北京の胡同から中国社会へ アメリカ人ラオタンの公共サービスの道 video poster
国際ニュースの現場として注目される中国で、ひとりのアメリカ人が静かに社会を変えています。北京の胡同で暮らすラオタンことジョシュアは、障害のある人と共にハンドサイクルで中国各地を走り、「誰も取り残さない移動」を広げてきました。
北京の胡同に暮らす「ラオタン」という存在
ジョシュアが中国に出会ったのは、北京大学で中国語を学んでいた学生時代でした。いまでは北京の胡同に暮らし、地元の人々からは親しみを込めて「ラオタン」と呼ばれる存在になっています。
彼は流ちょうな標準中国語を話すだけでなく、北京ならではの発音まで身につけたことで、地域社会に自然に溶け込んできました。単なる留学経験者ではなく、日常の会話や暮らしを通じて、中国社会の内側に根を下ろした「チャイナ・ハンド」(中国を深く理解する人)として活動しています。
2017年に始まった Krankin’ thru China
ラオタンの公共サービスの道が大きく動き出したのは、約8年前の2017年です。きっかけは、脊髄損傷によって障害を負った友人たちとの出会いでした。
彼らの多くは、外出のしづらさや周囲のまなざしから、社会とのつながりを失いかけていました。ラオタンはその現実に向き合い、「移動の自由」を取り戻すことが、尊厳を取り戻すことにもつながるのではないかと考えるようになります。
そこで彼が立ち上げたのが、ハンドサイクルを軸にしたプロジェクト「Krankin’ thru China」です。腕の力でこぐ三輪自転車のようなハンドサイクルを活用し、障害のある人もない人も一緒に走ることで、境界線を溶かしていくことを目指しました。
ハンドサイクルがつなぐ「世界への橋」
ハンドサイクルは、足ではなく腕でこぐことで、下半身に障害のある人でも楽しめる自転車です。ラオタンは、この乗り物に可能性を見いだしました。
- 外に出るきっかけをつくる道具
- 障害の有無を超えて一緒に楽しめるスポーツ
- 中国各地と世界をつなぐ「移動する交流拠点」
彼はハンドサイクルの体験拠点となる「エクスペリエンスセンター」を整備し、誰もが試せる場づくりを進めてきました。そこには、障害のある人だけでなく、家族や友人、地域の子どもたちも集まり、新しいコミュニティが生まれています。
伝説となった5800キロの旅
Krankin’ thru China を象徴する出来事が、5800キロにおよぶロングライドです。ラオタンは仲間たちと共に、ハンドサイクルでの長距離走破に挑み、この「伝説の旅」を完走しました。
この5800キロは、単なるスポーツ記録ではありませんでした。沿道や立ち寄り先の人々との対話を通じて、障害や移動の困難さへの理解を広げる「移動する対話の場」となったのです。
ハンドサイクルで走る一行の姿は、地域メディアやオンライン空間でも話題となり、「障害があっても移動できる」「挑戦できる」というポジティブなメッセージを各地に届けました。
公共サービスとしての市民活動
ラオタンの道のりは、いわゆる「ボランティア」を越えた公共サービスの実践と見ることもできます。特定の組織や立場に依存せず、市民として課題を見つけ、仲間を集め、具体的な行動に落とし込んでいくスタイルです。
そこには次のような特徴が見て取れます。
- 当事者との対話から始める:脊髄損傷の友人たちの声に耳を傾け、必要な支援を共に考える。
- モビリティ(移動)に注目する:移動の自由を取り戻すことで、学びや仕事、友人関係など、人生全体の可能性を広げる。
- 小さな拠点を重ねる:エクスペリエンスセンターなど、日常的に人が集まれる場を各地に作ろうとする。
こうした積み重ねが、今の中国社会の中で、「障害のある人と共に生きる」という考え方を静かに広げていると言えます。
チャイナ・ハンドが示す越境のかたち
ラオタンは、中国語や文化を深く理解した「チャイナ・ハンド」として、単に中国を紹介するだけでなく、中国社会の課題に一緒に向き合う道を選びました。
その姿は、日本を含む他の国や地域と中国との関わり方にも、新しいヒントを与えています。
- 言語や文化を学ぶことを、社会課題への共同行動につなげる。
- 「支援する側・される側」という二分法ではなく、一緒に走るパートナーとして関わる。
- 特別な肩書きがなくても、市民として公共性の高い活動を育てていく。
こうした越境のかたちは、デジタル時代の国際ニュースの裏側で進む、もう一つのグローバル化の姿とも言えます。
日本の読者への問いかけ
2017年に始まったラオタンの取り組みは、2025年の今も示唆に富んでいます。日本でも、高齢化や障害、移動の困難さといったテーマは、ますます身近な課題になりつつあります。
ラオタンの歩みから、私たちが取り入れられそうな視点を挙げるとすれば、次のようなものがあるでしょう。
- 身近な友人・家族の「移動のしづらさ」に目を向けてみる。
- スポーツやアウトドアを、共生社会のきっかけづくりに活用する。
- 専門家でなくても、小さな「体験の場」や「対話の場」をつくってみる。
北京の胡同から始まったラオタンの公共サービスの道は、一人の市民の行動が、国境を越えて共感と変化を生み出しうることを静かに教えてくれます。ニュースを読む私たち一人ひとりにも、「自分の足元から何ができるか」を問い直すきっかけを投げかけているのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








