車いすから空へ:中国のハンドサイクル旅が変えた二人の人生 video poster
中国各地をハンドサイクルで走り抜けた二人の障害者、Wang FengさんとPan Yifeiさん。その過酷な旅は、やがて1万キロ超のドライブと空を飛ぶ挑戦へとつながり、人生をまるごと塗り替えました。
5年間、家にとどまったWang Fengさん
Wang Fengさんは、まひの診断を受けてから5年間、自宅からほとんど出られない生活を続けてきました。仕事や趣味、人との交流など、それまで当たり前だった日常が一気に遠ざかり、窓の外の世界は「見るだけのもの」になっていたといいます。
体だけでなく、心も次第に動きづらくなっていきます。外出には常に不安がつきまとい、自分の存在意義や将来への希望を見失いかけていた時期もあったはずです。それでも、どこかで「もう一度、自分の力で前に進みたい」という思いを手放さなかったことが、後の転機につながっていきます。
車いすの上で縮んだ世界、Pan Yifeiさん
一方のPan Yifeiさんは、車いすでの生活が長く続き、世界そのものが車いすの幅にまで縮んでしまったかのように感じていました。段差、狭い通路、人混み。ちょっとした移動にもたくさんのハードルが立ちはだかります。
「出かけること」自体が大きな決断になり、次第に行動範囲は家の周りや決まったルートに限られていきます。友人との距離も、仕事の選択肢も、少しずつ狭まっていくように思えたかもしれません。
手で走る旅との出会い
そんな二人に差し伸べられたのは、まさに「手」による新しい可能性でした。きっかけは、ハンドサイクルと呼ばれる、手でこぐ自転車です。ペダルの代わりにハンドルを回して進むこの乗り物は、脚に障害があっても自分の力で遠くまで走ることを可能にします。
Wang FengさんとPan Yifeiさんは、このハンドサイクルに乗って、中国を舞台にした長距離の旅に出ることを決意しました。旅にはDream Chasers on Wheels: A Road to Rebirthというタイトルが付けられ、まさに「車輪で夢を追いかける再生の道」の挑戦が始まります。
中国を走るハンドサイクルの旅で直面した現実
もちろん、この中国の長距離ハンドサイクル旅は、決してロマンチックなだけの物語ではありません。二人は道中、さまざまな試練に直面しました。
- 標高の高いシャングリラでは、強烈な日差しにさらされ、腕や首の皮膚が焼けるような日焼けに苦しみました。
- 山岳地帯の板で組まれた道では、崖の上を走行中にタイヤが突然破裂し、命の危険すら感じる場面もありました。
- 雨に打たれながら進む夜には、濡れた服の冷たさと孤独感をごまかすように、二人で歌を口ずさみながらペダルならぬハンドルを回し続けました。
ハンドサイクルは、自転車以上に体力と集中力を必要とする乗り物です。腕と肩、背中は常に悲鳴を上げ、長時間の走行は想像以上に過酷だったはずです。それでも二人は、互いに声を掛け合いながら、一日一日、少しずつ前へ進み続けました。
試練がもたらした「再出発」
こうした試練の積み重ねは、二人の運命を静かに、しかし確実に変えていきました。痛みや恐怖、不安と向き合いながらも一つひとつの区間を走り切ることで、「自分はここまでできる」という感覚が、少しずつ体の奥に刻まれていきます。
旅を終えたあと、Pan Yifeiさんはついに自ら車のハンドルを握り、約1万キロにおよぶ道のりを走ってXizang Autonomous Regionへと向かいました。かつて世界が車いすの幅にまで縮んでいた人が、今度は広大な大地を横断するドライバーとして道路に立っている――その変化は象徴的です。
Wang Fengさんは、地面からさらに一歩離れた場所へと挑みます。パラモーター(モーターパラグライダー)に身を任せ、空へと舞い上がったのです。両手でしっかりとハンドルを握り、風を切りながら青空の中を滑るように飛ぶ体験は、「二度と動けない」と感じていた時期からは想像もつかない自由のかたちでした。
なぜ今、この物語が注目されるのか
二人の歩んだ道のりは、障害があることと自由であることは必ずしも矛盾しない、ということを静かに語りかけてきます。大切なのは、「何ができないか」ではなく、「何をしたいか」と「どうすれば一歩目を踏み出せるか」だという視点です。
この中国発のストーリーは、私たちに次のような問いを投げかけます。
- 誰かが一歩を踏み出すとき、周囲はどのような形で「手」を貸せるのか。
- 移動手段や道具の工夫によって、どこまで可能性を広げられるのか。
- 自分の「限界」は、本当に自分だけが決めているものなのか。
2025年の今、社会では多くのニュースが飛び交い、分断や対立に意識が向きがちです。その中で、ハンドサイクルという小さな車輪から始まり、1万キロのドライブと空への飛翔へとつながった二人の物語は、私たちにもっと身近な「再出発」の可能性を思い出させてくれます。
通勤電車の中で、あるいは夜にスマートフォンでこの記事を読んでいる私たちも、明日ほんの少しだけ遠くまで歩いてみる、いつもより一駅分だけ多く移動してみる。そんな小さな一歩が、自分自身のロード・トゥ・リバース(再生への道)になるのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








