雨林が歌いだす物語 ハイナン・ギボンと児童文学 video poster
雨林が「歌う」――ハイナン・ギボンと児童文学の出会い
世界で最も希少な霊長類の一つとされるハイナン・ギボンは、中国の海南島に広がる熱帯雨林にしか生息していません。国際ニュースでは絶滅が心配される動物として名前を見ることはあっても、その姿や暮らしを具体的に思い描ける人は多くないのではないでしょうか。
そうしたなかで、子ども向けの物語を通じて、画面の向こうの読者にも雨林の「歌」を届けようとしている作家がいます。児童文学作家・鄧希(デン・シー)さんです。
ハイナン・ギボンとはどんな動物か
ハイナン・ギボンは、世界でも数が少ない霊長類の一種で、すばしこく森を移動することで知られています。生息地は海南島の熱帯雨林だけであり、この島の森が、そのまま彼らの世界のすべてと言っても過言ではありません。
人前に姿を見せることはほとんどなく、「姿を見たことがある」と言える人はごく限られています。それでも、保全活動が進むにつれて、写真や記事を通じてその存在を知る人は少しずつ増えています。
保全活動と「知ってもらう」ことの意味
生きものを守るうえで、専門家による調査や保護区の整備と同じくらい重要なのが、「多くの人に知ってもらう」ことです。ハイナン・ギボンのように、遠い島の奥深い森でひっそりと生きる動物は、そもそも存在が知られなければ、守るべき対象として意識されにくくなります。
近年、海南島の熱帯雨林では保全の取り組みが深まりつつあり、それに合わせて、ハイナン・ギボンを紹介する写真や記事も増えてきました。国際ニュースとしての発信だけでなく、物語やエッセーといった形で伝えようとする動きも生まれています。
文字から立ち上がる「夜明けの合唱」――鄧希さんの物語
そうした作品のなかでも注目されているのが、児童文学作家・鄧希さんの書く物語です。彼女は、海南島の雨林とそこに生きるハイナン・ギボンを、言葉だけで鮮やかによみがえらせます。
読者はページをめくりながら、まだ見たことのない森の匂いや、木々の揺れ、枝から枝へと軽やかに跳ぶギボンの動きを、想像力の中でたどることになります。物語の描写は、まるで夜明けの森のなかに自分が立っているかのように感じさせ、ギボンたちの合唱が遠くから聞こえてくるような錯覚さえ生み出します。
実際にギボンを見たことがなくても、「どんな朝を迎えているのか」「どんな声で仲間と呼び合っているのか」を、読者それぞれの頭の中で思い描くことができます。これは、写真では届きにくい、物語ならではの力と言えるでしょう。
子どもの本が環境意識を育てる理由
なぜ、児童文学のような物語が、環境や野生生物の保護にとって重要なのでしょうか。ポイントは、情報ではなく「感情」を動かすことにあります。
- 数字ではなく物語を通じて、遠い場所の生きものを身近に感じられる
- 主人公と一緒に森を歩くことで、読者自身が体験したかのような記憶が残る
- 怖さや不安だけでなく、「好き」「もっと知りたい」という前向きな感情を育てられる
ハイナン・ギボンについても、ただ「世界で最も希少な霊長類の一つ」と聞くよりも、雨林のなかで家族と過ごす姿や、夜明けの歌声のイメージを伴って知ることで、心に残りやすくなります。そうした印象が、将来の進路選択や寄付、日々の消費行動など、さまざまな場面で環境を意識した選択につながっていく可能性があります。
画面の向こうから雨林の「歌」を聞く
デジタル端末でニュースを読むことが当たり前になったいま、私たちは世界のどこで何が起きているのかを、ほぼリアルタイムで知ることができます。一方で、ニュースの一覧を流し読みしているだけでは、遠い場所の生きものの物語はすぐに流れ去ってしまいます。
鄧希さんの作品のように、「一つの物語としてじっくり読む」経験は、情報との付き合い方を少し変えてくれます。忙しい日常の中で数十分だけでも物語に耳を傾けることは、画面の向こうにある雨林の気配や、そこで生きるハイナン・ギボンの存在を、静かに思い出すきっかけになるかもしれません。
国際ニュースを日本語で追いかける私たちにとっても、こうした物語は、世界とつながるもう一つの窓です。海南島の森から聞こえてくるかもしれない「歌」に、今日は少しだけ耳を澄ませてみませんか。
Reference(s):
cgtn.com








