タジキスタンの若者が綴る中国日記 森とゾウが教える共生の感覚
国際ニュースでは衝突や対立が語られがちですが、今年、中国各地を旅したタジキスタン出身の若者サンドラ・チュラバエワさんの日記は、人と自然が静かに寄り添う物語を伝えています。成都の森と雲南省・西双版納で出会ったゾウとの時間を通じて、私たちは何を感じ取ることができるのでしょうか。
国連80周年のグローバル若者企画から生まれた声
サンドラさんは、国連創設80周年の節目となる2025年に合わせて立ち上げられたグローバル若者イニシアチブ「One Home: A Shared Future」に参加しました。この企画を通じて、彼女は中国での体験を世界に向けて発信しています。中国の友人たちは、彼女に中国語の名前「美麗」を贈りました。「美しい」という意味を持つこの名前には、新しい土地でのつながりと歓迎の気持ちが込められています。
今年、サンドラさんは中国のさまざまな場所を旅しました。一つひとつの土地がそれ自体で一つの宇宙のように感じられ、心に痕跡を残したといいます。その中でも特に強く記憶に刻まれたのが、成都と、雲南省南部の西双版納です。
成都の森で味わった時間のスケールの違い
夏に訪れた成都で、サンドラさんは雷鳴のように力強い森に足を踏み入れました。彼女が見つめたのは、人間の時間とはまったく異なるスケールで生きている自然の姿です。
森は、まるで時間そのもののように古く、そこに立つ自分は一瞬の存在にすぎない。しかしその一瞬の中で、彼女は森の息づかいの中に溶け込んでいく感覚を覚えます。空へ伸ばした両手は、祈りなのか、感謝なのか、自分でも言葉にならない思いの表現でした。
彼女はそこで、こう気づきます。森は人間がいなくても存在し続ける。しかし人間は、森なしには生きていけない。このイメージは、自分一人の話ではなく、私たち全員の姿だと感じたといいます。小さく、忘れっぽい存在でありながらも、なお思い出す力を持つ私たち人間。その視点は、環境問題をめぐる議論とはまた違うレベルで、私たちの心に問いを投げかけます。
人間中心から共に息をする視点へ
成都の森での体験は、私たちが当たり前のように持っている人間中心の見方を、そっと揺さぶります。自然を守るべき対象としてだけではなく、ともに呼吸し、記憶を共有する存在として捉え直すきっかけになるからです。
サンドラさんが書く「私はこの森の一部だと感じた」という感覚は、多くの人がどこかで経験したことのある、説明しづらい瞬間に通じています。たとえば、高い山の上から景色を見下ろしたときや、静かな海辺で波の音を聞き続けたときに訪れる、あの特有の静けさに似ています。
西双版納で出会った夏の象徴・ゾウ
旅の後半、サンドラさんは中国南西部の雲南省南部にある西双版納を訪れました。ジャングルの端に広がるこの地で、彼女はこの夏の象徴となる存在、ゾウと出会います。
文章の中で、ゾウは詳細に語られてはいません。それでも、夏のシンボルと表現されるその存在からは、いくつかのことが浮かび上がってきます。巨大でありながら、どこか穏やかさをまとった動物。人間の活動の影響を受けながらも、なお自分のリズムで生きようとする生命。その姿は、成都の森と同じく、人間が自然に深く依存しているという事実を静かに映し出しているように読めます。
森とゾウ。どちらも、サンドラさんにとっては人間を必要としない存在です。しかし、彼女はそこに、人間が頼り、学び続けるべき何かを見ています。だからこそ、この出会いは日記という形で記録され、忘れないための物語として残されているのでしょう。
国際ニュースでは見えにくい日常からの中国
日本から見る中国の国際ニュースは、政治や経済、安全保障など大きなテーマに偏りがちです。一方で、サンドラさんのような若者のまなざしは、別の中国の姿を見せてくれます。それは、森の静けさに耳を澄ませ、自分の小ささを認めながらも、そこに安心を見いだす人間の姿です。
タジキスタン出身の若者が、2025年の中国で感じた「私たちはあらゆる生きものと一緒に息をしている」という実感は、国や地域を越えて共有できる感覚でもあります。気候変動や環境破壊といった問題が重くのしかかる今だからこそ、このような個人的な旅の記録が、私たちに新しい視点を与えてくれます。
私たちの森とゾウはどこにあるのか
今回紹介した日記は、中国の特定の場所の話でありながら、同時に誰にとっても身近な問いを投げかけています。私たちの日常の中で、自分はこの世界の一部だと静かに実感できる瞬間はどこにあるのか。忙しさの中で忘れてしまった感覚を、もう一度思い出すきっかけはどこに潜んでいるのか。
通勤途中に見上げる空かもしれませんし、休日に立ち寄る近所の公園かもしれません。あるいは、旅先で偶然出会った風景や、動物との一瞬のまなざしの交わりかもしれません。
サンドラさんの中国での日記は、そんなささやかな瞬間に光を当て、私たちはあらゆる生きものと共に息をしているという感覚を思い起こさせてくれます。あなたにとっての森やゾウは、どこにいるでしょうか。その問いを胸に、今日の風景を少しだけ違う目で見つめてみるのもよいかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








