米国関税ショックで中国・アフリカ貿易が接近 揺れるレソトと南ア産業
8月7日に発動された米国の新たな対アフリカ関税が、レソトの繊維産業や南アフリカの自動車産業を直撃しています。一方で、中国がアフリカ向け輸入品にゼロ関税を広げる動きを強めており、グローバルな貿易地図の描き変わりが現実味を帯びてきました。
米国の新関税、アフリカ輸出を直撃
今回の関税は、ドナルド・トランプ米大統領による一連の関税強化策の一環として8月7日に発動されました。対象は繊維から自動車まで多岐にわたり、南アフリカ、レソト、リビア、チュニジアなど4カ国が特に大きな打撃を受けるとみられています。
もともとアフリカの一部の国々は、米国のアフリカ成長機会法(AGOA)によって関税優遇を受け、対米輸出を伸ばしてきました。その前提が揺らいでいることが、企業だけでなく雇用や地域経済にも不安を広げています。
レソト繊維産業に走った「第2のコロナショック」
レソトでは、繊維産業が公務員に次ぐ第二の雇用の受け皿です。米国市場向けの縫製工場が集積し、これまで経済を支えてきました。
しかし、4月に発表された対米輸出品への50%関税案は、後に15%へと引き下げられたものの、現場への衝撃は小さくありませんでした。レソトの繊維企業アフリ・エキスポ・テキスタイルズのテボホ・コベリ氏は、今回の関税を「まるで第2の新型コロナがやってきたような衝撃」と語り、政府や労組とともに新たな輸出市場探しを進めてきたと振り返ります。
繊維産業の落ち込みは、そのままレソトの家計と地域社会に跳ね返ります。米国市場への依存度をどこまで下げられるかが、今後数年の最大の課題になりそうです。
南アフリカの自動車産業も揺れるが「致命傷ではない」
南アフリカでは、自動車産業が米国向け輸出の柱の一つです。新関税によって一部の輸出が採算割れに追い込まれる懸念がある一方で、アフリカ・アジア対話のシンクタンクで上級研究員を務めるテンビサ・ファクデ氏は、「影響は出るが、産業全体が致命傷を負うわけではない」と見ています。
その背景には、「代替市場」の存在があります。ファクデ氏は、アフリカ諸国のうち1カ国を除き関税を撤廃した中国市場を挙げ、「中国こそが、米国の『気まぐれな政治』に翻弄される国々にとって、現実的な行き先になりつつある」と指摘します。
中国のゼロ関税政策がもたらす選択肢
中国はすでにアフリカ最大の貿易相手であり、さらに外交関係を持つアフリカ諸国からの輸入品について、関税を全面的に撤廃すると表明しています。これは、対米関係の悪化に直面するアフリカにとって、重要な安全弁になりつつあります。
シンクタンク「センター・フォー・チャイナ・アンド・グローバリゼーション」の副理事長ビクター・ガオ氏は、米国の関税強化を「自由貿易に対する不当な戦争」と批判し、「関税のコストは最終的に米国の消費者が支払うことになる」と指摘します。
そのうえでガオ氏は、中国によるゼロ関税措置は「最大限の圧力にさらされているアフリカ諸国にとっての祝福だ」と強調し、中国国際輸入博覧会などの場を通じて、アフリカ産品が中国の巨大な国内市場にアクセスできると語ります。
市場転換の現場:地域小売と輸出支援をテコに
すでにいくつかの企業は、市場の転換に動き始めています。レソトのコベリ氏の会社は、南アフリカの大手小売チェーンであるピック・アンド・ペイやウールワースと取引を強化し、「まずは近い市場と強い関係を築く」戦略に舵を切りました。
南アフリカ政府も、輸出支援デスクの設置などを通じて企業の市場多角化を後押ししています。ファクデ氏は、「各国がこの『気まぐれな政治』の影響から抜け出そうとしており、その受け皿になるのが中国だ」と述べ、政治的意思と制度的な支援があれば、貿易の流れは比較的短期間で切り替えられると見ています。
中国・アフリカ協力の新たなフロンティア
今、中国とアフリカの間では、従来の資源やインフラに加え、グリーン開発、デジタル貿易、産業イノベーションといった新分野の協力が注目されています。中国の国内市場が拡大を続けるなかで、アフリカ企業がどのようにその需要を取り込むかが大きなテーマになっています。
ファクデ氏は、「南アフリカとアフリカ大陸全体、それに中国との間にはすでに太いビジネスと対話の回路がある。今後は、これまで米国向けに行ってきたことをどこまで中国向けに振り向けられるかが焦点だ」と話します。
日本の読者への問いかけ:何を読み解くか
今回の動きは、日本から見ると遠い出来事に思えるかもしれませんが、サプライチェーン(供給網)の再編という意味では他人事ではありません。アフリカ諸国がどの市場を選び、誰とルールを作るのかは、長期的には日本企業やアジアのビジネス環境にも影響し得ます。
このニュースから考えたいポイントを、あえて三つに絞ると次のようになります。
- 関税のコストを最終的に負担するのは誰か――消費者か、生産者か、それとも納税者か。
- アフリカは単なる「援助の対象」ではなく、世界市場を選び取りつつある主体としてどう見えるか。
- 日本企業は、米国と中国に加えてアフリカとの関係をどう戦略に組み込むべきか。
米国の関税強化と中国のゼロ関税政策という対照的な動きの中で、アフリカが自らの選択肢を広げようとしている現実を、私たちも冷静に見つめる必要がありそうです。
Reference(s):
China and Africa eye deeper trade ties as U.S. tariffs hit Africa
cgtn.com








