重度熱傷の出血を60秒で止める?中国研究チームが細菌セルロース包帯を開発
重度熱傷の出血を60秒で止める新素材が登場
重度の熱傷を手術で治療する際、手術中の激しい出血は、患者の安全と術式の難しさを大きく左右します。この国際ニュースは、中国の研究者チームがその課題に挑み、新しい創傷被覆材を開発したという報告です。
細菌セルロースをベースにした創傷被覆材
今回の研究を行ったのは、Chinese Academy of Sciences の Shenzhen Institutes of Advanced Technology(SIAT)と Ruijin Hospital の研究者たちです。彼らは、細菌セルロース(bacterial cellulose, BC)と呼ばれる素材に着目しました。BC は通気性が高く、人体になじみやすい性質を持つことから、創傷被覆材として有望視されてきました。
研究チームは、この BC を土台にして、熱傷創からの出血を素早く抑えつつ、皮膚の回復も後押しする次世代型ドレッシング(創傷被覆材)を目指しました。
トロンビンと「生物学的接着タグ」で止血力を強化
鍵となったのは、人体に備わる血液凝固酵素トロンビンです。トロンビンは、血液を固めて止血を進める働きを持つたんぱく質ですが、そのまま傷口に投与すると、体液によってすぐに流れ去ってしまうという弱点があります。
そこで研究者たちは、トロンビンにセルロース結合ドメイン(cellulose-binding domain)という「生物学的な接着タグ」を組み合わせました。このタグによって、トロンビンが BC の表面にしっかりと固定されるよう工夫したのです。
BC をこの特別な溶液に浸すだけで、トロンビンが表面に結合した Thrombin-Anchored BC(T-BC)ができあがります。いわば、止血機能を持つ生体活性ドレッシングです。
60秒以内で出血を抑え、皮膚の自己修復も促す
今年7月22日付で科学誌 Advanced Materials に掲載された論文によると、この T-BC は重度熱傷のモデルにおいて、60秒以内に出血を抑える高い止血性能を示しました。また、人の皮膚組織との相性も良く、生体適合性の面でも問題は見られなかったと報告されています。
さらに、このドレッシングは単に血を止めるだけではなく、体内の自己修復経路を活性化するシグナルを出し、創傷の治癒プロセスそのものを後押しする可能性が示されています。研究者らは、この工学的に設計されたバイオマテリアルが、研究室レベルから臨床現場へと急速に近づきつつあり、熱傷治療のあり方を変えうると見ています。
なぜ細菌セルロースとトロンビンの組み合わせが重要か
従来、止血を重視した素材は、出血を抑える一方で硬くなりすぎたり、長期的な皮膚再生を妨げたりする懸念がありました。一方で、やわらかく通気性の高い素材は、止血力に課題がある場合もありました。
BC のような柔軟で通気性のある素材に、体が元々持っている酵素トロンビンをうまく固定することで、
- 手術中など出血が激しい場面で、短時間で血を止める
- 皮膚に優しい素材で、治癒のための環境を保つ
- 体の自己修復メカニズムも刺激する
といった複数の機能を一つのドレッシングで両立できる点が、この研究の大きな意義だといえます。
今後の課題と展望―「研究室から病院へ」の道のり
この T-BC は、重度熱傷の治療に新たな選択肢をもたらす可能性を示していますが、実際の医療現場で広く使われるようになるには、まだいくつかのステップが必要です。
- さまざまなタイプの熱傷や患者条件での有効性の評価
- 長期的な安全性や副作用の確認
- 大量生産やコスト、使いやすさなど実用面での検討
こうしたプロセスを経てはじめて、研究室発の素材が、日常の医療現場で使われる標準治療の一つになっていきます。
読み手への問いかけ―医療イノベーションをどう受け止めるか
高度なバイオマテリアル研究が進むなかで、私たちは、救える命が増える一方で、新しい医療技術がどのように社会に受け入れられていくのかという視点も持つ必要があります。
重度熱傷患者の負担を減らし、医療現場の難題を解決しようとする今回の取り組みは、医療テクノロジーが人の生活にどう寄り添うべきかを考えるきっかけにもなります。国際ニュースを日本語で追いながら、こうした技術の進展を、自分自身や身近な人の未来と結びつけて考えてみることが求められています。
Reference(s):
Researchers develop bacterial cellulose-based dressing for burn wounds
cgtn.com








