上海・1933 Old Millfun 旧屠殺場がアート拠点になった都市ノワール
1933年に建てられた旧屠殺場が、2025年のいま、上海でアートとカフェ文化の拠点として息を吹き返しています。雨に煙るコンクリートの迷宮「1933 Old Millfun(Lao Chang Fang)」は、都市の過去と現在が交錯する場所として、国際ニュースや都市デザインに関心のある読者にとっても見逃せない存在です。
1933 Old Millfunとは何か:屠殺場からカルチャースポットへ
1933 Old Millfunは、その名のとおり1933年に建てられた建物で、もともとは家畜の屠殺場として設計されました。アール・デコとバウハウスの要素を巧みに取り入れた構造で、同じタイプの施設はもう残っていないといわれるほど、特異で貴重な建築です。
設計の中心にあったのは「家畜をいかにスムーズに最期へと運ぶか」という、今となってはぞっとするような機能でした。
- 家畜がすれ違えるほど幅広い螺旋スロープ
- 不安や鳴き声を外に漏らしにくくする迷路のような通路
- むき出しのコンクリートで構成された非対称の空間
- 5層にわたるフロアをつなぐ空中回廊(スカイブリッジ)
かつては「終わり」に向かう動線として機能していた建物が、現在はアート好きや写真家、クリエイター、そしてコーヒーを求める人たちが集まる「始まり」の場として使われているのが印象的です。
雨の上海が似合う「都市ノワール」な迷宮
ある訪問者は、雨のなかでこの建物の入口を見つけたとき、上海という巨大都市のテンポが一気にスローダウンしたように感じたといいます。雨が街をグレースケールに染めるなかで、1933 Old Millfunのコンクリートはより重く、より物語的に浮かび上がります。
建物の内部は、一歩入った瞬間から「ただの観光スポット」ではなくなります。螺旋スロープを登り、細い通路を抜け、空中回廊を渡っていくうちに、訪れる側が建物の内部に吸い込まれていくような感覚を覚えるからです。言い換えれば、ここは「入る場所」というより、「のみ込まれる場所」に近いのかもしれません。
写真を撮る人にとっては、複雑な影と光、直線と曲線の組み合わせが尽きない被写体になります。クリエイターにとっては、かつての用途を想像せずにはいられない「物語の箱」として、インスピレーションの源泉になっているようです。
過去を埋め立てず「折り曲げる」都市ビジョン
1933 Old Millfunは、上海の「都市ビジョン」を象徴する存在として語られています。ここでは、不要になった過去を完全に消し去るのではなく、「幽霊」のように街に残る痕跡を、別のかたちへと折り曲げて使い続けようとしています。
こうした考え方は、建築や都市計画の分野で「アダプティブ・リユース(既存建築の再利用)」と呼ばれます。新しいビルを建て替えるのではなく、歴史を刻んだ構造そのものを活かしながら、機能や意味を更新していくアプローチです。
1933 Old Millfunの例から見えるポイントを整理すると、次のようになります。
- 歴史と現在のレイヤー化:屠殺場としての過去と、アート拠点としての現在が同じ空間に重なっている。
- 「不気味さ」を力に変える:かつての用途ゆえの不穏さ、暗さを消すのではなく、都市ノワール的な魅力として受け止めている。
- コミュニティのハブ化:アート好きやクリエイター、カフェを楽しむ人びとが集い、新しいネットワークが生まれている。
2025年のいま、世界の多くの都市で「古い建物をどう扱うか」という課題が共有されています。上海の1933 Old Millfunは、その問いに対するひとつの答えを、非常に具体的で物語性のあるかたちで示しているといえるでしょう。
なぜこの場所は私たちを惹きつけるのか
1933 Old Millfunが特別なのは、「フォトジェニックだから」という理由だけではありません。かつての用途を知れば知るほど、いま自分が歩いている床や、見上げている回廊の意味が変わって見えてくるからです。
都市の成長は、ときに過去を完全に覆い隠す方向へ進みがちです。しかし、この建物が示しているのは、次のような別の選択肢です。
- 過去の機能を否定せず、記憶として残しながら使い方を変える
- 「不気味さ」や「重さ」も含めて、その街らしさとして受け止める
- 日常空間のなかに、歴史や死生観をふと考えるきっかけを埋め込む
新しいものや効率の良さだけでは測れない都市の価値を、1933 Old Millfunは静かに問いかけています。スマートフォンを片手に世界のニュースやトレンドを追う私たちにとっても、「自分が暮らす街の建物を、どのように未来へ引き継いでいくのか」という問いを投げかけてくれる場所だといえるでしょう。
雨のなかでゆっくり歩きながら、このコンクリートの迷宮にのみ込まれてみると、上海という都市の別の顔が見えてくるかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








