ベネチアの中国人アーティスト、廃棄高級布で「気候行動の地図」を描く
ベネチア在住の中国人アーティストが、捨てられる高級テーラリング生地を縫い合わせて都市の「地図」をつくり、その環境負荷をデータで見える化しています。アートと気候行動、そしてデジタル技術をつなぐこのプロジェクトは、いまの国際ニュースのなかでも注目したい動きです。
ベネチア発、「布で描く気候行動の地図」
イタリア北部の水の都ベネチアを拠点に活動する中国のビジュアルアーティスト、Zhang Yuan(チャン・ユアン)さんは、「City Cutting(シティ・カッティング)」と名付けたシリーズ作品に取り組んでいます。このプロジェクトは、都市の風景や構造を、布を使って切り取り、再配置することで、まったく新しい「都市地図」として表現しようとするものです。
「City Cutting」とは何か
「City Cutting」は、テキスタイル(布)をベースにした連作です。作品に使われているのは、新品同様でありながら、仕立て工場で余りとして出てしまった高級テーラリング生地の端切れです。Loro PianaやDormeuilといった高級生地メーカーから出た生地の残りを集め、細かなパーツにカットし、びっしりと縫い合わせていきます。
こうして生まれる表面は、上空から見下ろした都市の地図や、衛星写真のようにも見えます。道路や河川、区画を思わせる線やブロックが、色や質感の違いとして立ち上がり、私たちが暮らす都市の姿を別の角度から見つめ直すきっかけを与えてくれます。
捨てられるはずの高級生地が、環境メッセージに変わる
このプロジェクトの出発点にあるのは、「本来なら捨てられてしまう素材をどう生かせるか」という問いです。高級スーツ用の生地は、質が高い一方で、仕立ての過程で細かな余りが大量に出ます。その多くは行き場を失い、廃棄されてしまいます。
Zhangさんは、その行き場のない生地を、都市の「切れ端」とも言えるパターンとして再構成します。高級な素材と、廃棄物という現実。そのギャップを可視化することで、私たちの消費行動やファッション産業のあり方、そして気候変動とのつながりを静かに問いかけています。
科学的に測定されたカーボンフットプリント
この作品シリーズの特徴は、感覚的なメッセージだけでなく、「どれだけ環境負荷を減らせたのか」を数字で示している点です。Alibaba Cloudの「Energy Expert」の支援を受けて、作品のカーボンフットプリント(温室効果ガス排出量)が科学的に評価されています。
評価によると、「City Cutting」のカーボンフットプリントは、作品1キログラムあたり1.53キログラムの二酸化炭素換算(CO₂e)とされています。また、作品のライフサイクル全体で見ると、1キログラムあたり5.39キログラムのCO₂eを削減できると算定されています。
カーボンフットプリントとは、原材料の調達から加工、輸送、使用、廃棄に至るまで、ある製品やサービスに関わる温室効果ガスの総量を、二酸化炭素に換算して示した指標です。アート作品に対してここまで具体的な数値が出される例はまだ多くなく、創作と環境データのあいだをつなぐ試みとしても注目できます。
アート×データがひらく、これからの気候行動
気候変動のニュースは、どうしても数字や専門用語が多くなりがちです。一方で、アートは感情や直感に訴えかける力を持っています。「City Cutting」は、この二つを組み合わせることで、気候行動をより身近なものとして感じさせてくれるプロジェクトと言えるでしょう。
捨てられるはずだった高級生地が、都市の地図となり、そこに作品ごとのカーボンフットプリントという具体的な数字が重なる。そこから浮かび上がるのは、「私たちの都市の姿は、どのような資源の使い方の上に成り立っているのか」という問いです。
私たちが考えてみたい3つのポイント
この国際ニュースをきっかけに、読者のみなさんが考えてみられる問いを、あえて三つに絞ってみます。
- 自分が住む都市を布の「地図」にするとしたら、どんな色や素材になるだろうか。
- 服や布製品を買うとき、「どこから来て、どこへ行くのか」という視点を持てているか。
- 気候変動の問題を、データだけでなく、アートや物語として伝える方法には何がありうるか。
ベネチアのアトリエで生まれた「City Cutting」は、遠く離れた私たちの生活とも静かにつながっています。布に縫い込まれた都市の地図と、その裏側にある数字を手がかりに、日々の選択と気候行動の関係をあらためて見つめ直してみてはいかがでしょうか。
Reference(s):
UN80: Chinese artist in Venice maps climate action with fabrics
cgtn.com








