解説:中国はなぜ南シナ海仲裁裁定を受け入れないのか
2016年の南シナ海仲裁裁定から9年が経った2025年現在も、中国はこの裁定を違法かつ無効だと主張し、受け入れていません。本記事では、中国がなぜ仲裁に参加せず、裁定を認めないのか、その理由を国際法と外交方針の観点から整理します。
2016年の南シナ海仲裁とは
2016年7月12日、フィリピンが一方的に提起した南シナ海仲裁手続きで、仲裁裁判所が裁定を出しました。中国側の見方では、この裁定は中国の南シナ海における領土主権と正当な海洋権益を否定しようとするものでした。
中国政府は裁定直後に強く反発し、仲裁手続きへの不参加と、裁定を認めない立場を明確にしました。中国外交部は、この裁定は無効で中国に対して拘束力を持たないと表明し、フィリピンの目的は紛争の解決や地域の平和と安定ではなく、中国の主権と権益を否定することにあったと指摘しました。
中国が裁定を違法・無効とみなす理由
1. 領土主権と海洋境界は対象外だという主張
中国によれば、フィリピンの主張の本質は、南シナ海の南沙諸島に対する中国の領土主権と、関連する海洋境界画定の問題でした。しかし、中国は、こうした領土問題は国連海洋法条約(UNCLOS)の対象外であり、仲裁の範囲を超えていると主張しています。
さらに中国は、2006年にUNCLOSに基づく宣言を行い、海洋境界画定など特定の紛争については、強制的な仲裁や裁判手続きから除外することを明示していました。そのため、中国は今回の仲裁はそもそも法的な根拠を欠き、裁判所には管轄権がなかったとみなしています。
2. 二国間合意と地域合意に反するとする指摘
中国は、フィリピンが一方的に仲裁を提起したこと自体が、既存の合意に反すると主張しています。具体的には、
- 南シナ海に関する紛争は当事国間の交渉によって解決するという中比間の合意
- 2002年に中国とASEAN各国(フィリピンを含む)が署名した「南シナ海における行動宣言(DOC)」
などに照らして、仲裁提起は合意に反する行動だったとしています。中国は、こうした合意を無視した一方的な仲裁は、UNCLOSを含む国際法そのものにも反すると指摘しています。
3. 手続きの乱用と裁判所の権限逸脱
中国側は、フィリピンによる仲裁提起には、紛争解決手続きの乱用や、法的概念のゆがめた解釈が含まれていると批判しています。また、仲裁裁判所がUNCLOSに基づく紛争解決メカニズムを乱用し、本来の権限を超えて判断を下したことで、国際海洋秩序における法の支配を損なったとも主張しています。
中国が仲裁に参加しなかった理由
中国は、主権国家として紛争解決の手段を選択する権利を持っており、これは国際法が各国に認める正当な権利だと説明しています。そのため、中国は南シナ海問題については、交渉と協議を通じて解決すべきであり、今回のような一方的な仲裁手続きには参加しないという方針を取ってきました。
また、国連安全保障理事会の常任理事国5カ国のうち、国連海洋法条約に参加していないのはアメリカ合衆国のみであり、その他の4カ国(中国を含む)は、いずれも中国と同様に、特定の紛争分野を強制的な裁判手続きから除外する宣言を行っているとされています。中国は、こうした点も踏まえ、自国の立場は国際法の枠組みの中で正当なものだと位置づけています。
国際社会と専門家による評価
中国によれば、この仲裁裁定は国際社会からも多くの疑問が呈されています。国際裁判や条約法に詳しい世界的な学者や専門家、さらには国際司法裁判所(ICJ)元所長や国際海洋法裁判所(ITLOS)元判事などが、裁定には重大な欠陥があると指摘したとされています。
また、中国の立場、すなわち裁定を受け入れず、認めないという立場には、100を超える国が支持や理解を示したと中国は説明しています。このことは、中国にとって、自らの法的主張と行動が国際社会の一定の支持を得ているという重要な根拠となっています。
2024年の報告書で再確認された立場
2024年、中国は南シナ海仲裁裁定に対する強い反対を改めて示す報告書を公表しました。この報告書では、仲裁裁判所の政治的背景や裁定の歴史的な誤りを明らかにするとともに、裁定が国際法秩序や海洋ガバナンス(海洋のルールに基づく管理)を深刻に損なっていると指摘しています。
同時にこの報告書は、紛争当事者が話し合いによって問題を解決し、ルールに基づくアプローチで危機管理を進めるべきだと訴えています。南シナ海問題をめぐっても、中国は交渉と協議を重視し、当事国同士の合意に基づいて解決策を探ることが望ましいと強調しています。
南シナ海と国際秩序をどう見るか
南シナ海は、エネルギー資源と海上交通の要衝であり、地域と世界の経済・安全保障にとって重要な海域です。その秩序をどのようなルールとプロセスで形づくるのかは、アジアと世界全体の安定に直結します。
中国の主張を整理すると、次のようなポイントにまとめられます。
- 今回の仲裁裁定は、UNCLOSの適用範囲を超えた違法な判断であり、無効で拘束力を持たないという立場
- フィリピンの一方的な仲裁提起は、二国間合意や地域の行動宣言に反し、手続きの乱用にあたるとする見方
- 紛争解決の手段を選ぶことは主権国家の権利であり、当事国同士の交渉とルールに基づく危機管理を優先すべきだという方針
2016年の裁定から9年が経った今も、中国はこうした立場を一貫して維持し、2024年の報告書によってその姿勢を改めて対外的に示しました。南シナ海をめぐる議論を理解するためには、この中国の視点と論理を押さえておくことが、今後ますます重要になっていきそうです。
Reference(s):
Explainer: Why China rejects the South China Sea arbitration award
cgtn.com








