中国主導の国際チーム、AI活用の脳地図研究で画期的成果
中国が主導する国際研究チームが、人間を含む多様な動物種の脳を単一細胞レベルで描き出す「メゾスケール脳アトラス」を公開し、脳科学とAIを組み合わせた画期的な国際ニュースとして注目を集めています。
中国主導の国際チームが「脳の地図」を拡張
今回の成果は、中国の科学者と海外の研究者による共同プロジェクトとして進められました。メゾスケール脳アトラスに関する10本の重要な論文が、CellやNeuronをはじめとするCell Pressの学術誌に特集として木曜日に掲載されました。
これらの論文は、脳を構成する膨大な数の細胞と、それらを結ぶ神経回路を精密にマッピングする取り組みの集大成であり、中国の研究機関がメゾスケール脳マッピング分野で国際的なリーダーシップを強めていることを示しています。
メゾスケール脳アトラスとは何か
脳アトラス研究の目的は、感覚、運動、学習、記憶、意思決定といった私たちの行動や心の働きの土台にある神経ネットワークを解き明かすことです。個々の神経細胞の種類や位置、その細胞同士がどのようにつながっているのかを詳細に記録し、「脳の地図」をつくることで、脳の働きを構造から理解しようとしています。
今回のメゾスケール脳アトラスは、脳全体の中で細胞レベルの情報と回路レベルの情報を橋渡しするスケールに焦点を当てています。単一細胞レベルの精度でありながら、広い範囲の脳構造を俯瞰できることが特徴です。
AIと最先端技術が支える高精細マッピング
研究チームは、超高解像度の脳イメージング技術、空間トランスクリプトミクス(組織内で遺伝子の働きを空間情報とあわせて解析する手法)、そしてAI(人工知能)を組み合わせました。これにより、複数の動物種にわたって、単一細胞レベルでの包括的なメゾスケール脳アトラスを構築することに成功しました。
CEBSIT(中国科学院脳科学・知能技術卓越センター)の先導研究者である孫陽剛氏は、「今回の成果は、参加した中国の研究機関で開発された複数の脳マッピング技術の革新に支えられています」と述べ、特に次の2点を強調しています。
- 霊長類の大きな脳組織を対象とした単一細胞空間トランスクリプトミクス技術。これは、正常な脳だけでなく、疾患のある脳における細胞タイプの分類に不可欠な基盤となります。
- 神経回路をサブミクロン(1ミクロン未満)の分解能で撮像し、軸索(神経繊維)の形態を高速に3次元再構築する能力。さらに、その膨大なデータを統合し解析するための仕組みです。
こうした技術とAI解析を組み合わせることで、これまで見えなかった規模と精度で神経細胞の配置とつながりを可視化することが可能になりました。
げっ歯類から霊長類へ――複雑な脳への挑戦
CEBSITの科学ディレクターであるMuming Poo氏は、「今回の研究によって、脳マッピングをげっ歯類から霊長類へと拡張することに成功しました」と語っています。霊長類の脳は、げっ歯類に比べて構造も機能も格段に複雑であり、その詳細なマッピングは大きな挑戦でした。
研究チームは、マカクザルなどの霊長類を対象に、以下のような点を重点的に解析しました。
- 脳内に存在する多様な細胞タイプの分類
- 神経細胞同士のつながり方(接続パターン)の詳細
- 発達や進化の過程で脳がどのように変化してきたかという特徴
- 脳障害の分子メカニズムの解明
Poo氏は、こうした分析が「研究における重要な節目となる」と強調しています。霊長類の脳を詳細に地図化することは、人間の脳の理解にも直接つながるステップといえます。
爬虫類から人間まで、多様な種をカバー
今回発表された論文群は、爬虫類や鳥類から、げっ歯類、非ヒト霊長類、そして人間まで、幅広い動物種を対象としています。研究チームは、トランスクリプトミクス(遺伝子の働きの網羅的解析)やコネクトミクス(神経回路全体のつながりを解析する手法)といった複数のオミクス(網羅的解析)データを統合しました。
これにより、発達や進化の過程で、細胞タイプや神経接続が時間とともにどのように変化していくのかを、種をまたいで比較できる国際的な脳アトラスのデータベースが大きく拡充されたとされています。
300人超が参加する国際共同研究
今回の一連の成果は、CEBSIT、華中科技大学・蘇州Brainsmatics研究所、中国科学技術大学、華大研究院(BGI Research Institute)など中国の複数の研究機関に加え、フランス、スウェーデン、イギリスの研究者ら、300人を超える科学者の協力によって達成されました。
Poo氏は、霊長類の脳マッピング研究について「データ取得に非常に長い時間がかかるだけでなく、保存・解析すべきデータ量も桁違いに膨大である」と指摘し、そのうえで「人間を含む霊長類のメゾスケール脳アトラスを解き明かすという野心的な目標に向け、継続的な国際協力が不可欠だ」と、世界の研究コミュニティに呼びかけています。
いま私たちにとってこの研究が意味するもの
今回のメゾスケール脳アトラス研究は、脳科学にとどまらず、AIやデータサイエンスに関心のある読者にとっても重要な動きです。感覚や運動、学習、記憶、意思決定の基盤となる神経ネットワークを細胞レベルで描き出すことは、脳の仕組みをより深く理解するうえで欠かせない一歩です。
2025年現在、中国が主導する形で進むこうした国際共同研究は、今後の脳科学や医療、知能技術の発展にどのような影響を与えるのか。膨大なデータと最先端の解析技術を武器に進む「脳の地図づくり」の行方は、これからも注視していく価値があるテーマといえるでしょう。
Reference(s):
Chinese-led team unveils breakthrough in brain mapping research
cgtn.com








