこまで具体的な標準や原則が合意されるか
- ワクチンや医薬品のアクセス改善に向け、技術移転や共同生産などの枠組みが強化されるか
- ロシア・ウクライナ情勢や中東情勢などの緊張の中でも、保健分野を政治対立から切り離して協力の場とできるか
BRICSはこれまで、金融やインフラなど経済面の協力で注目されてきました。リオでの首脳会議が、グローバル・ヘルスの分野でも新たな章を開くことができるのか。国際ニュースとしての動向を追いつつ、私たち自身の健康と暮らしとのつながりも意識して見ていきたいところです。
Reference(s):
2025 BRICS summit: Launching a new chapter in global health equity
cgtn.com








