南京大虐殺を描く中国映画「Dead To Rights」が興収10億元突破
2025年夏、南京大虐殺を題材にした中国映画「Dead To Rights(デッド・トゥ・ライツ)」が、中国本土の映画館を席巻しました。公開からわずか8日で興行収入10億元(約1億4,000万ドル)を突破し、歴史映画として異例のスピードで観客を集めています。
作品は、単なる反戦ドラマにとどまらず、写真というモチーフを通じて「記録」と「記憶」の意味を問いかける内容で、多くの観客に強い余韻を残していることが特徴です。
8日で10億元突破、中国本土の夏興行をリード
シェン・アオ監督によるこの作品は、2025年7月25日に中国本土で公開されました。興行データを提供する猫眼(Maoyan)や灯塔(Beacon)によると、公開から8日間で興行収入が10億元を超え、春節後に公開された作品として初めてこの大台に到達しました。
同作は公開後、中国本土全土のデイリー興行ランキングで首位を維持し、全ての省級地域で少なくとも5日連続で1位を記録しました。これまでに3,000万人以上が劇場で鑑賞したとされ、その動員力の強さが際立ちます。
- 公開8日で興行収入10億元を突破
- ポスト春節(春節後)公開作品で初の快挙
- 中国本土の全ての省級地域で5日連続デイリー1位
- 観客動員は3,000万人超
写真館に逃げ込む市民たち──フィルムが語る「証拠」
「Dead To Rights」は、日本軍による占領下の南京を舞台に、命からがら写真館に逃げ込んだ中国の市民たちの物語を描きます。彼らは生き延びるため、日本軍の軍属カメラマンの手伝いをしながらフィルムを現像することを強いられます。
現像されたネガには、市内各地で日本軍が犯した残虐行為の証拠写真が写し出されていました。市民たちは、この「証拠」を守り、外の世界に持ち出そうと決意します。膨大なリスクを承知でネガを密かに隠し、命がけで持ち出そうとする姿が、静かな緊張感とともに描かれます。
「写真は家族の記憶」監督が語る作品の使命
シェン・アオ監督はインタビューで、「当時の写真は、多くの場合、人生で最も大切な瞬間を残すものであり、1枚の写真に家族の記憶が詰まっていた」と語っています。しかし南京大虐殺の時代には、日本軍が写真をプロパガンダ(宣伝)の道具としても利用していたと指摘します。
監督は「映画に登場する写真館には、消し去ろうとされた犯罪の痕跡が残っている。明るみに出すべき真実だ」と強調します。また、日本軍の加害行為を記録した写真が、どのような経緯で戦火を生き延びたのかを知る人は多くないとし、市民が命を懸けて証拠を守り抜いた過程を描くことが、この作品の使命だと位置づけています。
抑制された演出で伝える虐殺の恐怖
中国の大手レビューサイト豆瓣(Douban)で、「Dead To Rights」は10点満点中8.6という高評価を得ています。ある人気レビューは、「物語の語り口はとてもシンプルで抑制的だが、だからこそ一つ一つの場面が鋭く胸に刺さる」と書き込んでいます。
レビューでは、赤ん坊に向けられた刃物や転がる首、血で赤く染まった川など、いくつかの象徴的なイメージに触れつつ、「これ以上のショック描写を積み重ねることなく、必要最低限のカットだけで虐殺の恐怖を伝えている」と評価。作品は過度な残酷描写に頼るのではなく、静かだが消えない恐怖を観客に想像させるスタイルを貫いているといいます。
「本当のエンドロールは劇場の外に」観客の声
興行プラットフォーム猫眼のユーザーのレビューには、鑑賞後の印象的なエピソードも紹介されています。ある観客は、上映後に少女が母親に「エンドロールの後に何か映像はあるの?」と尋ねた場面を振り返ります。
母親は「本当の『エンドロール後』は、私たちが映画館を出てから始まるのよ」と優しく答えたといいます。レビューは、「にぎやかな街、行き交う人々、漂う食べ物の匂い──それこそが本当の奇跡なのだ」と続きます。
このエピソードは、映画が投げかけるメッセージをよく表しています。すなわち、過去の犠牲の上に成り立つ現代の平和とにぎわいを当たり前のものとせず、噛みしめるべきだという呼びかけです。
中国映画にとっての「新たな高み」
中国の著名な映画監督であるFeng Xiaoning氏は、「Dead To Rights」を「中国映画にとっての新たな高みだ」と称賛しました。広く出回った動画の中で、Feng氏は「映画が終わっても、観客は誰一人席を立たなかった。字幕がすべて流れ終わるまで、全員が深く考え込んでいた」と語っています。
さらにFeng氏は、「この作品は、中国の人々だけでなく、世界中の良心ある人々の心を揺さぶるだろう」と述べ、歴史を見つめ直す力を持つ作品として位置づけました。歴史の暗い部分を正面から描きながらも、現在の平和の価値を静かに問いかける点が、高い評価につながっているといえそうです。
40億元超え予測──数字が示すもの
興行分析による最新の予測(2025年夏時点)では、「Dead To Rights」の最終興行収入は40億元を超える見込みとされています。実現すれば、同年の中国本土で公開された作品の中で、アニメ大作「Ne Zha 2」に次ぐ興行収入第2位となる可能性があります。
歴史を正面から扱う作品が、商業的にもここまで大きな支持を集めている事実は、中国本土の観客が「過去を学びながら、今の暮らしの意味を考えたい」という思いを抱いていることの表れとも読めます。
隣国で生まれたこうした作品の動きを、日本に住む私たちがどう受け止めるかも問われています。南京大虐殺の記憶をめぐる中国本土の最新の表現が、歴史と向き合うための一つの鏡として機能するかもしれません。
Reference(s):
Nanjing Massacre film takes China's box office by storm, tops 1b yuan
cgtn.com








