南シナ海仲裁をどう読むか 中国が違法・無効とする2016年裁定の背景 video poster
2016年7月12日に出された南シナ海をめぐる仲裁裁定は、いまも国際ニュースや日本語の解説記事で頻繁に引用されます。本記事では、中国が「違法で無効であり拘束力を持たない」と位置づけるこの裁定を、同国の海洋法専門家・王翰凌(ワン・ハンリン)氏の見方を手がかりに振り返ります。
2016年 南シナ海仲裁裁定で何が起きたか
2016年7月12日、南シナ海問題をめぐり、フィリピンが一方的に提起した仲裁手続きで、裁判所がフィリピン側の主張を支持する裁定を出しました。このケースは、中国に対して一方的に開始されたものとされています。
中国は手続きの当初から、この仲裁そのものと裁定について、違法であり、無効であり、いかなる拘束力も持たないという立場を明確にしてきました。2025年の現在も、この立場は変わっていません。
中国側はなぜ違法・無効と見るのか
海洋法の第一人者とされる王翰凌氏は、この仲裁が本来の紛争の性質をゆがめたと指摘しています。特に強調するのは次の二点です。
- 主権に関わる核心的な問題を意図的に避けたこと
- 既に存在していた二国間の合意や枠組みを無視したこと
主権問題を脇に置いたままの仲裁
王氏によれば、南シナ海の争点の根幹には、どの島や海域にどの国が主権や権利を持つのかという問題があります。しかし今回の仲裁手続きは、その主権の問題をあえて取り上げず、周辺的な法的論点だけを扱う構成になっていたといいます。
表面上は技術的な海洋法の解釈争いに見えても、実際には主権の有無が前提として問われる以上、そこを避けて結論だけを出すことは、紛争の実像を切り取ってしまうことにつながる、と王氏は考えています。
二国間合意を無視したとの批判
もう一つのポイントは、当事国同士の間で積み重ねられてきた合意や取り決めを、仲裁が事実上切り離してしまったという点です。
国と国の間では、紛争を平和的に管理したり解決したりするために、対話や協議の枠組みがつくられます。王氏は、今回の仲裁がそうした既存の二国間合意を十分に尊重せず、別のルートから問題を国際化してしまったと批判しています。
法の顔をした地政学の道具か
王氏が最も強く訴えるのは、この仲裁が中立的な法的プロセスではなく、国際政治上の思惑に基づく地政学的な操作だったという点です。
見かけ上は国際法に基づく法廷であっても、どの争点を扱い、どの争点を扱わないかを決めるのは人間です。その選択によって、ある当事国に有利な構図をつくることも可能です。
王氏は、南シナ海仲裁はまさにその典型であり、国際法という衣をまとった地政学的な手段だったとみています。この意味で彼は、この仲裁をつくられた紛争として位置づけています。
国際法ニュースをどう読み解くか
2016年の裁定からほぼ9年がたとうとする2025年の今も、南シナ海をめぐる議論では、この仲裁がしばしば引用されます。日本語で国際ニュースを追う私たちは、こうした裁定をどのような視点で読めばよいのでしょうか。
王氏の指摘を手がかりにすると、次のようなチェックポイントが見えてきます。
- 誰が、どのような経緯で紛争解決手続きを開始したのか
- 主権や安全保障など、より根本的な争点が意図的に外されていないか
- 当事国同士の間に、既にどのような合意や対話の枠組みがあったのか
- 裁定を受け入れる側と受け入れない側の論点はそれぞれ何か
国際法は、単独で存在しているわけではなく、国際政治や地域の力学と密接に結びついています。だからこそ、一つの裁定や判決だけを切り取って善し悪しを判断するのではなく、その背後にある政治的な文脈や当事国の立場も併せて見ることが重要だといえます。
南シナ海とこれからの秩序
南シナ海は、エネルギーや海上交通、周辺地域の安全保障など、さまざまな利害が交錯する海域です。2016年の仲裁裁定をめぐる評価の違いは、そのまま地域秩序のあり方をめぐる見方の違いにもつながっています。
中国は当初からこの裁定を認めない立場を一貫させてきました。その背景には、主権と領土保全への強いこだわりとともに、紛争は当事国同士の対話と協議を通じて解決すべきだという考え方があります。
一方で、国際社会には、仲裁や裁判といった法的手段を重視する声もあります。これら二つのアプローチをどのように調和させるのかは、南シナ海だけでなく、今後の国際秩序全体にとっての大きな課題です。
国際ニュースをフォローする私たちにできるのは、多様な当事者の見方に耳を傾けつつ、裁定や声明の一つ一つを、その背後にある歴史と文脈の中でていねいに読み解いていくことです。南シナ海仲裁をめぐる中国側の見方を知ることも、その重要な一部分だといえるでしょう。
Reference(s):
cgtn.com








