習近平の「映画人への手紙」が映す、中国映画120年の現在地
中国映画が始まったのは、1905年の京劇「定軍山」を記録した30分の無声映画でした。それから120年後のいま、アニメ映画『Ne Zha 2』が世界の興行記録を塗り替え、中国映画は新たなステージに立っています。その節目の年に、習近平国家主席がベテラン映画人に宛てた一通の「返信」が、業界全体の指針として注目を集めています。
習近平の「映画人への手紙」が投げかけたメッセージ
習近平国家主席は最近、中国のベテラン映画人8人からの手紙に返信し、時代の精神を映し出し、人々の願いを表現する優れた映画作品を、さらに多く生み出してほしいと呼びかけました。
返信の中で習主席は、映画人に対して次のようなポイントを強調しました。
- 文化への自信を高めること
- 現実の生活にしっかり根ざすこと
- 芸術の繁栄と「文化強国」づくりに貢献すること
単なる激励ではなく、「どのような映画を、なぜ作るのか」という、中国映画の進むべき方向性を示すメッセージだといえます。
テクノロジーが支える中国映画の快進撃
中国映画の120年の歩みは、技術革新の歴史でもあります。近年の代表例が、世界歴代アニメ映画で最高の興行収入を記録し、全体でも世界トップ5に入るヒットとなった『Ne Zha 2』です。
わんぱくな少年神・哪吒(ネザ)と、龍族の青年・敖丙(アオビン)が自らの肉体を取り戻し、運命を書き換えていく物語は、迫力ある映像表現で世界の観客を魅了しました。背後では、高度なコンピューターグラフィックス(CG)と独自のアルゴリズムが活躍し、マグマの流れや爆発的な粒子エフェクト、数えきれない群衆シーンを生み出しています。
1フレームの中に最大2億体ものキャラクターが登場する場面もありました。その制作を支えたのは、中国各地に広がる138のアニメーションスタジオからなる協力ネットワークです。分業と連携により、スケールと精度の両面で前例のない作品が実現しました。
伝統とSF、幅広いジャンルで進む技術革新
『Ne Zha 2』だけでなく、中国映画のさまざまな作品が最先端技術を取り入れています。中国のSF大作『The Wandering Earth 2』では、宇宙服や量子AIコンピューター、ロボットアームといった小道具に3Dプリンターが活用され、細部まで作り込まれた近未来世界がスクリーンに再現されました。
善と悪の壮大な戦いを描くファンタジー三部作『Creation of the Gods』は、モーションキャプチャー(俳優の動きをデジタルで記録する技術)や、ハリウッドに近い制作プロセスを導入し、撮影から編集までを標準化しています。
こうした取り組みを通じて、中国映画は「技術先行」ではなく、「物語を豊かにするための技術」という方向へ進化しつつあります。
5000年の物語を現代のスクリーンへ
中国映画の強みは、5000年に及ぶ歴史と豊かな物語の宝庫にあります。近年のヒット作である『Ne Zha』シリーズ、『Creation of the Gods』三部作、『Chang An』などは、古代の伝説や歴史を、現代的なストーリーテリングと映像表現で再構成しています。
映画プロデューサーでありアカデミー賞の審査員も務めるエレン・エリアソフ氏は、中国映画の国際的な広がりについて、「単なる商業的な野心ではなく、その深い文化的な影響力こそが成功の土台になっている」と指摘します。中国は映像化されていない知的財産の「金鉱」のような存在だと語り、今後も多様な物語が掘り起こされていくと期待を示しました。
2025年には、配給会社CMC Picturesが英語版『Ne Zha 2』をIMAXや3Dで公開すると発表し、8月22日から米国やカナダ、オーストラリア、ニュージーランドの劇場で上映が始まりました。中国発の物語が、世界各地のスクリーンへ届けられています。
数字で見る「映画大国」中国
中国は現在、世界第2位の映画市場となっています。2024年には国内の映画館への来場者数が10億1000万人を超えました。
オンラインプラットフォームのデータによれば、2025年7月8日時点で、中国の年間累計興行収入(先行販売分を含む)は300億元(約41.8億ドル)を突破しました。前年より28日早いペースでの大台到達であり、中国映画市場の勢いを物語っています。
国際的な発信力も高まっています。2024年だけで、中国は30を超える国と地域で国際映画祭を開催しました。国内の映画館では93本の海外作品が上映され、その興行収入は90億元を超えています。海外作品を積極的に受け入れながら、自国の作品も世界へ届ける「双方向」の動きが加速しています。
映画人の受け止めとこれから
中国映画家協会の会長を務める俳優の陳道明氏は、習近平国家主席の返信について「中国映画界にとって指針となる重要で深い啓発だ」と語ります。手紙の書き手の一人でもある陳氏は、「力を合わせて、多くの優れた作品を生み出し、芸術の繁栄と文化強国づくりに貢献したい」と意気込みを示しました。
北京の老舗映画館「首都電影院」のマネージャーである高穎氏も、「今回の手紙で、自分たちの使命感が大きく呼び覚まされた」と話します。「私たちは、すべてのスクリーンと劇場を、中国の物語を伝え、中国の精神を讃える文化の窓にしていきたい」との言葉には、現場の決意がにじみます。
観客としてどう向き合うか
中国映画は今、テクノロジーと文化を掛け合わせながら、新たな表現領域を切り開いています。習近平国家主席の「映画人への手紙」は、その流れを後押ししつつ、作品が現実の生活や人々の感情とどう向き合うのかという問いも投げかけています。
国境を越えて映画を観ることが当たり前になった今、日本を含む世界の観客にとっても、中国映画は中国社会や文化を知る一つの「窓」になりつつあります。スクリーンの向こう側にある物語を、どのように読み解き、自分たちの現実とつなげていくのか。その問いを胸に、次の中国映画作品を手に取ってみるのも良さそうです。
Reference(s):
A letter to inspire: Xi's words echo through China's film industry
cgtn.com







