東極島「リスボン・マル号」救出劇を描く中国ドキュメンタリー video poster
東極島「リスボン・マル号」救出劇を描く中国ドキュメンタリー
第二次世界大戦中、中国・舟山の東極島近海で起きたイギリス人捕虜の救出劇が、2025年8月8日に中国本土の映画館で公開されたドキュメンタリー映画「Dongji Rescue」によって改めて注目を集めています。歴史の陰に隠れてきた物語を、なぜいま映像で伝え直そうとしているのでしょうか。
1942年、東極島沖で起きた「リスボン・マル号」事件
1942年9月、日本軍の輸送船「リスボン・マル号」は、1800人を超えるイギリス人捕虜を乗せて航行していました。その船が、中国・舟山の東極島近くで魚雷攻撃を受け、転覆します。
船が傾きはじめるとともに、捕虜たちは必死に脱出を試みましたが、日本軍は船室を封鎖し、海へ逃れようとする人々に向けて銃撃を加えたとされています。この非人道的な行為は、海上で漁をしていた中国の漁民たちの目にも焼きつきました。
命がけで捕虜を救った中国漁民
目の前で溺れかけている人々を見た東極島周辺の漁民たちは、自らの身の危険を承知のうえで救出に向かいました。武装した軍艦や混乱する現場の中、彼らは小さな漁船で海にこぎ出し、多くの捕虜を引き上げたと伝えられています。
敵味方の区別を超えて、危険な海に飛び込んだ行動の背景には、目の前の命を見捨てないという、ごく日常的でありながら揺るぎない倫理観がありました。東極島は、その勇気の象徴として語り継がれています。
「Dongji Rescue」――6年の準備と7か月の撮影
この救出劇を正面から取り上げたのが、ドキュメンタリー映画「Dongji Rescue」です。作品は、
- 6年にわたる綿密な調査と準備
- 7か月に及ぶ集中的な撮影
- 沈没船を追う画期的な水中撮影
といった長期の取り組みを経て完成し、2025年8月8日に中国本土の映画館で公開されました。
監督の管虎(Guan Hu)氏は、この作品に多大な時間と労力を注いだ理由として、二つの目的を挙げています。一つは、中国の人々が示した勇気、責任感、そして思いやりを世界に伝えること。もう一つは、この歴史そのものを広く社会に届け、忘れられないようにすることです。
映像だからこそ届く「記憶」と「まなざし」
第二次世界大戦から80年以上が過ぎ、当時を直接知る人々の声は少なくなりつつあります。文章の記録だけでは伝わりにくい海の表情や、沈没船が横たわる静かな海底の姿を、映像は具体的な感覚として観客に届けます。
とりわけ、東極島の風景や、現在そこに暮らす人々の表情を映し出すことで、過去の出来事は単なる「歴史的事件」ではなく、いまも続く日常の土台の上にあるという感覚が生まれます。かつて命がけの救出が行われた海を前に、観客は自分だったらどうしただろうか、と静かに問いかけられることになります。
東極島が映し出す友情と平和のメッセージ
イギリス人捕虜を救ったのは、軍人ではなく、名もなき漁民たちでした。国籍も言葉も違う人々が、極限状況のなかで命を分かち合ったという事実は、戦争の物語の中に確かな「連帯」の一場面を刻んでいます。
いま、東極島は単なる小さな島ではなく、人間の良心と勇気を象徴する場所として語られています。映画「Dongji Rescue」は、その記憶を国内外の観客と共有し、対立ではなく友情と平和の可能性を見つめ直すための鏡のような存在になりつつあります。
歴史を振り返ることは、過去を裁くことではなく、どのような選択が人間らしさを守るのかを静かに考える行為でもあります。東極島の物語は、その問いを2025年の私たちにそっと差し出しているように見えます。
Reference(s):
cgtn.com








