AIは人間の物語を奪えない?漫画家Zhu Deyongの警鐘 video poster
人工知能(AI)は、人間の物語をどこまで代わりに語れるのか――中国語圏で大きな影響力を持つ漫画家Zhu Deyongが、番組「Beyond ACG」の中で、この根源的な問いに自らの答えを示しました。Zhuは、AIは人間の「魂」を持たない以上、本当の意味で創作労働を置き換えることはできず、もしそうなってしまうなら、それは人類の文化と文明の崩壊を意味すると警告します。
AIはなぜ「物語」を奪えないのか
今回取り上げられたのは、「もしAIが人間の創造性を完全に引き継いだらどうなるのか」という問いです。Zhuによれば、創作には技術だけでなく、その背後にある人間の魂、人生経験、感情が不可欠です。AIがいくら大量のデータを学習し、それらしく作品を「生成」できたとしても、その根っこにある痛みや喜び、迷いといった人間の体験そのものは欠けているといいます。
Zhuは、AIが創作を完全に代替する未来を「人類文化の崩壊」とまで表現します。それは単に仕事が奪われるという話ではなく、物語を通じて人間が自分たちの存在を確かめてきた営みが失われることへの危機感だといえるでしょう。
ゴッホの耳とモネの白内障が示すもの
議論の中でZhuは、フィンセント・ファン・ゴッホの耳のエピソードや、クロード・モネの白内障の話を例に挙げました。これらは、単なる“奇妙な出来事”ではなく、作品の背後にある人間の感情や感覚そのものを象徴する出来事です。
ゴッホの耳には、孤独や絶望、認められない苦しみといった感情が重なっています。モネの白内障は、世界がぼやけて見えるという視覚の変化を通して、色彩や光の捉え方に影響を与えたとされます。Zhuは、こうした「身体と心の状態」が絵画に深く刻み込まれているからこそ、人々の心を揺さぶる作品が生まれるのだと語ります。
一方で、AIには耳を失った経験も、視界が濁っていく感覚もありません。データとして「それらしい表現」を模倣することはできても、その内側から立ち上がってくる切実さまでは再現できない――ここに、Zhuが見るAIと人間の決定的な違いがあります。
中国語圏を代表する漫画家Zhu Deyong
Zhu Deyongは、中国語を話す世界で最も影響力のある漫画家のひとりとされています。彼の作品は、現代社会の姿をユーモラスかつ鋭い観察眼で描き出してきました。
代表作には、ユーモアと現代生活への深い洞察で多くの読者の共感を集めてきた『Uptown Singles』や『Battle Domestica』があります。日常の人間関係や都市生活の空気感を軽やかな笑いに変えつつ、その背後にある不安や孤独、価値観の変化を丁寧にすくい取ってきたといえるでしょう。
だからこそZhuは、「物語をつくる」という行為を、単なる職業やエンターテインメントではなく、人間の存在そのものに関わる営みとして語ります。人間の弱さや矛盾を長年描いてきた創作者だからこそ、AIによる代替に対して敏感にならざるを得ないのかもしれません。
この議論が投げかける3つの問い
今回の発言は、AIと創作をめぐる議論に、次のような問いを投げかけています。
- 創作とは、テクニックや効率ではなく、痛みや喜びといった人間の経験そのものなのではないか。
- AIは便利な道具になり得ても、物語の出発点となる経験や感情を自ら持つことはできるのか。
- 私たちは、どのような作品や表現に「人間らしさ」を感じ、これからの文化を形づくっていくのか。
これらは、クリエイターだけでなく、作品を受け取る側である私たち一人ひとりにも向けられた問いです。どのような物語を選び、共有し、語り継いでいくのか。その選択が、これからの文化や文明のかたちを静かに方向づけていきます。
2025年のいま、人間の物語をどう守るか
2025年のいま、AIを使って文章や画像、映像などをつくる試みは身近な話題になりつつあります。その中でZhu Deyongのメッセージは、AIを恐れるか歓迎するかという単純な二分法ではなく、「人間の魂をどう表現し続けるか」という視点を差し出しています。
AIがつくったコンテンツと、人間の経験から生まれた物語。その境界をどこに引くのか、あるいは引かないのか。Zhuの議論は、創作に関わる人だけでなく、ニュース、エンタメ、SNSを通じて日々コンテンツに触れているすべての人に、「自分はどんな物語を信じたいのか」を静かに問いかけています。
AIがどれほど進化しても、人間の耳の痛みや視界のかすみといった具体的な感覚、その中で揺れる心を実際に体験するのは、やはり人間だけです。Zhuが提示するのは、AIの是非をめぐる答えではなく、「人間であること」の意味をあらためて考えようという呼びかけなのかもしれません。
Reference(s):
cgtn.com








