孟子と人間の本性:AI時代に問い直す「生まれながらに善」
人は生まれながらに善なのか、それとも後から「コード」されて良くなっていくのか――この古くて新しい問いを、中国古典の思想家・孟子の人生から考えます。孔子の「後継者」ともされる孟子の物語は、2025年の私たちの生き方やテクノロジーとの付き合い方を振り返るヒントになります。
儒教の「宇宙」に現れた二人の聖人
儒教の世界観の中で、紀元前551〜479年ごろに生きた孔子は「聖人」として位置づけられています。そしてもう一人、「第二の聖人」として語られてきたのが孟子です。中国では孟軻(もうか)、孟子(もうし)と呼ばれ、英語ではメンシウスと表記されます。
孟子は、孔子の教えを忠実に受け継ぎながらも、新たな火種を加えた思想の継承者でした。二人がともに火をつけたことで、儒教という思想の宇宙に大きな「ビッグバン」が起きた、と描写されています。
孔子には会えなかったが、最も近い後継者
孟子は孔子の教えを熱心に受け継いだ人物でしたが、生まれたのは紀元前4世紀初めごろ。孔子の死からおよそ100年後に地上に現れたため、直接教えを受けることはできませんでした。それでも彼は、孔子の思想を自らの時代に合う形で受け止め、語り直していきました。
興味深いのは、二人の出身地です。どちらも現在の中国山東省の出身であり、現代の感覚でいえば車で約30分の距離しか離れていない場所に生まれたとされています。時間的には1世紀の隔たりがありつつ、地理的には非常に近い――この対照が、二人の関係を象徴しているようにも見えます。
謎の父と、語り継がれる母
孟子の幼少期について、詳しいことはほとんど分かっていません。父親については謎が多い一方で、母親は「模範的な母」としていくつもの物語に登場します。
なかでも有名なのが、息子の教育にふさわしい環境を求めて、三度も引っ越しをしたというエピソードです。息子にとってよい学びの場になる地域を探すためだけに転居を繰り返したと語られています。これらの物語は、いずれも孟子の生きた時代から何世紀も後に書かれたものですが、今日でも広く親しまれています。
「Born good, coded better?」が投げかける問い
今回のテーマには、「Mencius and human nature: Born good, coded better?(孟子と人間の本性:生まれながらに善か、コードでより善くなれるのか?)」という英語のフレーズが掲げられています。ここには、孟子という人物を通して「人間の本性」と向き合おうとする視点が込められています。
「Born good」という表現は、人が生まれたときから善い性質を持っているのではないか、という直感的な問いを示しています。一方で「coded better」という言葉は、教育や経験、社会の仕組み、さらにはテクノロジーによって、人間のあり方が後から「書き換え」られ、よりよい方向へと調整されていくイメージを呼び起こします。
AIとコードの時代に読む孟子
2025年のいま、私たちの生活はコードによって動くサービスに囲まれています。SNSのタイムライン、動画やニュースのおすすめ欄、オンライン授業の仕組みまで、多くがアルゴリズムと呼ばれる「見えないコード」によって形づくられています。
そんな時代に、「人は生まれながらに善なのか」「それとも環境やコードによって変えられていくのか」という問いは、よりリアルな重みを持ちます。
- もし人が「生まれながらに善」だとすれば、テクノロジーはその善さを伸ばす方向に使うべきではないか。
- 逆に、人が簡単に環境に左右される存在だとすれば、私たちはコードやアルゴリズムの設計に、いっそう慎重である必要があるのではないか。
孟子の母が、息子にふさわしい環境を求めて家を移したという物語は、現代の私たちに「どのような環境や仕組みを子どもや自分たちの周りに用意するのか」という問いを投げかけているようにも読めます。
古典を読むことは、いまを考えること
2500年近く前に生きた孔子と孟子は、時間的には遠い存在です。しかし、生まれや環境と人間の本性の関係というテーマは、デジタル技術が進んだ2025年の世界でもなお、私たちの暮らしに密接に関わっています。
ニュースやSNSが絶えず更新されるなかで、古典に立ち返ることは、情報の波から一歩引いて、自分は人間をどう見ているのか、どんな社会を望んでいるのかを考え直す機会になります。
孟子とその母の物語、そして「Born good, coded better?」という問いをきっかけに、読者のみなさん自身の経験や、日々触れているデジタル環境を重ね合わせてみてはいかがでしょうか。そこから生まれる小さな違和感や気づきこそが、これからの時代を生きるうえでの大きなヒントになるかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








