中国の高エネルギー光子源HEPS、2025年末に試運転へ 次世代X線が開く新しい材料科学
中国の次世代シンクロトロン放射光施設である高エネルギー光子源(High Energy Photon Source、HEPS)が、2025年末までに試運転を始める計画を明らかにしました。国際ニュースとしても、材料科学やバイオ、化学工学など幅広い分野を大きく変える可能性を持つプロジェクトです。
HEPSとは何か:次世代シンクロトロン放射光施設
HEPSは、中国の重要な科学技術インフラの一つとして位置づけられるシンクロトロン放射光施設です。シンクロトロン放射光源とは、通常ストレージリング(蓄積リング)と呼ばれる装置で加速・蓄積された粒子から放射される高輝度の電磁波を利用する施設のことを指します。
HEPSは、第4世代シンクロトロン放射光源として、世界最高レベルの明るさを持つ施設となることを目指して開発が進められています。中国科学院高能物理研究所(IHEP)によると、HEPSは材料科学、化学工学、バイオメディカル(生体医療)など幅広い分野の研究プラットフォームとして活用される見通しです。
- 2025年末までに試運転開始を目指す、中国の次世代放射光施設
- 世界最高クラスの明るさを持つ第4世代シンクロトロン放射光源になることを目指す
- 材料科学、化学工学、バイオメディカルなど多様な分野の研究基盤として期待されている
IHEPはHEPSについて、ミクロの世界を観察する超高性能なX線顕微鏡のような存在だと説明しており、肉眼では到底見えない構造や現象を可視化することが狙いとされています。
北京郊外・懐柔区で建設が進む大型施設
HEPSは北京市郊外の懐柔区に建設されています。2019年に着工して以降、加速器本体やビームラインといった主要設備の整備が進み、現在は試運転に向けた仕上げの段階に入っています。
施設は主に、粒子を加速・蓄積する加速器、そこで生まれた放射光を各実験ステーションへ導くビームライン、実際に測定や観察を行うエンドステーション、そしてそれらを支える付帯施設から構成されています。
プロジェクト責任者の潘偉民氏によると、第1期に計画された15本すべてのビームラインで既に光が出ており、装置としての立ち上げが大きく前進しているといいます。ビームラインは、放射光をさまざまなエネルギーや形に整え、個別の研究テーマに合わせて供給するための「通り道」であり、施設の研究能力を左右する中核的な要素です。
研究分野へのインパクト:電池から創薬まで
HEPSは、その高い明るさとコヒーレンス(光のそろい具合)を武器に、これまで困難だった精度や条件での実験を可能にすると期待されています。公式には、材料科学、化学工学、バイオメディカルなどが主要な応用分野として挙げられています。
具体的な研究テーマとしては、次のような分野が想定されています。
- 固体電池など次世代エネルギー材料の微細構造解析
- 高温超伝導体の電子構造や物性の精密観測
- たんぱく質や医薬候補化合物の立体構造をもとにした創薬研究
- 触媒や化学反応のメカニズム解明に関わる化学工学研究
こうした実験では、原子や電子の動きといったミクロな世界をどれだけ細かく、そして速く観察できるかが鍵になります。HEPSのような第4世代放射光源は、従来よりも格段に明るくそろったX線を供給することで、時間的・空間的な分解能を高め、物質のダイナミクスやわずかな構造変化まで捉えようとしています。
中国の放射光ネットワークの中での位置づけ
HEPSは、中国が整備を進めてきた放射光施設ネットワークの中でも重要な節目となるプロジェクトです。現在、中国は第1世代から第4世代まで、全ての世代の放射光源を保有しているとされています。
第1世代と第4世代の施設はいずれも北京にあり、第2世代は華東地域の安徽省合肥市、第3世代は上海に設置されています。その中でHEPSは、中国初の高エネルギー第4世代放射光源として位置づけられており、これまでに蓄積された運用経験を生かしながら、新たな性能水準への挑戦が進められています。
潘氏は、HEPSがこれまでの施設の経験を踏まえつつ、国家的な戦略ニーズ、産業イノベーション、そして科学の最前線に応えることに重点を置いていくとしています。エネルギー、環境、医療といった長期的課題に取り組むうえで、こうした大型研究インフラが果たす役割は今後一段と大きくなりそうです。
2030年までのロードマップと今後の焦点
HEPSは最終的に最大90本のビームラインを収容できる設計となっており、2030年までに45本のビームラインを整備する計画が示されています。現在、プロジェクトチームは研究機関や産業界と積極的に連携し、追加のビームライン建設のための資金確保や、どのような実験ニーズがあるかを集約しているとされています。
今後の注目ポイントを整理すると、次のようになります。
- 2025年末までに予定通り試運転に入れるかどうか
- 2030年までに整備予定の45本のビームラインが、どの研究分野を優先してカバーするのか
- 最終的に最大90本のビームライン体制が実現した際、どのような共同研究が進むのか
- 産業界との連携を通じて、電池やバイオ医薬などのイノベーションがどこまで加速するのか
HEPSプロジェクトは、単なる一つの研究施設整備にとどまらず、科学技術インフラを通じて社会課題の解決や産業競争力の向上を図る試みとしても注目されています。2025年末までの試運転開始に向けた動きと、その後のビームライン拡充の過程は、科学技術や産業政策に関心のある読者にとっても追いかける価値のあるテーマだと言えるでしょう。
Reference(s):
China's High Energy Photon Source targets trial run by end of 2025
cgtn.com








