中国の未来科学大賞2025 恐竜からAIメモリまで最前線を表彰
中国の民間科学賞「未来科学大賞(Future Science Prize)」が水曜日、2025年の受賞者を発表しました。生命科学、物理科学、数学・計算機科学の3分野で合計8人の科学者が選ばれ、恐竜から鳥への進化の解明から、トポロジカル電子材料、次世代メモリ技術まで、未来社会を形づくる研究が幅広く評価されています。
この未来科学大賞は、中国やアジアの科学ニュースとしてだけでなく、世界の研究動向を知る上でも注目される賞です。本記事では、その2025年の受賞内容を、日本語で読みやすく整理して紹介します。
未来科学大賞とは何か
未来科学大賞は、2016年に科学者と起業家によって立ち上げられた民間の科学賞です。科学の発展に顕著な成果を挙げた研究者を顕彰することを目的としており、現在は主に次の3分野で授与されています。
- 生命科学賞
- 物理科学賞
- 数学・計算機科学賞
今回の発表では、生命科学賞と物理科学賞でそれぞれ3人、数学・計算機科学賞で1人が選ばれ、これまでにこの賞を受けた科学者は合計で46人に達しました。
生命科学賞:鳥は恐竜の子孫か──論争を決着に導いた化石研究
生命科学賞には、古生物学者のJi Qiang氏、Xu Xing氏、Zhou Zhonghe氏の3人が選ばれました。受賞理由は、鳥の起源をめぐる研究で、鳥が恐竜から進化したという説を裏付ける化石証拠を示し、脊椎動物の進化観を大きく塗り替えたことです。
鳥が獣脚類と呼ばれる二足歩行の肉食恐竜から進化したという考えは、1868年に初めて提案されました。しかし、この説は長いあいだ議論の的であり、決定的な証拠に乏しいとされてきました。
転機となったのは1990年代です。Ji氏と、故・Piji Chen氏は、中国東北部で世界初となる羽毛恐竜の化石をそれぞれ独立に発見しました。この発見によって、「羽を持つ恐竜」の存在が明らかになり、恐竜と鳥の間に連続した進化のステップがあることが示されました。
その後、Xu氏とZhou氏は、この成果を土台に、恐竜から鳥への移行を示す一連の中間的な種を詳細に研究しました。骨格や機能の違いを精密に比較することで、恐竜と鳥の形態的・機能的なつながりを示し、長年の論争を「広く受け入れられた科学理論」へと変える決定的な役割を果たしました。
- 恐竜と鳥の間の「ミッシングリンク」を化石で埋めた
- 鳥の起源だけでなく、脊椎動物全体の進化像を再構成するきっかけになった
恐竜から鳥へのダイナミックな進化の物語は、いまや教科書レベルの知識になりつつありますが、その背後には、中国の大地から見つかった一つひとつの化石と、それを読み解いてきた研究者たちの地道な努力があります。
物理科学賞:トポロジカル電子材料が変えるエレクトロニクス
物理科学賞には、Fang Zhong氏、Dai Xi氏、Ding Hong氏の3人が選ばれました。評価されたのは、トポロジカル電子材料と呼ばれる新しいタイプの物質を、理論と実験の両面から切り開いたことです。
トポロジカル電子材料は、近年の物性物理学で最も注目されている分野の一つです。電子のエネルギー状態(電子バンド構造)が特殊な「トポロジー(形)」を持つことで、内部は電気をほとんど通さないのに、表面だけが非常に安定して電気を流すなど、従来の物質にはない性質を示します。
こうした性質は、次のような先端分野での応用が期待されています。
- スピントロニクス(電子の電荷だけでなくスピンも利用する電子工学)
- 量子コンピューティング
- 省エネルギー型の電子デバイスやエネルギー技術
Fang氏とDai氏は、さまざまなトポロジカル電子材料を理論的に予測するための計算手法を次々と生み出し、多数の候補物質を提案してきました。一方でDing氏は、その理論が予測した半金属中に存在するウェイル・フェルミオンを実験で確認するなど、理論を現実の物質として立証する役割を担いました。
この理論と実験の連携によって、トポロジカル電子材料の研究は急速に進展し、彼らの手法は世界中の研究者に広く採用されるようになっています。
Dai氏は、トポロジカル材料の可能性について、次のように述べています。これらの材料は、多様な電子デバイスの設計に応用でき、電力消費を大きく減らすと同時に、これまでにない独自の機能を実現できるといいます。
またDai氏は、現在のトポロジカル材料研究には、性能の良い材料を探すだけでなく、特に重要な二つの新しい方向性があると指摘します。
- 新しいトポロジカル電子状態を、人為的な設計によって生み出すこと
- 電子の振る舞いを「ソロ」から「デュエット」、さらには「合奏」へと広げること
ここでいう「ソロ」とは一つの電子状態が主役となる振る舞い、「デュエット」や「合奏」とは、複数の電子状態が連携して現れる複雑な量子状態を指します。トポロジカル超伝導状態は、その代表的な「デュエット」といえます。ただし、こうした新しい状態を実験的に確認するには、今後さらに多くの努力が必要だとしています。
数学・計算機科学賞:次世代メモリがAIとクラウドを支える
数学・計算機科学賞は、Lu Chih-yuan氏に授与されました。評価されたのは、次世代の不揮発性メモリ(電源を切っても情報が消えない記憶装置)の開発における、革新的な研究とリーダーシップです。
Lu氏とそのチームのブレークスルーは、高性能な新しいメモリ製品の開発につながり、将来のメモリ技術の基盤を築いたとされています。この技術は、次のような分野を支える重要なインフラとなります。
- AI(人工知能)
- モバイル端末などのモバイル機器
- クラウドコンピューティング
- エッジコンピューティング(データが生まれる現場近くで処理を行う仕組み)
AIやクラウドサービスが高度化するほど、大量のデータを高速かつ省エネで記録・読み出しできるメモリが重要になります。Lu氏の研究は、こうしたニーズに応える次世代メモリの方向性を示しつつ、すでに実用的な製品にも結びついている点が特徴です。
恐竜から量子材料、AIメモリまで──一つにつながる科学のストーリー
今回の未来科学大賞2025の受賞内容を並べてみると、テーマは一見ばらばらに見えます。しかし、そこには共通したストーリーも見えてきます。
- 遠い過去の生物進化を解き明かす生命科学(恐竜と鳥の研究)
- 物質の新しい性質を切り開く物理学(トポロジカル電子材料)
- それを社会の基盤技術に結びつける情報・デバイス技術(次世代メモリ)
恐竜と鳥の進化の物語は、私たちの「生命観」を深め、トポロジカル電子材料は、量子コンピューティングや省エネデバイスといった未来のテクノロジーの可能性を広げます。さらに、次世代メモリ技術は、AIやクラウド、エッジコンピューティングなど、日常生活や産業の基盤を支える存在になっていきます。
中国発のこうした研究成果は、国境を越えて世界中の研究者に共有され、国際的な科学の発展に寄与しています。読者の皆さんにとっても、「恐竜」「量子材料」「メモリ」という一見離れたキーワードが、一つの長い科学の物語の中でつながっていることを意識するきっかけになるかもしれません。
ニュースとして追いかけるだけでなく、自分の興味に合わせて、どの分野のどの問いが気になるかを考えてみると、国際ニュースや科学ニュースとの距離がぐっと近づいていきます。
Reference(s):
China recognizes trailblazing science – from future tech to dinosaurs
cgtn.com







