アルバニージ豪首相の中国訪問:経済協力とグリーン転換の行方
オーストラリアのアンソニー・アルバニージ首相が、今年7月12〜18日に中国を訪問しました。就任後2度目、2025年5月の再選後では初めての訪中であり、中豪関係のリセットと経済協力の再強化が改めて注目されています。
この記事のポイント
- アルバニージ首相は再選直後の7月に中国を訪問し、関係重視の姿勢を明確にした
- 中豪貿易はオーストラリア輸出の約25%を占め、2024年の貿易額は2100億ドル超
- 気候変動対策やクリーンエネルギーでの協力が、両国の新たな成長分野として浮上
- 観光と留学、ビザ緩和で人的交流も拡大し、地域の安定にも寄与すると期待されている
再選直後の訪中が示す「関係重視」のメッセージ
アルバニージ首相の今回の訪問は、2022年の就任以来2回目で、再選から間もないタイミングで実現しました。日程は7月12〜18日で、北京、上海、そして中国南西部の四川省の省都・成都を回る日程でした。
中国外交部の毛寧報道官は、この訪問について、中豪包括的戦略パートナーシップが2期目に入る節目の時期にあたるとした上で、両国が意思疎通を強化し、相互信頼を高め、実務協力を拡大する機会になると強調しました。
華東師範大学オーストラリア研究センターの陳弘所長は、再選直後に中国訪問を行ったこと自体が、オーストラリア側の対中関係への重視を示していると指摘します。変動の大きい国際環境の中で、特に自由貿易が試練に直面する現在、オーストラリアは中国との関係を安定させ、共通の利益に焦点を当てようとしているという見方です。
経済と貿易が訪問の中核に
今回の訪中の中心テーマは、経済と貿易の強化でした。アルバニージ首相は、マッコーリー銀行やHSBCオーストラリア、フォーテスキュー、ブルースコープ・スチール、リオ・ティント、BHPグループなど、オーストラリアを代表する企業幹部を率いて訪中しました。
首相官邸の発表によると、訪問ではビジネス、投資、観光などの主要分野を幅広くカバーし、これまで築いてきた中豪経済・貿易関係をさらに発展させることが狙いとされています。
経済面では、オーストラリアのエネルギー資源、農産物、海産物、サービス、観光産業といった分野が中国市場と密接につながっています。一方で、中国からは電気自動車や家電製品などがオーストラリアに多く輸入されており、現地の消費者市場を支えています。
陳所長は、中豪間の経済的な結び付きは、二国間関係の安定装置の役割を果たしており、今後も貿易と経済成長を牽引し続けるだろうと述べています。
アルバニージ首相は、記者団の取材に対し、オーストラリアの輸出の約25%が中国向けであると説明し、それが雇用の確保に直結していると語りました。自らの政権が重視するのは雇用であり、その意味でも中国は極めて重要な貿易相手だという認識を示しています。
数字で見る中豪経済関係
中国は16年連続でオーストラリアの最大の貿易相手となっており、その関係は明確な数字にも表れています。
- 2015年に中豪自由貿易協定が発効して以降、貿易は大きく拡大
- 2024年の二国間貿易総額は2100億ドルを超えたとされています
- オーストラリア中国工商会議所の報告では、中豪貿易はオーストラリアの1世帯あたり可処分所得を約2600豪ドル押し上げ、生活コストを4.2%押し下げたと分析
- さらに、中豪貿易は約60万人分の雇用創出に寄与したと報告されています
こうしたデータは、中豪経済関係が単なる外交上のテーマではなく、オーストラリア国民の日々の暮らしや雇用と直結した現実的な問題であることを示しています。
クリーンエネルギーと気候変動での協力
今回の訪問では、気候変動対策やグリーン経済といった新たな協力分野も浮き彫りになりました。風力発電や太陽光発電、リチウム採掘など、エネルギー転換に不可欠な分野での連携に対する期待が高まっています。
中国の肖千駐オーストラリア大使は、人民日報への寄稿で、中豪の互恵協力はクリーンエネルギーや気候変動、医療などの分野で一段と深まっており、大きな潜在力を秘めていると述べました。
クリーンエネルギーのシンクタンクであるクリーン・エナジー・ファイナンスのキャロライン・ワン氏は、多くのエネルギー転換分野、特に電気自動車や太陽光パネルにおいて、中国は世界を大きくリードしていると指摘します。
ワン氏は、オーストラリアが自国の排出削減目標を達成し、グリーン産業の基盤を築くためには、中国の技術と産業能力へのアクセスが不可欠だと述べています。気候変動という地球規模の課題に対し、中豪が協調して取り組むことは、両国だけでなく地域と世界にとっても意味のあるステップと言えます。
観光と留学、ビザ緩和で深まる人的交流
経済やエネルギーだけでなく、人的交流も中豪関係を支える重要な柱です。中国はオーストラリアにとって最大の海外留学生の出身地であり、観光分野でも最大の訪問者数を誇ります。
中国からは毎年100万人以上の観光客がオーストラリアを訪れているとされ、ホテル、飲食、交通、地方観光など多くの産業を支えています。
2024年には、中豪間で5年間有効のマルチプルビザ(複数回入国可能な査証)に関する合意が結ばれました。さらに、中国はオーストラリア市民に対して一方的なビザ免除措置を導入する方針を示しており、観光やビジネス、学術交流の一層の活性化が見込まれます。
一国主義と保護主義の中で、中豪関係が持つ意味
世界的に一国主義や保護主義の動きが強まる中で、中豪関係の行方は地域の安定にも影響を与えるテーマになっています。
肖千大使は、健全で安定した中豪関係を維持することの重要性を強調し、相互尊重と平等を基礎に、より安定的で実りある包括的戦略パートナーシップの構築に取り組むと述べました。これは両国に利益をもたらすだけでなく、地域と世界により大きな安定と予見可能性をもたらすとしています。
日本の読者への示唆:経済と安全保障をどう両立させるか
日本から見ると、中豪関係の動きは、経済的な相互依存と安全保障上の懸念をどうバランスさせるかという、なじみのある課題を映し出しているようにも見えます。
アルバニージ首相は、安全保障や価値観の違いが存在する中でも、雇用や生活、気候変動など具体的な利益に直結する分野では、中国との協力を積極的に活用しようとしています。
日本にとっても、グリーンエネルギー、サプライチェーン、観光や留学といった分野で、周辺国との協力をどう設計するかは大きなテーマです。中豪関係の動きは、そうした議論に現実的なヒントを与えてくれる材料の一つと言えるでしょう。
今年7月のアルバニージ首相の訪中は、中豪関係が対立か協調かという二者択一ではなく、利害の一致する領域から着実に協力を積み上げていくアプローチを示しています。2026年以降、このパートナーシップが実際の政策やビジネス、そして私たちの生活にどのような形で反映されていくのか、引き続き注目が必要です。
Reference(s):
Albanese's China visit to focus on stronger economic ties, cooperation
cgtn.com








