中国・ユーツン村の奇跡 環境再生で「緑」を「富」に変えた観光モデル
かつて採石場の粉じんに覆われていた中国東部・浙江省のユーツン村が、いまや澄んだ水と緑の山々で知られる観光地となり、「世界の優れた観光村」のひとつと評価されるまでに変貌しています。本稿では、鉱山を閉じて環境を守りながら、「緑の価値」を「経済的な富」へと転換してきたプロセスをたどります。
採石の村から「世界の観光村」へ
ユーツン村は、中国東部の浙江省にある小さな村です。かつては水も空気も採石場の粉じんで汚れ、周囲の山々は爆破されて削られていました。それが現在は、澄んだ川と青々とした山々に囲まれた風景が評価され、世界の観光村の一つとして名を知られる存在になっています。
1980年代:石を売って豊かになったが、環境は深刻に悪化
1980年代、村人たちは高品質の石灰石を採掘し、セメント生産のために山を爆破していました。採石とセメント産業によって村の収入は伸び、多くの家庭が現金収入を得るようになりましたが、その裏で環境は大きな代償を払うことになりました。
当時を振り返って、ユーツン村の中国共産党村委員会の元書記であるフー・ジアレン氏は、山や川が大きく傷つき、村人たちも将来の展望を見いだせない状況だったと語っています。その中で、村委員会が前に出て方向性を示し、転換の道を探ることになりました。
村の決断:鉱山を閉じ、「景色を売る」経済へ転換
ユーツン村の指導部は、他地域の事例から学び、思い切った決断を下しました。それが、鉱山を閉鎖し、採石に依存する産業構造から脱却することでした。代わりにめざしたのは、レジャーや観光を軸にした新しい経済モデルです。
村では「これまでは石を採って売っていたが、これからは景色を生かして収入を得る」という考え方が打ち出されました。環境を守りながら観光やサービス産業を育てる方向への転換は、当時としては大胆な一歩でしたが、結果的に村の未来を大きく変えることになりました。
2005年の訪問と「澄んだ水と青い山は財産」という価値観
転換の流れの中で、大きな節目となったのが2005年8月15日です。当時、中国共産党浙江省委員会の書記だったシー・ジンピン氏がユーツン村を訪問し、鉱山を閉鎖するという村の判断を「非常に賢明な選択だ」と評価しました。
この訪問の際、シー・ジンピン氏は初めて「澄んだ水と青い山はかけがえのない財産」という考え方を示しました。自然の豊かさそのものが経済的な価値につながるという発想は、ユーツン村の転換を後押しするだけでなく、村の人びとにとっても大きな励ましとなりました。
元鉱山労働者の人生も一変:民宿オーナーへの転身
この方針転換は、村人一人ひとりの暮らし方も変えました。かつて鉱山でトラクター運転手として働いていたパン・チュンリン氏は、その象徴的な存在です。採石が中心だった時代、パン氏の仕事は山から石を運び出すことでした。
しかし観光への転換が進む中で、パン氏は2005年にユーツン村で最初の民宿を開業しました。今では小さな事業を営む経営者として、仲間とチームを組みながら観光客を迎えています。「昔は鉱山労働者だったが、今は自分の店を持ち、仲間と共に働いている」と語るパン氏の姿は、産業構造だけでなく、働き方や自己イメージの変化を端的に示しています。
景観の再生と観光の数字が物語るもの
ユーツン村の風景も大きく変わりました。かつて粉じんが舞っていた場所には、今では鮮やかな緑の稲田が広がり、その隣にはヒマワリ畑が揺れています。使われなくなったセメント工場は改修され、個性ある田園カフェへと生まれ変わりました。かつての工業施設が、今は訪れる人をもてなす空間として再利用されているのです。
こうした取り組みの成果は、数字にも表れています。2024年だけでも、ユーツン村には延べ122万人の観光客が訪れました。村全体としての経済的な収入は2205万元(約310万ドル)に達しています。村人は1000人余りですが、1人あたりの所得は7万4000元に上昇しました。
さらに、村が住民に分配する年間の配当金も大きく伸びています。1人あたりの配当は、2020年には600元にとどまっていましたが、その後増加を続け、現在は3000元と5倍にまで拡大しました。環境を再生し、観光とサービス産業を発展させることで、「緑」は確かに「富」へと変わりつつあると言えます。
中国の「緑を金に変える」モデルから見えること
ユーツン村の歩みは、環境保護と経済成長は対立するものではなく、むしろ相互に支え合う関係になり得ることを示しています。採石という短期的な収入源に依存していた村が、自然環境を守る方向に舵を切った結果、長期的にはより安定した豊かさを実現しつつあるからです。
また、かつてのセメント工場をカフェなどの観光拠点に再生したように、「負の遺産」と見なされていた産業施設を、新たな魅力として生かす工夫も見逃せません。環境を回復しながら、過去の産業の痕跡をストーリーとして伝えることで、訪れる人に村の歴史を感じてもらうことができます。
ユーツン村が示す3つのポイント
- 長期的な視点での決断:一時的な収入ではなく、環境と将来世代の利益を優先したこと
- 住民参加とリーダーシップ:村委員会が方向性を示し、村人が新しい産業に挑戦したこと
- 産業遺産の再活用:セメント工場などの施設をカフェや観光拠点に変えることで、新たな価値を生み出したこと
ユーツン村の例は、中国の農村地域が環境保護と経済発展を両立させるための一つのモデルとして注目されています。世界的に環境と成長のバランスが問われる中で、「緑」を守りながら「富」を生み出すという発想は、今後の地域づくりを考えるうえで、多くの示唆を与えてくれます。
採石の村から観光の村へ。ユーツン村の静かな変化は、環境と経済の関係をもう一度捉え直すきっかけを、私たちにも投げかけているように見えます。
Reference(s):
cgtn.com








