ICBS 2025で語られたAIと数学 米国の揺らぎと中国のチャンス video poster
北京で開かれたICBS 2025の場で、AIと数学の関係、そして米国の基礎研究の揺らぎが中国にどんなチャンスをもたらしているのかが語られました。本記事では、その議論を日本語ニュースとして整理し、私たちが考えるヒントを探ります。
北京で開かれた国際会議ICBS 2025
2025年に北京で開催された国際会議「International Congress of Basic Science(ICBS)」には、ノーベル賞受賞者やフィールズ賞受賞者、チューリング賞受賞者など、世界を代表する研究者が集まり、基礎科学の最前線について議論しました。
会場の中心となった北京雁栖湖応用数学研究院(BIMSA)で、CGTNの単独インタビューに応じたのが、副院長の呉栄霖氏です。呉氏は、数学と人工知能(AI)の交差点から見た中国の可能性について語りました。
AI競争と数学の役割
呉氏は、ここ数年の地政学的な緊張の高まりの中で、AIが各国の競争領域になっていると指摘します。特に昨年以降、その傾向が一段と強まっているといいます。
中国にとって数学を自らの力でマスターすることは、単なる学問上の課題ではなく、戦略的なテーマだと強調します。呉氏は「数学を自分たちの手で身につけてこそ、自前のAIの枠組みを構築できる。応用数学はAIにとって不可欠で、この課題を避けることはできない」と述べ、数学教育と研究の重要性を強く訴えました。
米国の基礎研究の揺らぎと中国のチャンス
呉氏は、米国の基礎研究を巡る政策の揺らぎが、中国にとっての好機になり得るとの見方も示しました。
トランプ政権期に、全米科学財団(National Science Foundation)など主要な研究資金機関の予算削減が試みられたことに触れ、「指導部の問題により米国は基礎研究で後退を経験している。それが中国にとってのチャンスを生む」と指摘します。
中国が数学をはじめとする基礎科学を優先し続ければ、米国の一貫しない姿勢によって生じた空白を埋め、科学技術競争で優位性を高められるというのが呉氏の見立てです。
数学とAIのシナジー
呉氏の研究の中心にあるのは、数学とAIの相互作用です。呉氏は「AIは複雑な問題を解くのに役立ち、強い数学の研究はAIを前に進める。両者は補い合う関係にある」と話します。
現在広く使われているAIは、比較的単純な数学に依拠している面がありますが、現実世界の課題ははるかに複雑です。呉氏は「複雑な問題には複雑な道具が必要だ」と述べ、より高度な数学理論をAIの基盤となる枠組みに組み込もうとしています。
例えば、フィールズ賞受賞者でありBIMSAを率いる丘成桐氏らが切り開いてきた高度な数学理論を取り入れることで、計算負荷を抑えつつ、分子構造のモデリングや疾病予測といった難題に、これまでにない効率で取り組める可能性があると説明しています。
次世代に求められる「数学の目」
将来の科学を支える鍵は教育にある、と呉氏は強調します。子どもたちにはAIのスキルや基本的な使い方だけでなく、数学理論を含む基礎をしっかり教えるべきだと訴えます。
十分な基礎がなければ、AIに判断を委ねるだけになり、主体的な判断力を失いかねないという懸念も示しました。若い研究者に必要なのは、「アルゴリズムがどのように使えるか」だけでなく、「なぜそのアルゴリズムが機能するのか」を理解することだといいます。
この二つの視点を持つことで、既存のツールを操作するだけでなく、新しい手法や枠組みを自ら生み出す力が育つ、と呉氏は見ています。
日本の読者への示唆
今回の国際ニュースは、中国と米国の競争という枠を超え、数学や基礎研究をどのように位置づけるかという普遍的な問いを投げかけています。日本で日本語ニュースを日常的に追う私たちにとっても、決して他人事ではありません。
- AIを使いこなすだけでなく、その背後にある数学や理論をどこまで重視するか
- 短期的な成果と、基礎研究への長期的な投資をどう両立させるか
- 次世代に、計算ツールへの依存ではなく判断力と理解力をどう育てるか
スマートフォンで生成AIを日常的に使う私たちにとっても、呉氏のメッセージは示唆に富んでいます。AIの便利さを享受しつつ、その土台にある数学と基礎研究をどう支えるのか。ICBS 2025での議論は、これからの社会のあり方を考えるきっかけになりそうです。
Reference(s):
U.S. undermines its tech edge, a chance for China: Wu Rongling at ICBS
cgtn.com








