種子散布の常識が変わる?植物科学を塗り替えるタネ泥棒ハエ
鳥や哺乳類だけが種子を運ぶと思われてきた常識に、ハエが待ったをかける研究結果が報告されています。植物科学の教科書を書き換えかねない発見です。
この国際ニュースの主役は、昆虫の中でも地味な存在と見られがちなハエの一種です。中国科学院の昆明植物研究所(Kunming Institute of Botany, KIB)の研究チームが、その驚くべき役割を明らかにしました。
種子散布といえば鳥と哺乳類だった
これまで種子散布と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、果実を食べて種子を運ぶ鳥や哺乳類でした。長い間、科学者も主な種子散布者は脊椎動物だと考えてきました。
一方で、アリを除く無脊椎動物は、ほとんどが傍観者だと見なされてきました。種子を動かす役割はあまり重要ではないとされてきたのです。
見過ごされてきた無脊椎動物の役割
ハチやカブトムシ、ウェタと呼ばれる大型のバッタの仲間、ナメクジなどが種子を運んでいる場面は、これまでもときどき観察されてきました。しかし多くの場合、そうした例は自然界の少し変わった出来事として片付けられ、全体の仕組みを変えるものとは考えられてきませんでした。
今回の研究は、その前提に疑問を投げかけています。無脊椎動物が植物の生き残り戦略に果たす役割が、これまで思われていたよりもずっと大きいかもしれないという視点を提示しているのです。
ハエは種を運ばないはずだった
昆虫の中でもハエ目と呼ばれるグループ(英語名はDiptera)は、世界で15万種以上が知られる最大級の仲間です。私たちの身の回りでも、さまざまなハエが日常的に飛び回っています。
それにもかかわらず、ハエが種子散布者として働いているという確かな例は、これまで報告されていませんでした。ハエは植物の種とは無縁の存在だ、と見なされてきたのです。
昆明植物研究所チームが見つけたタネ泥棒
その常識を覆したのが、中国科学院の昆明植物研究所(Kunming Institute of Botany, KIB)の研究者たちです。彼らは、ハエ目の一種であるBengalia varicolorが、独特のやり方で有効な種子散布者になり得ることを確認しました。
このハエはクリプトパラサイト、つまり盗み寄生者として知られています。アリが運んできた餌や、ときには子どもを横取りして自分の栄養源にする、いわば自然界の名うての泥棒です。
興味深いのは、その徹底した盗みのスタイルです。研究によると、このハエに大好物を単独で与えても、目の前に餌があるにもかかわらず一口も食べず、最終的には餓死してしまうことさえあります。ところが、その好物をくわえたアリが現れた瞬間、状況は一変します。ハエは素早く動き出し、アリから餌を奪い取ろうとします。
この盗みの行動のなかで、アリが運んでいた植物の種子が別の場所に移されることで、結果として種子散布が起きていると考えられます。ハエはアリと植物のあいだに割り込むタネ泥棒でありながら、同時に植物にとっては新しい種子の運び手にもなっているのです。
植物科学の常識はどう変わるのか
この発見は、2025年現在の植物科学にとっても大きな意味を持ちます。種子散布のネットワークは、鳥や哺乳類といった目立つ生き物だけでなく、ハエを含む多様な無脊椎動物によっても支えられている可能性が浮かび上がってきたからです。
これまで見過ごされてきた小さな生き物たちの動きが、森林の再生や植物多様性の維持にどこまで影響しているのか。今回の研究は、そんな問いを静かに突きつけています。
今回の研究が示すポイント
- アリ以外の無脊椎動物も、重要な種子散布者になり得ることが示された
- ハエ目には、これまで知られていなかった種子散布の役割を持つ種が存在することが確認された
- 盗み寄生という一見特殊な行動が、植物の生存戦略とも結びついている可能性がある
私たちの自然観もアップデートされる
普段は鬱陶しい存在に見えるハエも、視点を変えれば生態系の重要な担い手です。身近な自然を観察するとき、目立つ動物だけでなく、小さな昆虫や無脊椎動物がどのように植物と関わっているのかに目を向けてみると、新しい発見があるかもしれません。
Reference(s):
The great seed thief: A fly's role in rewriting plant science
cgtn.com








