上海で戦時木版画展 版画が刻む「抗戦」の記憶
中国・上海のChina Art Museumで、抗日戦争期の木版画に焦点を当てた特別展 Carving History – Shanghai and the New Woodcut Narratives of the War of Resistance (1931–1949) が開かれています。中国の抗日戦争および世界反ファシズム戦争勝利80周年を記念するこの展覧会は、版画というメディアがいかに歴史を刻み、人々を動員してきたのかをたどる試みです。
上海で開かれる「歴史を刻む」木版画展
2025年12月現在、この展覧会は上海の文化施設China Art Museumで開催中です。展示のテーマは、1931〜1949年の抗戦期に上海で生まれた新しい木版画運動です。観客は、激動の時代に制作された数多くの版画作品を通して、戦争と社会の変化がどのように描かれてきたのかをたどることができます。
キーワードは Carving History、すなわち「歴史を刻む」ことです。木版画という物理的に刻み込む表現を通じて、当時の人々が何を見て、何に怒り、どのような未来を願ったのかが浮かび上がります。
1920〜30年代、上海が思想と文化の交差点に
1920年代末から30年代にかけて、上海は伝統とモダニティが交差するアジア有数の都市として急速に変化しました。商業とメディアが集中するだけでなく、進歩的な思想が行き交う場ともなり、文学、演劇、美術、批評が互いに刺激し合う環境が整っていきます。
そうした土壌のなかで、抗日抵抗の気運も高まりました。文学作品や舞台芸術だけでなく、視覚芸術もまた重要な媒体となり、侵略への抵抗や社会への問題提起を担うようになります。今回の展覧会は、その中心地の一つだった上海の役割を、木版画の視点から照らし出しています。
古い技術が「社会を映す鏡」に変わるまで
木版印刷は、中国では唐代(618〜907年)にまでさかのぼる長い歴史を持つ技術です。しかし、社会的不正を告発し、大衆の意識を高めるための表現手段として本格的に活用されるようになったのは、まさにこの抗戦期でした。
紙と版木があれば制作できる木版画は、大掛かりな設備を必要とせず、比較的低コストで複製が可能です。街角の掲示物や小冊子、新聞など、さまざまな形で人々の目に触れることができました。展覧会が紹介する作品群は、古くからある技術が「社会を映す鏡」へと転換していった過程を具体的に示しています。
魯迅が見出した木版画の可能性
この新しい木版画運動の先頭に立ったのが、作家・思想家として知られる魯迅(Lu Xun, 1881〜1936)です。魯迅は、文字だけでなくイメージによっても人々の意識を揺さぶる必要があると考え、木版画を広く支持しました。
木版画は、安価に制作でき、複製も容易で、識字の有無を問わず多くの人にメッセージを届けられる媒体です。魯迅はその特性に着目し、木版画を抵抗と啓発のための道具として位置づけました。展覧会は、こうした知識人の後押しがあったからこそ、木版画が教育と社会進歩のための強力な手段になりえたことを伝えています。
戦時木版画が伝えた「急報」とメッセージ
会場には、1930〜40年代の混乱のさなかに制作された多くの作品が集められています。強い白黒のコントラストや大胆な構図、象徴的なモチーフを用いた版画は、言葉以上に直接的な訴えかけを持っていました。
こうした作品は、単なる芸術作品にとどまらず、次のような役割も担っていました。
- 各地の状況や被害を伝える「ニュース」としての役割
- 社会的不正や人々の苦しみを可視化する告発の役割
- 日本の侵略に抗い、団結を呼びかけるメッセージの役割
版を彫り、紙に刷るというプロセスの向こう側には、情報を共有し、互いを励まし合おうとする人々のネットワークがありました。展覧会は、木版画が中国の人々の抗戦を支える視覚的な言語であったことを、作品を通じて静かに物語ります。
2025年に見る「刻まれた歴史」の意味
デジタル画像が大量に流通する現在、手作業で版を刻み、一枚一枚紙に刷られた木版画を見ることは、情報との向き合い方をあらためて考えさせます。時間と労力をかけて刻まれた線の一つ一つには、その時代を生きた人たちの切実さが宿っています。
抗日戦争と世界反ファシズム戦争の勝利から80年という節目に開かれるこの展覧会は、戦争の記憶をたどるだけでなく、危機の時代に芸術が果たしうる役割について考えるきっかけも与えてくれます。隣り合う地域の歴史を、イメージを通じて静かに見つめ直すことで、今の社会をどう描いていくのかという問いも自然と立ちあがってきます。
Reference(s):
cgtn.com








