上海発BCI、中国語の思考を文章化 臨床試験と2030年ビジョン
上海発BCI技術、中国語の思考をそのまま文章に
中国・上海の研究者と臨床神経内科医のチームが、脳とコンピュータを直接つなぐブレイン・コンピュータ・インターフェース(Brain-Computer Interface、BCI)の分野で新たな成果を発表しました。思い浮かべた中国語の文を、そのまま流ちょうな文章として表示できる技術が、現在臨床試験の段階に入っています。
この技術により、脳卒中などで言葉を失った人が、再び家族や医療スタッフと複雑な内容をやり取りできる可能性が見えてきています。
10人の参加者が「頭の中の中国語」で会話
今回のBCI臨床試験には、てんかんを患う10人の参加者が協力しました。上海のスタートアップINSIDEと、復旦大学付属華山医院の共同チームは、参加者の脳に電極を埋め込み、発話しようとする際の脳活動を詳細に計測しました。
研究チームが独自に開発した知能システムは、平均わずか100分の訓練で、54種類の中国語の漢字に対応する脳活動パターンをリアルタイムに解読できるようになりました。
54文字から1,951語へ 0.5秒未満で文を生成
興味深いのは、この54文字の訓練データを足がかりに、システムが1,951語ものよく使われる中国語の単語を正しく認識できるようになった点です。単語を組み合わせることで、ほぼ文字数に制限なく、複雑な中国語の文章を0.5秒未満で生成できたとされています。
INSIDEの主任科学者である李孟氏は、英語が少数の音素の組み合わせで構成されるのに対し、中国語(普通話)は400以上の繊細な音節を持つと指摘します。その上で、華山医院が構築した世界最大規模のヒト脳波データベースを用いてAIを訓練した結果、音声の最小単位ともいえる音韻成分を83%以上の精度で識別できたと説明しています。
世界最大級の脳波データベースが支えるAI
今回のBCI技術の土台になっているのが、華山医院が長年のてんかん治療と研究を通じて蓄積してきた膨大な脳波データです。多様な患者の脳活動パターンを含むデータベースを使うことで、AIは人による差をまたいで、発話意図に共通する特徴を学習できます。
その結果、対象となる音節や単語が増えても、解読精度を維持しやすくなり、将来的にはさらに多くの漢字や表現を扱える可能性があります。
ゲーム操作から日常生活支援へ 華山医院の臨床試験
華山医院は、BCIの臨床応用に積極的に取り組んできました。2024年8月には、上海のNeuroXessが設計した256チャンネルの柔軟なBCIデバイスを、21歳のてんかん患者の女性に埋め込む手術を実施しました。手術後48時間以内に、この患者は卓球やスネークといったコンピュータゲームを、脳信号だけで操作することに成功しました。
さらに2025年6月には、13年前に高圧電流による事故で四肢を失った男性に対し、中国科学院が設計したBCIデバイスを脳に埋め込む手術が行われました。この男性は、その後、チェスやレーシングゲームを頭の中のイメージだけで操作できるようになったと報告されています。
こうした事例は、BCIが単なる研究テーマにとどまらず、実際の患者の生活を変え始めていることを示しています。
思考で家電操作やアート制作も? 広がる応用イメージ
研究チームは、今回の音声・言語BCI技術を、コミュニケーション支援にとどまらず、より広い応用につなげる構想も描いています。解読されたテキスト情報を利用して、照明やエアコンなどのスマート家電を制御したり、生成AIと組み合わせて、ユーザーの頭の中のイメージを反映したアート作品を自動生成したりすることも想定されています。
言い換えれば、考えることそのものが、新しいユーザーインターフェースになる可能性があるということです。
上海のBCI戦略と2030年の目標
上海市はBCIを戦略的な未来産業と位置づけ、インキュベーション施設の整備や、企業・大学・病院が連携しやすいイノベーション生態系づくりを進めています。目標は、2030年までに高品質なブレインコントロール技術を確立し、BCI製品を医療現場などの臨床応用に本格的に組み込むことです。
医療・リハビリだけでなく、教育やエンターテインメント、産業現場の安全管理など、BCIが関わりうる領域は広がっています。上海での取り組みは、こうした将来像に向けた大規模な実証の場になりつつあります。
日本の読者が押さえておきたい視点
世界各地でBCI研究が加速するなか、中国・上海からは、中国語という複雑な言語を対象にした大規模な臨床試験のニュースが届きました。日本でも脳卒中や神経疾患による言語障害は重要な課題であり、今回のような取り組みは、将来の医療テクノロジーの選択肢として注視すべき動きだと言えます。
同時に、脳情報という極めてセンシティブなデータをどう扱うか、プライバシーや倫理の議論も欠かせません。どのような用途なら社会的に受け入れられるのか、誰がデータにアクセスできるのかといった点は、国や地域を超えて共通するテーマです。
BCIはまだ発展途上の技術ですが、上海で進む臨床試験と都市レベルの戦略は、私たちが脳とテクノロジーの関係をどのように設計していくのかを考える手がかりを与えてくれます。読者一人ひとりが、このニュースをきっかけに、自分ならどのようなBCIの未来を望むのかを想像してみることが求められています。
Reference(s):
Shanghai BCI breakthrough translates thoughts into fluent Chinese
cgtn.com








